22. お見舞い
コンコンッ
灯里は長谷の病室をノックした。
昨日のここへ運び込まれた長谷の青白い顔が脳裏をよぎり、ギュッと目を瞑った。
「はーい!どぉぞ〜!」
目の前の扉が勢いよくガラッと開かれた。
灯里の鼻先スレスレに長谷の顔がヌッと現れる。
「わっ!わっ!わっ!長谷さん!もう歩いて大丈夫なんですか?!」
灯里は驚いて二、三歩後ずさる。
「あはは、びっくりした?うん。もう全然大丈夫!ほらっ!」
そう言って、ぴょんぴょんその場で長谷はジャンプした。
「長谷くーーーーん!まだ今日くらいは安静にしててよーーー!貧血だけは藍川先生の力だけじゃ完全回復しないんだから〜」
すかさずナースステーションにいる医療班のスタッフに怒られ、長谷はペロリと舌を出した。
「アカリン、中入ってよ。個室だからさ〜、快適なんだよ〜」
灯里は病室に足を踏み入れた。昨日は戦場のように感じたその部屋は、窓から光が差し込むあたたかな空間だった。
長谷がベッドに腰掛けるのを見て、灯里はガバッと頭を下げた。
「昨日は勝手に突っ走ってしまって申し訳ありませんでした!」
長谷は灯里が下げた頭を見つめて、暫く考えると言った。
「いや。うん、確かにアカリンはオレに声かけをせずに、女の子のとこに飛び出していった。あれはちょっと失敗だったけどさ、あの時、オレに声かける暇、ぶっちゃけなかったよな。」
灯里の肩を押して顔を上げさせた。
「だからさ、行動についての反省は多少あるけど、あれはミスじゃなかったとオレは思うよ。」
それに…と長谷は続ける。
「オレもあんな穢れの個体、初めてだったんだ。大きくないけど、知能?みたいなのが発達してて、オレの動きを予測して動いてたんだ。」
…え?と灯里は長谷の顔を見た。
長谷は悔しそうに顔を歪めていた。
「サイズ的にそんなに強くないだろうっていう、油断がオレにもあったかもしれないし、あの程度にやられてちゃオレもまだまだ実力不足だったんだ…」
灯里の右手を軽く握り、長谷は続ける。
「アカリン、防護壁でオレのことを守ってくれてありがとう。アカリンのお陰で、オレはいま生きてる。」
……ポタ、…ポタ、、
止まったと思っていた涙が再び溢れた。
純粋に、この人が生きてて良かったと、安堵した。
長谷は少し困ったように笑うと、泣きじゃくる灯里の頭をぽんぽんと軽く叩く。
ひっく、ひっく、、、
灯里が泣き止むまで、長谷は灯里のそばに佇んでいた。
---
灯里が落ち着くと、長谷は、病人用の食事は味が薄くて美味しくない、とか、医療班はイケメンにしか優しくないんだ、などいろんな話をしてくれた。
灯里はその話一つ一つに耳を傾け、相槌を打って、笑った。
たわいもない話なのに、不思議と昨日までとは違って聞こえた。
命を失う怖さを知ったからだろうか。
当たり前の会話が、すごく大切に感じられた。
コココンッ
特徴的なノックと共に、藍川と橘が部屋に入ってきた。
「長谷クーン!退院前チェックだよ〜」
明るい声で藍川が長谷の両手首を、脈を測るようにして触る。
ファン、と腕から心臓に向けて紫色の光が走る。
ふむふむ、と顎に手をやりながら、藍川は持ってきたタブレットに何かを打ち込んでいる。
橘はどかっとベッド脇の椅子に腰を下ろした。
「うん。もう大丈夫!千景さんの応急処置が適切だったこともあって、体内の穢れは完全に浄化されているよ。」
藍川はにっこりと笑って長谷を見た。
藍川の言葉を聞いて、長谷はホッと息を吐いた。
「ハァ〜、良かったっす。流石に穢れが身体に残っちゃってたら戦闘班から除隊かなって思ってました。」
「こんな優男だが、こいつの腕は確かだ。安心して良いぞ、長谷。」
「優男は余計だよ、橘。」
藍川は口を尖らせた。
「ふふっ」
灯里は二人のやりとりに思わず笑ってしまった。
しん…と静まってしまったので、3人を見ると3人とも各々嬉しそうに微笑んでいる。
(…あれ?なんか私変だったかな…?)
首を傾げて3人を見ると、3人ともなんだか嬉しそうだ。
(ま、いっか…。)
灯里は微笑んでいる3人に向かって微笑みを返した。
(ずっとこんな穏やかな日が続けば良いのに…)
そんな中、ポツン、と先ほどの長谷の言葉が、胸の奥で小さな黒い染みとなり、じわじわと広がっていく。
-知能?みたいなのが発達してて、オレの動きを予測して動いてた-
不穏な足音が少しずつ迫っているような気がした。
つづく
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