39. 連携プレー作戦
「…っく、来るぞ!全員、迎撃態勢または防御態勢に入れ!」
「防護魔法陣"諍"を展開します…!」
ファン、と分析班員を守るように一人分の小さな防護壁が現れた。
卵のような防護壁を纏った分析班員が融合個体の穢れへ向かって走り出すと、印を結んで叫んだ。
「闇陣ニの段、"分解"!」
防護壁を一瞬だけ解除し、加護を付加した分解魔法を融合個体へ叩き込む。
すかさず防護班員が彼らの前に立ち、大きめのシールドのような防護壁を張った。
分解され激しく暴れ始めた穢れの猛攻を、防護壁が真正面から受け止めた。
「分離成功!二体に分かれたぞ!今だ、行けっ霧島!!」
「はいっ!よーしっ。いっきまーす!!」
ひらりと防護壁を飛び越え、灯里は加護を付加した鞭で、二つに分裂した穢れの個体をそれぞれ打ち砕く。
『ギィィィィ…』
空気を震わせる断末魔とともに、黒い身体が霧散する。
残された黒い塵も、風にさらわれるように静かに消えていった。
---三日前---
「"連携プレー"作戦?」
灯里はホワイトボードに書かれた作戦名を読んだ。
どんな連携プレーを行うというのだろうか。
キュッキュッと、橘が手にしたマーカーでホワイトボードに"防御"、"分解"、"浄化"の三つの単語を書き記す。
「分析班の解析と実験の結果、闇魔法の"分解"をかけることで、融合個体は融合する前の穢れに分離することがわかった。」
トントン、と"分解"という文字を指し示して、続けて言った。
「そして、分離した穢れはいつも通り戦闘班で浄化することができる。し・か・し…」
あ…と白瀬が気が付いたように小さく声を漏らした。
「でも、分析班は非戦闘員です。穢れとの戦闘へ行くのは難しいのではないでしょうか…。」
橘は白瀬の顔を見て、大きく頷いた。
「ああ。当然の如く闇魔法が使える分析班の面々から猛反発が来た。『ふざけるな』『俺たちは研究員だぞ』『死ねってことか』ってな。
…それに当然だが、彼らを守って、安全に分解魔法を発動してもらえる状況を作る必要がある。」
「分析班のメンバーを守る…。」
穢れを打ち消す術を持たない分析班員を、どう守ればいいのだろう。
前線へ送り出せば、穢れの攻撃を受けるのは間違いない。
ふと、初めて融合個体に遭遇した時の事を思い出した。
…あの時、灯里は助けが来るまで卵形の防護壁のなかで少女と怪我を負った長谷を守ることができた。
「あの…、防護班に防護壁を張ってもらうのはどうでしょうか?」
灯里は思い切って提案を口にする。
そんな灯里をニッと口角を上げた橘が見つめた。
「おっ、勘がいいな。」
橘が一枚の魔法紙をホワイトボードに磁石で貼り付ける。
「霧島の言った通り、防護班に防護壁を張ってもらい、分析班を守る。
ただ、分解の魔法をぶつけるときは、一瞬防護を解かなきゃいけない。それに、分析班員が素早く融合個体に近づかなきゃいけないんだ。」
「分析班員が、防護壁を展開してもらったまま融合個体に駆け寄るのは、ちょっと難しそうですね。」
白瀬の言葉に橘は同意する。
「そうなんだ。普段訓練を受けていて戦いに慣れている戦闘班ならまだしも、分析班員達にその動きは難しい。そこで、この霧島の魔法紙が役に立つ。」
パンッと魔法紙を叩いた。"護"を"諍"に誤って描いた灯里バージョンの防護壁展開用の魔法紙だ。
(ん?どういうこと…?)
「これな、穢れからの攻撃も浄化できるだけじゃなくて、普通の防護壁より頑丈だったんだよ。だから、こいつで防護壁を展開したまま走ったりできるんだ。」
どうやら灯里の”力任せ”な魔法が、そのまま防護壁にも反映されてしまったらしい。役に立つようで嬉しいが、微妙に複雑な気持ちになる。
「灯里ちゃんの魔法紙で展開した、頑丈な防護壁を身に纏って融合個体に近づき、分解魔法をかけるときに防護壁を解く…。」
白瀬が分析班の動きをシミュレーションする。
「そう、分解魔法をかけた後は一気に退避して、防護班が展開した防護壁の中で分析班を守るって流れだ。そして分解された穢れを一気にオレたちが浄化するのさ。」
まさに連携プレーだ。なるほどそういう流れになるのかと灯里は納得した。
しかし…
「あれ...?橘さん、そうするとあの魔法紙、結構枚数が必要なんじゃ…」
サッと青ざめた灯里の肩にポンと手を乗せて橘が言った。
「悪いな、霧島!たっくさん魔法紙、描いてくれ!」
…その後灯里はドナドナと防護班へ連れて行かれたのだった。
つづく




