4. 無限食堂
新しい制服に身を包んだ2人は、咲良に連れられて同じビルの違うフロアへ来ていた。
このフロアもエレベーターを降りると絨毯張りの床が広がり、それはまるで高級レストランの入り口のようだった。一歩踏み出すごとにしっかりとした絨毯の厚みが感じられ、灯里は慎重に歩をすすめた。
シャンデリアこそないが、センスのいい照明が並ぶ空間はまるで高級フレンチレストランのようだった。
咲良があいた席に座るのに続いて、灯里と白瀬も同じテーブルの向かいに腰を下ろした。
灯里も白瀬と同様に新しい白を基調とした制服に身を包んでいた。灯里の制服はフード付きで、白瀬の制服に比べて伸縮性があり、スポーティな装いだ。
「灯里ちゃんも制服似合ってるわぁ〜、はぁ、可愛い女の子は目の保養ね〜。
ここの食堂はほぼ24時間やってるから、いつでも来て頼んでね。
頼むときに手のひらをタブレットに翳せば注文者が登録されて、支払いは給料から天引きされる設定よ。」
灯里の正面に座った咲良は、テーブルに備え付けられたタブレットを操作した。
どうやらこのタブレットで昼食が注文できるらしい。
灯里は豪華なクラブハウスサンド、白瀬はローストビーフ丼、咲良は天丼を頼んだ。そう時間はかからず食事は出来上がるようだ。便利だ。
「咲良さん、僕、お水取ってきますね。」
白瀬はサッと立ち上がり、水を取りに向かった。
(あっちゃ〜、ここは私が行くべきだったかなぁ)
しまった、という顔をして白瀬の後ろ姿を灯里は目で追っている。
咲良は、白瀬の気遣いに気付いているのか、微笑ましそうにその様子を眺めていた。
灯里はぐるりと室内を見渡した。何人か早めの昼食を取っている団員が離れたテーブルに座っている。
…しかし何故こんなにどこも豪華でしつらえの良い作りなのだろうか、灯里はしっかりとした作りの天井をぼうっと眺めていた。
しばらくして各々の前に料理が運ばれてきた。
「いただきまーす!」
灯里はにこにこと手を合わせて言った。思ったよりもお腹が空いていたらしい。緊張のせいかもしれない。
クラブハウスサンドを頬張る。
あれ?と灯里は思った。
(なんだか懐かしい…)
どこかで食べた味と同じような気がするが、はっきりとしない。
もぐもぐと食べ進めていると、隣の白瀬が驚いた声で言った。
「こ、これは秘伝の"懐かしの味"の効果がかかっていますか?!」
咲良はニッコリと微笑むと
「あら、流石ね。わかっちゃった?ここのシェフ、顔は出さないけど腕は一流なの。
彼、木属性なんだけど、食べ物に珍しい効果を付加できるのよ。今月は"懐かしの味"みたいね。
毎月変わるけど、美味しく感じるように付加効果が掛けられているから、みんなこの無限の可能性を持つ、"無限食堂"のトリコなの♡」
木属性だとしても、食事に付加効果をかけられる魔術師は稀だ。
そもそも、料理が作れる魔法師は多くない。魔法師の殆どが特権階級であり、非魔法師の使用人を雇っているからだ。
こんな美味しい料理が食べられるだけでも環境保全局に就職して良かったかもしれない、と灯里は嬉しくなった。
それぞれが昼食を食べ終わった頃、1人の大柄の男性が食堂に入って来た。物凄く目立つ赤い髪を掻きむしっている。
「あ〜、なんで俺なんだよ〜他にもっと適任がいそうだろーが。」
「あらー!橘〜!」
咲良が赤髪の男性を呼んで手招きした。彼はなんとも嫌そうな顔を隠すことなく、こちらへやって来た。
「咲良さん、なんで俺がこいつらの戦闘指導役なんすか。もっと適任がいそうでしょうに。俺、攻撃特化型っすよ。」
「ふふふ、大丈夫よ、貴方は私が見込んだ浄化師なんだから♡ 2人とも紹介するわね、貴方たちの戦闘指導をしてくれる、橘 晴人。」
灯里と白瀬は橘を見上げた。先程の恭弥も大きかったが、彼よりも横も縦も大きい。
「白瀬蒼です。広域浄化型です、宜しくお願いします。」
「霧島灯里です、ええーっと浄化の型はまだ決まってません!」
白瀬に続いて灯里も挨拶をした。すると、霧島?と呟いて、橘が怪訝そうな顔をする。
「あ〜、橘、そのあたりは後で説明するから。」
と咲良が小声で囁く。なにか今の自己紹介にひっかかることがあったのだろうか、と灯里は首を傾げるが、よくわからなかった。
まぁいいか、と顔を上げると、橘がパンっと手を叩き、灯里達に向き合った。
「よし。」
橘は二人を交互に見た。
「戦闘指導役なんて面倒な仕事、正直やりたくねぇ。」
あまりにもストレートな言葉に、灯里が思わず瞬きをする。
「えぇっ…」
「でも、任されたからには手は抜かねぇよ。」
橘は少し口角を上げた。
「環境保全局の浄化師ってのは、ただ魔法が使えりゃいいってもんじゃない。」
そう言うと、白瀬の肩を軽く叩いた。
「広域浄化型のお前は、多分すぐ伸びる。」
次に灯里を見る。
「で、お前。」
「は、はい!」
「なんか面白い匂いがする。」
「……匂い?」
「才能ってのは隠しきれねぇからな。」
灯里は首を傾げた。
(え…犬なの、この人…)
「ま、細かいことはいい。今日から訓練を始めるぞ。」
橘はニヤリと笑った。
「安心しろ。死ぬほど鍛えるわけじゃねぇ。」
「……半分くらいだ。」
「えぇぇぇ?!」
灯里の悲鳴が食堂に響き渡った。
つづく




