32. 新しい出会い
「ああ、彼は僕の従兄弟の黒崎玲央。ここで働いているから、今日は一緒に来たんだ。」
灯里の視線に気づいた白瀬が、隣に立つ金髪の男性を紹介してくれた。
派手な金髪と金色の瞳は一度見たら忘れられないはずなのに、不思議とどこか見覚えがある気がした。
「はじめまして。霧島灯里さん、だよね?蒼から話はよく聞いてるよ、よろしくね。」
白瀬よりやや背が高いものの、物腰が柔らかいせいか物凄く距離が近く感じる。
(金色王子だ……)
つい見惚れてしまったが、灯里ははっとして慌てて挨拶を返す。
「霧島灯里です!宜しくお願いします。」
「うん。それじゃあ、行こっか、研修部署まで案内するよ。」
受付に立ち寄って、ビジターカードを受け取り、三人はエレベーターに乗った。
床を除く三方がガラス張りのエレベーターは、ビル上方へ勢い良く上昇していく。
チンッと軽快な音を立てて、エレベーターがフロアに到着した。
降りた先はクリーム色の壁紙の落ち着いたオフィスであった。
所々にオレンジ色のソファや観葉植物が置かれ、フリーデスクらしい昇降式の机が、通路を挟むように立ち並んでいる。
また、コーヒーメーカーなどが置かれたカフェスペースもあり、心地良く誰もが働けそうな空間が広がっていた。
(……おお、これぞ正に"オフィス"っぽい。)
個性豊かな環境保全局のオフィスとは異なる、万人受けするその空間に灯里は感動した。
「研修先は、生成部門の解析課だったっけ?」
「うん。僕らでもできるデータ整理とかを、研修業務としてやらせてもらうんだ。」
「オッケー!僕の所属してる生成課がいつも座ってる席の、割と近くに解析課の人達もいるから探してみよう。」
社員一人ひとりの席が決まっている様子はなく、皆、その日空いている机で仕事をしているようだった。
机の上にものがごちゃごちゃ置かれておらず、スッキリしている。
キーボードを叩く音と、静かに交わされる会話だけがフロアに流れ、環境保全局とはまるで違う空気だ。
「すみませーん、今日から環境保全局から解析課へ研修に来た新人さん連れてきました!」
明るく通る声で黒崎がフロアの一角へ声をかける。
(ええっ...そんな大きな声で声かけちゃうんだ...)
こんな静かなオフィスであんな気軽に話しかけられるなんて、鋼の心臓を持っているのでは....と灯里がちらりと玲央の方をみると、彼と目があった。
ニコッ、と微笑まれ、白瀬と同じ部類の煌めきに灯里は目を細める。
(さすが親戚......)
「はーい!さっき研修通知を受け取ったよ。ずいぶん急な研修だね。」
血縁の強さに感心していると、少し離れたデスクから一人の男性が歩いてきた。
「...あっ!」
見覚えのある顔に思わず灯里は小さく声を吐いた。水色の髪をしたその人は、灯里をこのビルへ案内してくれたあの親切な男性だったのだ。
「あれっ?今朝、会ったよね。君が研修に来た新人さんだったんだ。」
「はい、霧島灯里といいます。あの、今朝はご親切にありがとうございました。」
偶然ではあったものの、朝の様子から親切な人のようだ。この二週間、この人の下でだったら、なんとかなりそうだと安心した。
「い〜な〜、水瀬さんが研修担当なんだ。俺も一緒に研修受けたいよ。」
「こらこら、黒崎くんはこれからエネルギー生成してこないとでしょ。あとで変換効率のデータ解析するからしっかりやっておいでね。」
「はーい。じゃあまたお昼に来るね。」
言葉とは裏腹に、黒崎は軽い足取りで自分の課がいる方向へ歩いて行った。
向かう途中でも色々な人に声をかけられ挨拶を交わしている彼を見て、太陽のような人だな、と灯里は思った。
「白瀬蒼です。今日からの研修期間、お世話になります。よろしくお願いいたします。」
白瀬も水瀬へ挨拶をし、二人は水瀬のデスクの両脇へ座った。
「ごめんね、二人とも。さっき出勤して初めて研修のことを知ってさ、あんまり準備ができていないんだ。」
水瀬は申し訳なさそうに眉を下げて二人へ謝る。
灯里は昨日の橘の様子から、絶対に環境保全局側の連絡遅延のせいだ、と思ったが、曖昧に笑って誤魔化した。いい人に嫌われたくない。
ちょっと待ってね、と言いながら水瀬は何やらパソコンで作業をする。
「お待たせ、小さい会議室が取れたから、そこでまずは国立エネルギー管理局の役割について説明するね。よし、行こっか。」
ペンとメモを急いで鞄から取り出し、灯里は白瀬と一緒に会議室へ向かった。
−−−
4人用の会議室へ入ると、エントランスにも浮かんでいたのと同じような横型の電光パネルが浮かんでいた。さすがエリート局、高価なパネルが至る所に設置されている。
水瀬が手をかざすとファン、と音を立ててパネルが光った。パネルにはエネルギー生成方法の図が映し出された。
「さて、二人とも。エネルギー管理局がどういったことをしているか知っているかい?」
「火・水・風・光の魔力からエネルギー生成を主に行なっていて、それを電力などに変換してエネルギーを市民へ供給している省庁、と理解しています。」
白瀬がすらすらと回答する。おお、確かそんなだった...と灯里はその説明を聞いて思い出した。
「その通り。主に市民が使うエネルギー供給が主な仕事だよ。それに付随していろんな業務があるけれど、エネルギーの供給源となる魔石を生成したり、魔力をエネルギーへ変換する時の変換効率を上げるための機械を作ったり、他国へエネルギー源の魔石を輸出したりもしているんだ。」
「僕はこのエネルギーの変換効率を上げるための解析を行っています。」
つ、とパネルのイラストを指差した。
「こういった圧縮タービンや、増幅器を通すことで、より少ない魔力で多くのエネルギーが得られることが目標なんだ。日進月歩、って感じの研究だけどね。」
エリート局というだけあって、国の根幹、人々にとってなくてはならない仕事なんだな、と灯里は感心した。
……まぁ、環境保全局だってなくてはならない仕事だけど。
声を大にしては言えないが、自分たちの仕事も大事なんだな、と心の中で改めて灯里は強く思うのだった。
つづく
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