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彷徨える貴方  作者: 黒井基治
第2章4部 北の大陸 学会編
63/64

第63話 駄作 中

ウラドは枝を向けた。魔人は大笑いしながら、大剣を振り下ろす。大振りになりがちな大剣を、最小限の隙まで抑えている。ウラドは詠唱する。


        【串刺しにする魔法(ドゥルゴヴィシュデ)


ドゴゴゴゴォ!!!


土が棘のように隆起した。その隙にウラドは距離をとる。ティナが奴の背後に回る。真っ白な小太刀で、奴の腹を突き刺そうとした。だが奴はギョロリとこちらを見下ろすと、その小太刀の刄を握りしめる。互いに鬩ぎ合う中、魔人はティナの顔に近づいて言う。


「軽い!!」


ゴキゴキキィィ!


「ヴッッッッ!!」


ティナは腹蹴りを喰らい、湖の向こうの木まで吹っ飛んでいった。奴が踏ん張って彼女の方へ飛んで行こうとした時、テナナが前に立ち、詠唱する。


       【凍てつかせる魔法(ダルドゥメルドゥル)


パキパキパキ–––!


奴の足元から膝にかけて、氷が付き纏い始めた。奴は目を少し丸くしたが、あの高揚感のある顔が崩れる事はなかった。未だ凍っていない右足を振り上げると、思いっきり地面を踏む。爆発音と土煙が立ち込める中、奴は氷から脱出したのだ。ウラドは攻撃を繰り出したが、奴ら難なく大剣で弾き飛ばした。そして、テナナの首を鷲掴みにする。


「お前では相手にならん!!」


テナナは歯を食いしばりながら僅かに詠唱する。


      【静電気を起こす魔法(グローズヌイ)


パチィ!!


魔人の腕を掴んだテナナがそう詠唱すると、奴の腕に小さな雷が迸った。奴は思わず手を離した。テナナはすぐさま杖を向けたが、奴はまた笑った。


「馬鹿な奴だ!小手先ばかり気にしてないで、雷霆(ケラウロス)を放てば良いものを!!!」


テナナは驚愕した。コイツはやはり強者であると。テナナは手を伸ばし詠唱する。


         【封じたまえ】


刹那、奴の体が淡い橙に包まれると、腕が動かなくなった。だがそれも一瞬だった。テナナは冷や汗をかく。


「魔人に加護は通じないの?!」


魔人はテナナの杖を奪うと、それをへし折り、彼女を鍔で脳天を思いっきり叩いた。視界がピカっと光るような気がした。テナナはそのまま気を失い地面に倒れた。


頭を串刺しにする前に、ウラドが反撃した。奴はそれを弾き飛ばす。そして剣を召喚すると、小回りのきく動きで攻撃を弾き飛ばし、距離を詰めてくる。ティナが脇腹を狙って槍で薙ぎ払うも、片手間で流される。近接武器を使う魔人はやはり、人間に属するもの達とは一線を画す強さだ。


ウラドは後ろに下がりながら、土を隆起させ、雷霆を落とし続ける。奴は木の下にかわしたり、遮蔽物として利用したりなど隙がない。完全に防戦一方、こちらが押されつつある。


「ウラドさん!!!!」


ティナは木の上から小太刀に変形させた状態で、奴目掛けて突進し振り翳した。


ガキィィィ––––!!!


両者鍔迫り合う。火花が散るほどの勢いと力だ。ティナは焦りで手が震え、汗が流れる。反対に、魔人は飄々としている。バチンッと剣が跳ね返った時、ティナはすぐに距離を取ろうとしたが、一瞬遅かった。奴に腕を掴まれ、そのまま剣が振り翳される。


「ティナ!!!」


その時に、ウラドが前に出た。奴の腕力に勝てるか自信はないが、戦力を失うわけにはいかない。ウラドは防御結界を顔面だけに展開した。ジリジリと鳴り響きながら続く鍔迫り合いだ。ウラドの足元が地面に減り込んでいく。防御結界は魔力による粒子衝突には強い。しかし、串刺しにする魔法(ドゥルゴヴィシュデ)のような物理的な攻撃には魔導士本人の魔力や、防御結界の密度、複雑さを要する。このままでは持たない。ウラドの足元が徐々にめり込んでいく。彼は歯を食いしばり、ひたすらに耐える。だが結界はガラスのようにミシミシと悲鳴を上げる。もう、魔力が持たない。


奴はケタケタと笑った。テナナは頭から血を流し、地面を濡らしている。ティナは立ち上がれない様子だ。まずいこれでは−−−!


ウラドは思わず目を瞑った。


一瞬−−−−魔力を感じた。奴も、ウラドも右上の空を見上げた。月が高く昇っている。星も瞬いている。その中で黒い何かが飛んでいた。黒い星、それは人の形を成してこちらに飛び込んできた。


「ロキ−−−−!」


ロキは盾を構え、魔人の首元を蹴り飛ばす。


ゴォォォォォ!!!バキバキ!!ズザザザァァァ!!


魔人は木々を貫いてぶっ飛び、地面に倒れ込んだ。


「敵対象を認識。状況は?」


「テナナがやられた。早めに手を打たないと−−−!」


「敵を抹殺する。」


魔人はふらつきながら立ち上がる。鼻から血を流す。そして奴は血の混じった唾を吐き捨てた。初めは睨みつけていたが、ロキを見た途端、懐かしさでまた笑みを浮かべた。血まみれの顔で笑みを浮かべる奴は、狂気に満ちていた。


「会ったな。お前。良き獲物よ。」


「ヨレネスの−−−−」


「左様。我が獲物よ。我の得物を試しても良いか?他の者どもではつまらんのだ。」


魔人はそう言い、新たな得物を召喚した。大剣だ。だが先程とは違い、銀色の刃が、ギラギラと輝いている。刃こぼれもしていない。なるほど、新しい得物というわけだ。ロキは淡々としていたが、盾を握る手はミシミシと震えていた。異様な感覚だった。脳内の温度が上がっていくような感覚だった。ロキの目が、赤く光る。


          【戦闘開始】


ロキは盾を構えた。奴の大股な一歩は地面を砕き、腕は血管が浮き出た。奴は詠唱した。


          【溶解せよ(テオ・ティスカトル)


大剣の刄が紅く光る。まるで鉄が溶解するときのような真っ赤だ。それが振り下ろされた。


ダゴォォォォン!!!バギギギギィ!!


脳天へ振り下ろされた一鉄、それを受け止める。地面は凹み、腕はミシミシと振動が伝わり足へと流れる。腕力が互角な時、縦が徐々に真っ赤に溶解していた。ロキはすぐさま盾を収納し、今度は槍で流して横に回避した。土埃が舞い、ロキは槍を一瞥する。


槍の柄が溶け切っており、先端が無い。ある一定のリーチでは、奴の溶解させる魔法の餌食になる。あの魔法は人類の魔法体系のどれにも属さない。どちらかといえば錬金術のような規則的、かつ高威力ではある。だが解析ができない。魔人特有の魔法体系か。


「そろそろ決着としたいな。」


「同感。」


ロキは少し沈黙したのち、新たな武器を召喚した。長さの異なる小太刀である。右手には長く黒い刀、もう一方は鈍い金色の刀である。魔人は大剣で彼の足元目掛けて薙ぎ払う。ロキはそれを飛び越えた。奴の背後に回るも、奴はそのまま振り上げてこちらを向く。ロキの小太刀では受け止めることはできない。だがロキは受け止めるどころかそのまま懐へ飛び込んだ。


「愚か者め!!!!」


大剣の刃が彼の左頭部へ落とされる。


バリバリバリィィィ!!!!!!


刹那、耳を劈くほどの轟音がした。奴の腕は光の矢で撃ち抜かれたかのように光り、斬り落とされた。塵となって消えゆくその腕を、奴は驚愕で歪んだ顔をしてみせた。視線から少し右に逸れた方で魔力を感じた。脆弱な魔力だ。その方を見る。そこにいたのは、先ほど脳天を打ち砕いたはずの小娘(テナナ)だった。テナナはウラドに持ち上げられて状態で、折れた杖のうち魔法石のついた先端を握りしめていた。彼女はゼェゼェと息を切らして言う。


「こう見えて−−−−体は頑丈なのよ−−−!」


血で視界が濡れる中、彼女は奴を見据えていた。明らかに動揺している。これならば思考を、少しは鈍らせられる。


「ティナ姉!!」


魔人は撃ち抜かれたか衝撃で後ろにもつれていた。そのガラ空きになった背中を、槍が貫いた。真っ白で装飾のない槍。そしてその槍を貫かれた時、魔人は目をかっ開いてその方を見た。真っ白な髪をした女。ティナだった。


魔人は動揺を隠せなかった。


「魔力なぞ感じなかったぞ−−−!?」


「私−−−魔導士としてはダメダメなので!気付かれないんですよ!」


ティナは槍を引き抜いた。血が吹き出し、そして塵になっていく。体が死に向かっていく中、魔人は尚立っていた。奴は息絶え絶えで言う。


「よもや−−−−これ程とは。だが、まだ死にとうない。」


ロキは魔神を見下ろして言う。


「不可逆。」


ドォォォォォン––––!


間延びした音がした。鈍い音だった。その音はこちらを飛んでいき、そのまま、魔人の頭を貫いた。魔人は頭から塵を出し、倒れ込んだ。魔人は最初こそ、哀れな未亡人のような顔をしていたが、次第にあの先頭に狂った顔に戻る。


「なるほど−−−−−体外に放出される魔力を抑えるのか。やはり北の端には魔導士が増えておるな−−−−」


ウラドは一瞬睨む。


「どう言うことだ?」


「ハッ!それは勝者であるお前達が見るのだな。未来を見るのは生き残ったものの特権だ。死にゆく我に求めるのか?」


魔人は笑いながら、塵となっていく。


「残念だ。もう新たな得物には会えぬのか。」


奴は消え去っていった。骨一片も残さずに。ウラドは慣れたような冷たい目つきでそれを眺めた。そして、少しして振り返る。テナナはロキにおぶられた状態だった。だが意識はあるようだ。彼はテナナの頭を触診しながら言う。


「よく立てたよ。声をかけてきた時は驚いた。」


「まぁね、加護があったから。それより、ロキお兄ちゃんはよく気付いたよね。」


ロキは淡々と言う。


「宿で、あいつに会った。それであいつからこの森の話を聞いて、すぐに来た。」


「あいつって?誰だい?」


ウラドが尋ねると、ロキは指を指した。来た道の闇の中にいるようだ。皆は互いに支え合いながら、その闇へ歩き出した。


だいぶ歩いた時、ウラドは微かに目元を歪ませた。微かに魔力がある。違和感を感じた時、ロキも止まった。


「終わったぞ。」


ロキが木の上の闇に向かって言うと、ガサガサと枝の揺れる音がした。


「やっとか。クソ暗い中俺を待たせやがって。そもそも、バーラーは夜行性だから、昼間は準備して夜しっかりやるの1番なんだよ。んったく。見た感じなんもやってねぇみたいだし。」


若い男の声だった。そして、カチッと何かを引いた音がした。そして、木の上から何か落ちてきた。金色だ。ウラドはそれを拾う。金色の薬莢だった。そして声は、長い小言を言いながら、徐々に降りてくる。降りてきたのは男だった。ステンレスのコップを腰からぶら下げ、ボルトアクションのライフルを肩に掛けている。ウラドはその背中を見て、思わずニマッと笑った。


「ヨルファネーゼか!」 


男は降りると、こちらを向いた。確かにヨルファネーゼだった。少し背が伸びて、体格も良くなっている。猟銃はさらに古くなっているが、手入れが行き届いており、まるで革の艶めきのようだ。焦茶色の髪が、少し乱れている。


ヨルファネーゼはウラドと握手する。皆は森へと抜けるために歩く中、ウラドとヨルファネーゼは仲良さげに語り合った。


「奥さん元気?」


ヨルファネーゼは笑う。


「そりゃあもうな。山菜も取りに行けるようになったし、街の連中ともまた昔みたいに関われるようになったんだ。あの−−−−−聖導師達ともな。」


彼の微笑みは清らかさがあった。何かを愛でるような、優しくゆったりとした微笑みだった。ウラドはそれを見れて、心から良かったと思った。


「ここには何しに?」


「俺は、雇い主から護衛としてな。お前は?」


「僕は、ナハトュラを取ってこいって言われたんだ。」


「ナハトュラだと?おい−−−−あれは。」


「分かってる。これから依頼主に会うよ。君はみんなをよろしく。」


ヨルファネーゼは少し困惑した様子で、生返事をした。


−−−−都市−−−−

皆は石門を通って宿へと向かっていった。反対にウラドは右手の方へ行き、あの路地を通った。獣人達は塊になって眠っていた。そして、梟の獣人などが、夜の眺めを光らせている。ぎゅるりと、こちらを見てきた時は流石に肝が冷えた。だが、彼は無視して横切った。


大通りは本当に静まり返っていた。だが、辺りの建物からはカーテン越しに灯りが見えた。家族で、きっと談笑しているのだろう。ウラドはその窓から漏れる灯りを、静かで暗い地面から見上げた。心の中が、静かに沈んでいく。そして、平坦になっていく。だがそれは、向こうから差し込む光で我に返った。


彼は向こうを見た。ある建物から光が放たれていた。ガラスウィンドウから差し込む光、本棚が壁のように立つ内装。あの本屋だ。


チリンチリン−−−−


ドアに鍵はかかっていなかった。中に入ると、誰もいなかった。ウラドはあの魔導書の本棚の方へ向き変える。


「こんばんは。」


不意に声がした。振り返ってみると、そこには青年がいた。受付で座る彼は、本を開いていた。ウラドは訝しげに、彼を見つめた。彼は滑らかでそして底の知れない微笑みをしていた。ウラドは言う。


「どうして、ナハトュラを?」


「−−−−−あれは、美しい花でしょう?」


「あれには毒性がある。普段人間は触れようともしない。あれは−−−−魔物の主食でもある。」


青年は、ただ本だけを眺めていた。待ってるのだ。結論を言うのを。故に、ウラドは言ってやった。


「君は人間(こっち側)では無いね?」


ウラドが言い切ったタイミングで、青年は思いっきり笑った。店の中どころか外にまで響きそうな声量だった。彼はにっこりとした表情のまま語る。


「僕は、単なる人ですよ。人としてのものが欠落しているんです。」


「あるもの?」


青年は本を閉じた。何かを思い出すように、微風に思いを馳せるように目を閉じた。


「えぇ。聞いてくださいますか?この僕の何が作家として欠落していたのかを。」


ご拝読ありがとうございます。

今までフリーメモに色々書いてましたが、それは非公開なので誰も見れないことを今知った、黒井です。


一年経ちまして、今作もだいぶご拝読されています。改めまして御礼申し上げます。今までモチベが下がったり、自信が持てなかったりしました。創作論などに翻弄されたりもしました。ですが、大切なのはキャラを粗末にしないこと、作品を愛すること、一貫性を持つことなのです。どんなにダメな作品でも、その中に生きるキャラは生き生きとしててちゃんと人をやってるんです。僕は、それだけでこの作品が好きだ。そんな気持ちでやっています。


これからも紆余曲折ありますが、書いて参ります。

これからもよろしくお願いします。


では、次回もお楽しみに。

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