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彷徨える貴方  作者: 黒井基治
第2章 4部 北の大陸 へヴィラ編
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第80話 麗しの君

ウラドは、怒りに満ちた表情で瞼が引きつる。そして、大股で彼に近づく。そして、何の悪びれる様子もなく、愛おしそうにサタエルの髪を撫でる、ベリアールの胸ぐらをつかんだ。彼は怒鳴る。


「今更、友人面するな!なんでそんなことしたんだ!よくそんな顔で!看病しているなんて言えたな!」


「なんで?」


ベリアールは彼の手を握る。


「必要だからだよ。無の國で、彼女を刺したのは、テナちゃんと君たちを合流させるため。看病しているのは、友人が死なないようにするため。ごく普通だろ?」


「普通なわけない。気狂いだよ。」


彼は眉間にしわを寄せ、吐き捨てた。ベリアールは、少し肩を落とす。だが落胆の色は見えない。彼はそのまま、ウラドの手をぐっと握りしめた。薬指と中指の間の骨を、爪を立てて食い込ませた。鈍痛と鋭い痛みの中間のような、痛みに、ウラドは力を込められなくなった。思わず手を放す。ベリアールは、襟元を丁寧に直しながら、ベットのふちに座り込む。


「ほら、立ち話は良くない。お茶はいかが?」


「いらないよ。君からの茶なんて。君は、あまりにも僕たちに隠し事をしすぎた。」


ベリアールは、少し頷きながら、首を傾げた。ダイアンサスを手にし、そばにあった棚の上の花瓶に差し込んだ。何も語ろうとしないベリアールに痺れを切らし、ウラドは、はきはきと語る。


「カインの日記に意味がないのなら、回収しようとは思わない。君にとって、価値があったんだ。あの日記は。カインの日記の筆者が、まぎれもないカインである可能性は本来低い。なのに、へヴィラも君も、執拗にカインの日記を求めた。カインは――――!実在するんじゃないのかい?」


「――――カインは存在しないよ。聖遺物に神性があるのかわからないのに、人はそれにあやかる。同じ仕組みだ。」


「いない証拠は?日記の言語は、この世界の言語の源流だ。だとしたら、言語が統一されていた時代の物のはずだ。歴史上、すべての言語が、一つであった時代は一つしかない!」


彼は静かに口を開く。


「バベルの塔――――」


「あの世界が、実在するとでもいうのかい?証明されたら、神が実在していたと言ってしまうではないか!」


「その通り。神は実在しうると言えるだろうね。だけど、神の存在を証明しても、結局は、神の力が人間でも使えてしまうことは変わらない。どのみち、神は失墜するよ。」


「カインの日記がある。あれは神と接触した人間だ。」


「日記の中身は神との会話ではないよ。あれは、単なる日記だ。」


ウラドは、少し俯きうっすらと瞼を見せるベリアールを見た。頭の中がやけに重たく、胸の中は違和感で濁流が巡っている。彼は、疑念にみちた眼差しで言う。


「――――君は、読めるんだね?あれが。僕は断片しか読めなかった。もし、神が存在するのなら、接触した人類たちも存在することになる!カインはどこにいるんだ!?」


「――十分だよ。」


彼はゆっくり立ち上がる。終始彼は、どこか疲れたような、抜けたような態度だった。二人を横切り、彼はドアに手をかけた。ふと振り返り、彼はサタエルに目を向け、優しい声で言う。


「明日は、学会があるから。君が治るころには、麦も金色になっているだろう。そしたら、一緒に見に行こうね。」


――――バタンッ!


静寂が泳ぎだした。ウラドはしばらくの間、ドアを睨みつけていたが、少ししてサタエルを見た。彼女は彼を見上げながら、涙を流していた。感動なのか、懺悔なのかは、彼には分らなかった。ウラドは隣に近づき、跪く。泣きながら、サタエルは左手を差し出す。褐色と色白の混在した手は、いつもよりやけに美しかった。


「ウ、ウラド。」


サタエルは手を握ったまま、ドアを一瞥してから、小声で言う。


「彼は一度も嘘は言っていないわ――――私たちに悪意すらない。でも隠している。」


「サタエル、君は何か知ってるんだね?」


サタエルは、少しドアの向こうを見るように、一瞥した。彼女は大きく瞬きをして、ゆっくり語る。


「貴方の方舟は、私が作った。その時、貴方が虚ろにならないように、私とベリアールで補った。私は貴方に、人間への嫌悪感を残してしまった。彼が貴方に残したものは、あるひとつの意志――――」


「それは?」


「――――神への憎悪。」


一瞬、背骨が掴まれたような、ゾワゾワとした感覚が下から這い回ってきた。ウラドは大きく息を吸いこみ、思いっきり振り返る。当然誰もいないが、何かあった気がした。サタエルはウラドの手を強く握りしめた。


「気をつけて。意志に飲まれちゃダメ。貴方の意志を、よく見て。」


彼女は手を放した。ウラドは振り返ると、耳をそば立てながら警戒してくれていたティナが、少し会釈する。彼女もまた、小声で言う。


「テナナが見たものは、想像以上にとんでもないものでしたね。」


「あぁ。でも、僕たちは向こうにはいかないよ。」


ティナは首をかしげる。


「なぜですか?」


「どっちに転がったって、意志が狂信的であることに変わりない。僕は、この決断に納得してはいる。君が承服できないのなら、決断してもいい。君には、人生がある。」


「――――お供させていただきます。ウラドさん。」


ティナはぺこりと、深く一礼した。彼も頷くと、サタエルはぶわっと涙を流した。この美しき光景に。彼女は左手をできるだけ伸ばし、ある杖を召還した。黒い木軸に、明るい茶色の木で魔法石の土台が装飾されている。下部には鉄でおおわれている。澄み切った水面のような魔法石は、凛凛と輝いている。彼女はかすれた声で言う。


「お願い。」


ウラドは杖を受け取った。魔法石が水の中に入った血のように、次第に赤く色を帯び始める。魔力がすっと杖全体に川のように流れ始めるのを、肌で感じた。ようやく、ちゃんとした杖を手にした。


彼は力強く握りしめた。

ご高覧ありがとうございます。


最近、様々な物書きさんと交流してて思います。

陽キャだなぁ、と。あんなに沢山話せるのは凄いと思ってます。どうしても言葉につまるというか、なんて言葉にしたら良いのか分からなくなるんですよね。、、、いや書いてるのは、考えながら書いてるので、何とかなってるのです。


話がだいぶ神話のようになってきましたね。僕も思います。壮大だなと。楽しんでくださると、幸いです。次回もまた壮大になってるかもですが、お楽しみに。

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