21. 浮上
--融合個体との遭遇の翌朝、灯里は驚くほど寝坊した--
「……ふ、ふぁ〜…ハッ、、いま、なんじ…ぃぃいっ!!!」
10時を指している時計を見て、慌てて通信用デバイスを見る。
「よ、よかったぁぁ…今日公休日だ…。」
ヘナヘナと力が抜け、ベッドにポスッと再び仰向けに倒れ込んだ。
泣き腫らした目が痛い。それにまだ胸の奥も重い。でも、もう涙は出なかった。
ぐぅぅぅ…
お腹がなった。
その途端、ものすごく空腹であることに気がついた。
(なんか食べるもの…)
部屋中をうろうろ彷徨うが、食糧はどこにも見当たらない。
学生の頃は、栄養食品をよく買い溜めしていたが、ここへきてから食堂にお世話になりっぱなしだったことに今更ながら気がついた。
(仕方ない、引き篭もりたいけどこのままだと餓死する…)
正直目も腫れているし、髪はボサボサだし、今日は一歩も外に出たくない。
背に腹は変えられず、灯里はお気に入りのデニムにラフな生成りのシャツを羽織った。
軽くメイクをして、さらに腫れぼったい目を誤魔化すために眼鏡をかけた。
素足にパンプスを履き、ペタペタと廊下を歩く。
目指すは無限食堂である。
空腹が灯里を突き動かしていた。
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朝食には遅く、昼食にはやや早い時間のおかげで食堂は人がまばらだった。
いきなり知り合いに会わなくても良さそうな人の少なさに、灯里はホッと息を吐いた。
今日は誰にも「大丈夫?」なんて聞かれたくなかった。
窓際の奥の方へ座り、タブレットを眺める。
むくむくと食欲が湧き、何品でも食べれそうな気持ちになる。
もうこうなったらなんでも好きなものを食べよう!そう心に決めて注文をした。
…ガヤガヤ…
何か好きなものでも買っちゃおうかな…と私用のスマホを弄んでいると、食堂の入り口付近が賑やかになった。
「しっらっせっくーーーん!」
「何食べるのーーー?」
「わたしたちのオススメは、桃のパフェ!」
「美味しいよ美味しいよお〜♡」
「あ、いや、普通に昼ごはんを…」
「お昼ご飯は何系〜?」
「ローストビーフかな?」
「やっぱり白瀬くんは肉食かなぁ〜?」
「えっ、えええ?」
「…オイオイ、ウチの新人をいびんなよ〜」
「そんなことしてないよ〜橘班長〜!」
「そうそう!白瀬くん可愛いから声かけただけだもーん!」
「お休みの日にお見舞い来てて、優しかったしねーっ」
「俺も居たぜ…」
「班長は気づかなかった〜」
「うん、ぜんぜん気づかなかった〜」
「可愛いものしか目に入りませーん!」
医療班のお姉様方に囲まれた白瀬と、その後に橘が続いて食堂へ入ってきた。
パチ、と白瀬と目が合った。
白瀬はものすごい勢いでお姉様方に頭を下げると灯里の座るテーブルにやって来た。
「霧島さんっ、ここ座っていい?」
あまりにも必死のその形相に、誰にも会いたくなかったことも灯里は頭からすっぽりと抜け、
「う、うん!もちろん!」
元気よく同席を許していた。
「よっ、霧島もこれから昼飯か?」
白瀬の横に橘も腰を下ろした。
「はい。寝坊して、朝ごはんも食べ損ねちゃったので。もうお腹ぺこぺこで…」
少し照れたように灯里は笑って答えた。
(あ、なんだ私、いつもみたいに笑えるじゃん。)
普通に受け答えができた自分にホッとする。
真剣にメニューを見ていた白瀬がふと顔を上げた。
じぃっと灯里の顔を見つめる。
泣いたのがバレたのでは、と灯里は顔を少しこわばらせた、が。
「…霧島さん、眼鏡、似合うね。可愛いよ。」
キラキラの王子スマイルが目の前に輝いていた。
(うっ…今の私にはいつもより一層眩しいっ…)
「あっ、ありがとう。」
少し照れ臭くなって、灯里は俯いた。
すると、ジュージューという音と共に、香ばしい香りが漂って来た。
「お待たせしました〜ハンバーグステーキ定食と桃のパフェでーす!」
灯里の目の前に鉄板に乗ったハンバーグとかなり大きな桃のパフェがやって来た。
まだ橘達の食事は来ない。
「ほら、熱々のうちに食べちゃいな。美味しそうだな!」
橘が灯里に食べるよう勧めてくれる。
灯里は遠慮なくハンバーグにナイフを入れた、口に入れると…
(うっわ、美味し〜ぃ!これはきっとカロリーも凄いだろうけど、"罪深い"いい味だぁ〜。昨日は何も食べる気がしなかったのに、どんどん食べたくなる!!)
灯里は黙々と食べ続けた。
ひと息ついて顔を上げると、橘にはカツ丼、白瀬にはホッケ定食が運ばれていた。
「白瀬くん、結構渋いね。ホッケにしたんだ。」
「うん!ホッケ、好きなんだよね、似合わないって言われちゃうんだけど。」
綺麗にホッケの身をほぐしながら、白瀬はニコニコして言った。
美味しいものは、人の心を温めてくれる。
灯里はお腹が満たされるにつれ、気持ちが明るくなっていった。
灯里はパフェに口をつけながら、尋ねた。
「橘さん達はさっきまで長谷さんとこに行ってたんですか?」
「あぁ、長谷、ピンピンしてたぞ〜!ただあっちで出される飯はあんまり美味くないから、ブーブー文句垂れてたけどな。」
「私もあとで行ってきます。」
「おう、そうしてやってくれたらアイツも喜ぶよ!」
ニカッと橘は笑った。
大きなパフェも灯里のお腹に全て収まり、エネルギーが身体に満ちていくのを感じる。
よし!これなら大丈夫そうだ、灯里はニッコリと橘達へ笑い返した。
「…ところで白瀬くん、なんであんなに大人気なの??」
…ブホッ
思わずというように吹き出した橘を、ジトッとした目で白瀬は睨んで言った。
「………昔医療班で預かってた青い目のペルシャネコに似てるんだって……」
つづく
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