3. 環境保全局
部屋に入るとパーテーションで区切りが作られていた。パーテーションの奥から男性のテーラーが出てきて白瀬を手招く。白瀬は奥へと向かった。
咲良は手に持っていたバインダーを開くと、パーテーション越しにテーラーへ声をかける。
「掛布さーん、白瀬くんは光、水、風の珍しい3属性持ちなの。広域浄化型だけど、オールマイティになんでも出来るから接近戦にも耐えられるように、制服の布地強度を上げておいてくれる?」
「ほーい、了解。坊主、使いたい武器はあるか?」「ありがとうございます、そうですね。どちらかといえば拳主体ですが、補助として細身のソードを使う予定です。」
(広域浄化型?せ、接近戦ってなにと戦うの、、?!)
わからない言葉ばかりの会話に灯里は目を白黒させた。そんな灯里を安心させるかのように、咲良は灯里の肩に手を置き、目を合わせた。
「説明が遅くなっちゃってごめんね、灯里ちゃん。先ずは灯里ちゃんの属性と加護についてお話ししよっか。」
「はい」
「まず、魔法の属性は学園でも習ったと思うけど、魔法師として扱える魔力の性質のこと。これによって使える魔法の種類が異なるのは知ってるよね。加護っていうのは、それとは別の性質で、魔法師のなかでもさらに使える人が少ないの。この加護を持っている魔法師が浄化師と呼ばれていて、環境保全局でその加護の力を活用してお仕事をしていまーす!」
加護、なんて初耳である。灯里は目を瞬いた。
「あれ、じゃあ私が環境保全局に来たのって…」
「せいかーい!灯里ちゃんには加護の力があるのです。加護持ちって、大体は魔法師になった後、加護の力に気がつくことが多いんだけど、灯里ちゃんと白瀬くんはもう既に加護持ちがわかっていたので、学園卒業後こちらに来てもらいましたー!」
パーテーションの向こうから白瀬が続ける。
「加護の力は"浄化"だ。機密にされているが、この世界には穢れが常に発生し続けている。その穢れが実態を持つと人へ病魔を感染させ、死に至らしめるんだ。環境保全局ではそれを浄化している国の特殊機密機関だ。この機密は五大魔貴族でも直系や中枢に近い一部の人間しか知ることができない。」
「えっ、なんで?みんなを加護の力で守っているんでしょ?すごい大切な組織じゃない。なんでこんなに悪い噂で隠されてるの?」
そんな立派な職場だと知らなかった。というより概要だけでも公開しない理由が灯里にはわからなかった。
「それはね、灯里ちゃん、"穢れ"の発生理由にあるのよ。"穢れ"は捨てられた物、人の負の感情、その他この世界で不要とみなされたものの微量のエネルギーが積もり積もって塊となると生まれるの。これはどうしても仕方ないんだけど、"穢れ"を知っている人が、負の感情を持ちすぎると"穢れ"がそのエネルギーを取り込んで急成長してしまうのよ。負の感情を制御して穢れに取り込まれないように放出する、というのが必要なんだけど、魔法師でもない一般人には出来ないのよね。」
「だから五家も国もこの情報を秘匿している。だから環境保全局は外向き何しているかよくわからない下水処理局でいいわけだ。」
話し終えると、パーテーションの向こうから白瀬が姿を現した。先ほどまで学園の制服を着ていた白瀬は、真新しい環境保全局の制服に袖を通している。白を基調とした制服に、淡い水色と銀色の刺繍が施されていた。余計な装飾は少ないが、どこか気品がある。
「おー、似合ってるじゃない、白瀬くん。」
咲良が嬉しそうに声を上げる。白瀬は少しだけ困ったように視線を逸らした。
「……ありがとうございます。」
「いやぁ、坊主は素材がいいからなぁ。魔法で破れにくいように保護付加をつけといたぞぅ」
掛布が満足そうに頷く。灯里は思わず見惚れた。
(すごい……。同い年なのに、なんだかもう立派な浄化師みたい。)
すると白瀬が灯里の視線に気がついたのか、少しだけ首を傾げた。
「どうした?」
「えっ、あ、ううん。なんでもない!」
慌てて首を振る灯里に、白瀬は小さく笑った。
「次は灯里さんの番だな。」
灯里は少し緊張しながらパーテーションの奥へと足を踏み入れた。咲良がバインダーを開いて灯里のデータを見ながら掛布へ声をかける。
「灯里ちゃんは、加護の四つの型全てが平均点なので、防御も攻撃もできるようにバランスの良い装備にしてくださ〜い!」
「はいよー。珍しいねぇどの型も持ってるなんて。」
加護にも型があるのだろうか?首を傾げる灯里に、掛布が語りかけた。
「お嬢ちゃん、加護の浄化の力には、戦闘浄化、広域浄化、解析浄化、防護・封印、の四つの型があるんだよ。大体みんなどれかひとつが突出しているのが一般的だ。しかしあんたは全部平均的なんじゃな〜。珍しいタイプじゃ。どんな浄化師になるかは、まだ誰にもわからんのぅ!」
なんとも微妙だ。特別といえば聞こえはいいかもしれないが、これじゃあ器用貧乏ではないか。なんだか釈然としない気持ちを抱えたまま、灯里は押し黙った。
(それに、こんな大事な仕事が隠されているなんて、ここで働く人たちはそれでいいのだろうか…)
採寸が終わるまで灯里は今の情報を頭だけでなく胸の内で解釈しようと、そっと目を閉じた。
つづく




