41. 緑の頭のカレ
「東雲さーんっ!」
ふいに、重い空気を吹き飛ばすように高い声が響いた。突然の大声に灯里はビクッと肩を揺らす。
声をした方を振り向くと、小動物のような緑色のマッシュルームヘアの少年が目に涙を浮かべて立っていた。
(…あ!この人!前に私から逃げた子!)
分析班に研修で初めていったときに見た、印象的な髪型の彼が立っていた。
「や、翠くん。どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもないですよぅ!なんでこんなか弱い僕が前線配置なんですかーっ!」
プルプル震える姿はリスのようだ。
「だって、翠くんは分析班随一の魔力があって、それに分解魔法の展開速度も正確さも一番なんだもの。そんな君だからこそ前線で力を発揮してもらいたいと思ったんだけど…、難しそうなら配置を変更するよ?」
「そっ、そんな!一番だなんて…僕!がんばります!」
東雲の言葉を聞いて、彼は嬉しそうに赤面した。
(う、上手く誉め転がされていない…?)
どうやら彼も東雲を慕っているようだ。ちょっと妄信的な彼の様子に灯里は心配になる。
「そうだ、翠くん、紹介するね。第七戦闘班の霧島さんと白瀬くん。今年入ったばかりだから、君と歳が近いよ。」
「は、早川翠です。よろしくお願いします…。」
先ほどまでの東雲の影に隠れるようにして、ビクビクしながら小さな声で挨拶をした姿は前回の記憶と一致する。
「白瀬蒼です、よろしくお願いします。」
「霧島灯里です!あの!早川さんはおいくつなんですか?」
どうしても気になってしまい、年齢を尋ねた。自分と同い年だろうか。でもやっぱりかなり若く見える。
「……16歳です。」
ボソッと呟かれた彼の年齢に耳を疑った。聞き間違いだろうか、灯里よりも歳下だった。
「翠くんは飛び級していてね、13歳で魔法大学校を卒業してすぐに研究職に就いたんだよ。」
(そ、それってすんごい天才なのでは…)
「飛び級なんて滅多に聞かないですよね、うわぁ、凄いなぁ!」
灯里は赤点すれすれの自分との差に、開いた口が塞がらなかった。一方の蒼は純粋に早川の凄さを、素直に褒めていた。
そんな蒼の姿を見て、人と自分を比べちゃいけないな、と灯里は思い直した。
「前線で一緒に組んだら、頑張ろう!宜しくね!」
明るい笑顔と共に灯里も早川に言葉をかける。
しかし、極度の人見知りらしい早川は、灯里の言葉にサッと顔を赤らめた。そして、小さな声で承諾の返事をするとすぐにサッと食堂から出て行ってしまった。
その後ろ姿を目で追いながら、東雲がポツリと漏らす。
「翠くんには、もうちょっと周りに頼ってもらえたらなって思ってるんだ…。研究では天才だけどさ、やっぱりまだ16歳だから。」
カタン、と席を立ちトレーを手にしながら灯里たちの方へ向き直って言った。
「歳の近い君たちなら、本音とか言いやすいかなって思うんだ。もし、一緒に戦うことがあったら気にかけてあげてもらえないかな?研究室では本当に頼れる子なんだけどね…。」
もちろんです、と返す灯里たちにお礼を言うと、東雲も食堂から去って行った。
天才にもきっと悩みがあるんだろうな…と先ほどの早川の様子を思い浮かべながら考えていると、腕につけたデバイスが震えた。
デバイスを見ると、それは橘からのメッセージだった。
『明日の朝、少し早くて悪いが8時にイミテーションドームへ来てくれないか?見せたいものがある。』
なんだろう。
蒼にもメッセージが来ているか尋ねるが、彼には届いていないらしい。
灯里にだけ追加の業務だろうか、すぐに了承の返事を送り返す。
メッセージを送り終えて顔を上げると、蒼がじっと灯里のことを見つめていた。
「なっ、なに?どうしたの?」
その真剣な眼差しにちょっと驚く。
「灯里ちゃんってさ、誰に対しても同じ笑顔で話せるし、すぐに打ち解けられるよね。」
「えっ?」
「いや、すごく良いところなんだけどさ。ちょっと…嫉妬した。」
蒼は灯里の目をじっと見つめた。ブルーサファイアのような彼の瞳に、自分の姿が映る。
「灯里ちゃんの同期は僕だけだってこと…忘れないでね?」
意味深な蒼の言葉の意味がよくわからず、灯里はとりあえず了承の返事をする。
蒼は苦笑すると、そのまま食堂を後にした。
残された灯里だけが首を傾げて呟いた。
「……同期って、そんなに特別なのかな?」
つづく




