第69話 宝石 5
沈黙が流れる。ウラジミールはつばを飲み込み、冷や汗を流した。あの魔力、全く揺らいでいない。なぜこんなにも冷静で、重々しいんだ。凪すら起きていない水面のようで、不気味だ。
ギルデロイは軽くため息をつき、杖で床を突く。
バゴォォォォォン――――!!!!!
床が轟音と共に瓦礫となって割れた。ウラジミールはふらつきながらも、体勢を整え、人の大きさほどある瓦礫を片手で持ち上げ、そのまま投げる。ギルデロイはその場で仁王立ちしたまま杖を向けて詠唱した。
【雷霆】
地面に降り注ぐ青白い雷が、あたりを破壊しつくしている。瓦礫も打ち砕かれ、屋敷の上空の雲を散らす。星が瞬いていた。轟音が響き、突風も吹きすさび始めた。もはや災害そのものだ。ウラジミールは雷なぞ気にも留めず、今度は思いっきり地面を蹴飛ばして、彼のほうへ突進した。そして下から拳を振り上げる。
バキバキバキィィィィ!!!!
彼が拳を振り上げたとき、一閃の真っ黒な雷が落ちた。それはまるで空を破らんとするような轟音となって響く。白と黒の雷が交差し、あたりを蹂躙していく。ギルデロイは拳を難なく回避して距離を取った。それを追うようにして、黒い雷が降り注いだ。彼は防御結界を展開することなく、それでいて周囲をよく見た。ウラジミールの雷は縦横無尽に迸る。だが、ギルデロイの雷はこの屋敷と、ウラジミールの雷を相殺する形で降っている。
「お前に、この歴史を歩く覚悟はあるのか?!あ゛?!」
「ねぇなら゛やらねぇよ!!!」
善のためなら、俺は神でも何でも殺してやる。
ウラジミールは瓦礫を投げる。ギルデロイは一閃の雷を落とす。だが眼前に瞬間移動するように入り込んだウラジミールがいた。両者、共に拳を合わせる。
雷が踊り、辺りの家屋を蹂躙していく。接触した雷により、辺りは色がなくなっている。人々は悲鳴をあげて逃げ惑う。非難を呼びかけているのは、ヘヴィラの聖導師達と、ギルデロイの部下達だった。聖導師は慄き、部下達は呆れ笑いを浮かべた。
一方ウラジミールはこの状況が、ギルデロイの思惑通りであると焦っていた。彼は勘づいている。ウラジミールがヘヴィラに行こうとしてるのを。何か打開策がないとまずい。ウラジミールは、詠唱した。
【水を出す魔法】
その時、屋敷の周りにぷかぷかと水があふれだした。ギルデロイは言う。
「人間の魔法は杖なしではまともな制御もできない。何の真似だか知らぬが、もう良しておけ。」
ウラジミールは冷や汗をかき、片方の口角だけ上げた。
「うるせぇ。俺は反抗期な゛んだよ。」
ギルデロイは軽くため息をつく。
「第一反抗期か、なるほど。」
ギルデロイの魔力は、ここから3m先だ。ウラジミールはそのまま黒い雷を振り落とした。水は急激に煙のようになっていき、消えていった。煙のように巻き上げられたのち、奴の顔が見える。ほくそ笑んでおり、癪に触る。
ウラジミールはすかさず瓦礫を投げた。それがギルデロイの眼前にまで来たとき、彼はまた詠唱する。
【叱責の炎】
ボォォォォ――――ン!!!
爆発音が響いた。ウラジミールは土煙にまかれながら必死に屋敷の外へ走った。急がねば、もう時間稼ぎに付き合ってはいられない。ゼェゼェと息を切らしながら走った。瓦礫がうまく壊れたおかげで砂塵になっている。土煙が晴れたとき、その向こうには誰もいなかった。やはり災害に等しき様相であったため、人間は、皆逃げたのだろう。彼はそのまま路地の闇の中へ入った。
一方ギルデロイはその方へ走っていくのを、魔力探知で知覚していた。彼は吹き抜けていく砂塵の中で、少し疲れたように佇んでいた。
「–––––行ったな。」
彼は大階段の方へ戻る。そこはもう瓦礫の山で、数段しか原型が残っていなかった。彼はそこに座り込んだ。砂塵が舞う中、彼は呆然としていた。
「とんでもないイヤイヤ期だったなぁ。」
彼は哀愁漂う様相で、辺りを見つめていた。だが、不意に指をクルッと空中で回す。そして詠唱した。
【修復する魔法】
すると、ガタガタと音を立てながら、瓦礫達が空中を舞い、元の形に戻っていく。まるでパズルのようだ。大階段を軸に、壁、床、天井が出来上がっていく。錬金術における水素爆発を用いた撹乱、だいぶ上達したようだ。彼との会話をあれこれと思い起こす。悲しげに微笑みながら、ギルデロイは語る。
「善のために成すことをやる––––お前らしいよ。ウラジミール。」
ギルデロイは軽く微笑みながら、胸ポケットからある楕円のロケットを取り出す。金色の蓋を開けると、そこにはミラーファの小さな写真がはめ込まれていた。反対の蓋には、昔ウラジミールがくれた、 の押し花があった。彼は悲しげに笑いかけながら言う。
「お前に似て良かったよ。俺に似てなくて良かった−−−−−本当に。」
彼が進むごとに、床の大理石は再生し、足元に散らばったシャンデリアの宝石が、雨粒のように集まり、そして円をなし、上へ上がった。
「−−−−−我が息子よ。俺の意思で動くように。お前は––––お前の善で動くんだ。それらのぶつかり合いこそが––––歴史だ。」
ギルデロイは大きく息を吐いた。決して落胆などではなく、込み上がった悲しみを吐き出すようなものだった。足元に落ちたぬいぐるみを拾う。泥まみれになったサメのぬいぐるみも、また布が集まり青い糸が繕われていく。4年前の誕生日で与えた物だ。軽く腕に抱けるほどの大きさで、寝る時に一緒だった。
ギルデロイはそのぬいぐるみを見つめた後、また前を見る。まっさらになった土地が次第に石畳が敷かれていく。ウラジミールの足跡が残る泥も、綺麗な土に戻っていく。そして、視界が白い壁に囲まれていく。
「人は、何にだってなれる。俺が『敵』となったように。」
杖が戻ってきた。杖には紫の女物のネックレスが掛けられている。ギルデロイは、花を愛でるように目を細める。
「お前は『宝石』だよ。−−−−俺と母さんの。」
彼は乾いた笑いをする。目は虚で、芳しくない。
「だからこそ、行ってほしくはなかった。この歴史は−−−−危険すぎる。ベリアールは、何かを隠している。故にこの裏切りが起きたのだ。」
ミラーファよ。俺は誓うぞ。もし『俺たちの』息子に何かあれば、俺は神でも何でも殺すさ。
ご高覧ありがとう御座います!
壮絶な親子喧嘩でしたね。友人達と話を聞いている時に、親との喧嘩でものを投げ合ったり、取っ組み合いになる方もいるようなので、参考にいたしました。
小噺として、龍人には各々属性みたいなのがあります。これは人間にもあります。魔法の基礎である属性は人によって得意不得意があります。ウラドは土、ティナは水みたいな感じです。ちなみに、龍人は得意な属性で攻撃を受けてもへっちゃらなのです。
ウラジミールの得意属性は雷です。
次回もお楽しみに!!




