26. 防護班
モグ…モグモグ…
咲良が用意してくれた練り切りは、紫陽花の形をしていた。紫と水色が混じった綺麗なその色は、咲良の髪の色に似ていて、品のある和菓子だった。
「灯里ちゃんは、ちゃんと制服の上着を羽織ってて偉いわね〜」
ニコニコと笑顔で灯里を見ながら、咲良は言った。
「あの、制服は必ず外任務の時は着ろ、って橘さんに言われてるんですが、なにか理由があるんですか?」
灯里は常日頃から抱いていた疑問を咲良にぶつけた。
あのいかにも体育会系!という感じの戦闘班だから、薄着を好みそうなのだが、全員いつもきちんと制服を着用しているのだ。
「実はね、私たちが着ているこの制服には、ここの防護班で紡いだ特殊な糸が使われているの。制服を着ることで、加護や強い魔力を持たない人には、私たちを認識しにくくしているの。」
(認識できない……?)
灯里は首を傾げた。
「…灯里ちゃん、環境保全局に入るまで、この目立った制服の人達を街で見かけたことある?」
「いえ…そういえば、これだけ外で任務していれば見かけそうなのに、見たことないですね。」
「そうでしょ?穢れと同時に、私たちの存在も広く知られるわけにはいかないの。だから私たちはいつもこの制服を着用するのよ。」
(そんな意味があったんだ…)
灯里は自分の制服の袖を見つめた。白い生地は肌触りが良く、しっかりしているが重たくない。わざわざ手で紡いだ特殊な糸が使われているなんて知らなかった。
灯里が和菓子を食べ終え、一息着くと、咲良が防護班の内部を案内してくれることになった。
咲良に連れられて衝立の間を歩いていく。静かだが、糸を紡ぐカラカラという音や、機織りのパタンパタン、という優しい音が聞こえてくる。
糸や布の製造班を回った後、防護魔法紙を作成する部署へと向かった。灯里は全ての加護のタイプが使え、防護壁を展開できるのでこの魔法紙を使ったことがない。しかし、防護魔法紙がどうやって作られているのか、興味があった。
イミテーションドームでの訓練の時、橘が簡易防護壁を魔法紙を使って展開していた。魔法紙は適正のない人でも簡易的な防護壁を展開できるため、現場では重宝されている。
灯里たちは衝立の奥に足を踏み入れた。想像以上に魔法紙の作成場所はとても静かで、少し怯んでしまう。
広い机や畳にそれぞれ大きな厚目の羊皮紙が広がり、濃い紫のインクがその上を滑るように走っていく。魔法陣の紋様がひとつ、完成するたびにホワッと柔らかく紫色に発光した。
儀式めいた清巌な空気が漂い、声を発することが憚れる中、咲良は灯里の手を引いて言った。
「灯里ちゃん、一枚、魔法紙を試しに描いてみよっか。」
自分にも描けるのだろうか?全く出来る気がしなかったが、いったん進められるがまま、座布団に正座して机に向き合った。
咲良が描きながら一枚の羊皮紙へスラスラと魔法陣を描いていく。魔法陣が完成するとホワ、と紫色に光った。
「こうやって光れば、この魔法紙は完成。浄化師がこれに加護を付加して発動させれば、穢れの弱い攻撃なら防げる簡易防護壁を作り出せるわ。」
「やってみます!」
カリカリ…カリカリ…
灯里は早速一枚目を描き上げた...が、光らなかった。
「最初はみんな光らないものよ〜大丈夫。何枚か描けば光るわ!」
カリカリ...
二枚、三枚、四枚......
十枚。
十五枚。
二十枚。
一向に魔法陣が光る気配がない。
「これで...三十枚目っ!ひかれ〜〜〜!」
咲良に教えてもらった通りに、手本を真似して加護を籠めたものの、うまくいかない。
「ぐぬぬぬぬ...」
何がおかしいのだろう、灯里はアドバイスをもらおうと咲良を見た。しかし咲良は困ったように灯里の魔法陣を見つめ、悩んだように黙り込んでいる。なにかが不味かったのだろうか。
「……傷つかないで聞いて欲しいんだけど…、これは……使え無さそうだわ。」
ガーン…
灯里は魔法陣を描く才能が壊滅的だった、、。
…しかし、その時、最後に描いた魔法陣がホワッと紫色と金色の光を帯びて光った。
「あれ...?」
灯里と咲良が最後の魔法陣を覗き込む。咲良がその模様をじっくりと観察すると、一つの魔法陣の文字が間違っていた。
「灯里ちゃん、ここ、"護"の文字が"諍"になっているわ...」
何枚も描いているうちに見本を見ずに描いてしまっていたせいで、誤字になっていたようだ。
「あっ、すみません。写し間違えていました!あれ...? でも、これ光りましたよね。」
「そうなのよね、一体どんな効果があるのかしら...。平安時代から受け継がれてきた魔法陣だから、新しいものなんて滅多に生まれないのよ。」
怪我の功名なのだろうか、しかしこの魔法陣の効果がわからない。
「もう何枚か同じものを描いてみてくれる?明日ドームで発動させてみましょ。」
「はい!」
灯里は痺れる足をもぞもぞさせながら、新しい羊皮紙を手にした。
つづく
防護班のストーリー、お楽しみいただけたでしょうか。
部署ごとの色がかなり異なっています!
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