33. 様々な働き方
「よし!一旦説明はここまでにしようか。長々と付き合ってくれてありがとう。」
水瀬の説明は丁寧でわかりやすかった。座学が苦手な灯里も眠くならず最後まで興味を持って聞くことができた。
「じゃあ、エネルギーを魔石へ変換している様子を見に行ってみようか。」
「「はい!」」
どんな風に魔石へ変換するんだろう、ワクワクする気持ちで灯里は水瀬の後についていった。
−−−
「ここが、火のエネルギーから魔石を作成している部屋だよ。火属性は需要が高いから、交代制で一日に何百個も作るんだ。」
水瀬がドアを開くと、むわっとした熱い風が吹いた。
(あ、熱ぅ....)
部屋の中にはさらに分厚い水族館にあるようなガラスに仕切られた部屋があり、その中では何人もの火属性らしい魔法師たちがかまどへ向けて火の魔力を放出している。
かまどからはいくつもの管が伸び、蒸気が上がっている。長い管の先は下を向いており、その下には大きなトロッコのような箱が置かれていた。
「「「火陣二の段、火炎」」」
3人の魔法師が魔法陣を展開し、炎を手前のかまどの中に注ぐ。
するとかまどが赤く発光し、管へその光が吸い込まれていった。赤い光を目で追うと、管の先で光がきえ、赤いルビーのような魔石が複数トロッコの中へ落ちていく。
(うっわ〜、綺麗!)
灯里はその光景に目を輝かせた。あんな風にして魔石が作られているとは知らなかった。あれだけ魔力を放出していたら、きっと体力もかなり消耗するのだろう。
キーンコーンカーン
すると、昼休憩を知らせる鐘が響いた。もうお昼か...いつもと違う環境では時間が進むのは早いなと思いながらガラス越しに部屋を見ると、中にいた女性と目があった。
(あれ?...花園さん?)
それは学園時代によく灯里につっかかっては色々と自慢ばかりしていた、花園澪だった。
花園は他の職員と共に汗だくになって部屋から出てきた。相当中は暑いのだろう、皆薄いローブを羽織っているにも関わらず汗だくだった。
「花園さん、久しぶり。」
白瀬がさらっと声をかけた。花園は汗だくのところを見られたのが恥ずかしいのか、ローブを目深に被り直し、小さな声で返した。
「あっ蒼くん、ひ、ひさしぶり。霧島さんもお元気そうね。」
学生時代の強気な花園の姿とは似ても似つかない。というより、エリート然として涼しい顔をしていた花園が汗だくになってこうして働いている姿はとても意外だった。
「うん、花園さん、久しぶり。凄いね、あんなにたくさんの魔石を作り出しているなんて。」
灯里が思ったままそういうと、花園は顔を上げパァッっとした笑顔を見せた。
「えっ!ほんと?ありがとう。結構難しいの。」
花園は今まで灯里に見せたことのない誇らしげな表情をした。彼女が自分の仕事に誇りをもって頑張っているのが伝わってきて、灯里も純粋に嬉しくなった。
花園は灯里を見ると少し照れたように笑った。
「花園ー!いくぞー!」
とその空気を破った先輩たちの呼び声に、花園ははっとしたようで、軽く挨拶をして去っていった。
「......なんか変わったね。花園さん。」
白瀬がポツリと呟く。
「そうだね、魔石作成は入局後、一番最初に火属性の新人が放り込まれるんだけど、辛くて脱落者が出てくるんだよ。ほら、なんかうちの局のイメージと結構違う泥臭い仕事でしょ?汗だくになるし。」
水瀬がガラスの奥のかまどを眺めながら言う。
「でもそれをやり抜かないと一人前にはなれない。どんな仕事も大変なことを乗り越えないといけないからね。」
優しい水瀬の言葉の中に、仕事の厳しさを感じて、灯里はゴクリと唾を飲み込んだ。
−−−
最初のデスクスペースへ戻ってくると、黒崎が待っていた。
「水瀬さん、研修指導、お疲れ様です!昼食は任せてください、二人を案内してきますよ。」
研修に時間を割いてくれた水瀬に気を遣ったのだろう、黒崎が昼の案内を申し出た。
「ありがとう、黒崎くん、助かるよ。じゃあまた昼食が終わったらここに戻ってきてくれるかな?」
水瀬は三人に柔らかな微笑みを向けた。
(あれ...水瀬さんは食べに行かないのかな...)
水瀬はどうするんだろうか、と伺うと、デスクの上にサンドイッチと飲料ゼリーが置かれていた。なるほど、デスクで軽く済ませるのか。
「ありがとうございます、じゃあランチ、行かせてもらいます。」
灯里たちは連れ立ってこのビルのレストランフロアへ向かった。
−−−
灯里たちの後ろ姿を見送ると、水瀬はふぅ、とため息をついた。
「まさか環境保全局からウチに研修生が来るなんてね…想定外だね…」
ピリピリ…とサンドイッチの包みを破りながら水瀬は小さく呟いた。
つづく




