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新装版 傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
【__小鳥の束の間の平穏__忍び寄る闇__】
87/133

Episode86・(Misaki Side)




 和歌に、また依存しようとした。

 この抗いを知らない理不尽の世界のはけ口を求めるかの様に。

居場所なき箱庭で、彼女を心の拠り所にしようとしたのだろう。


 (____冷たい温もりだとしてもいいから)

 


 けれども何故か、和歌は此方が此方が追おうと、

捕 まえようとすると、するりと、すり抜けて自然と距離が遠退いていく。

それはまるで透明人間の様に。






愛しい娘は、

自分自身を好いて(なつ)いてくれるけれども

一人きりの育児をする中で美岬の孤独感・疎外感は殊更、日に日に強くなり

解放されたいという気持ちが、少しずつ膨らんで行った。


 そんな中。



 

「お義母様……」


「久しぶりね。美岬さん」


 一瞬、和歌との会話が聞かれてしまったのか、と冷や汗を抱く。

己の衝動と感情のままに動く癖は残って墓穴を掘ってしまったと頭を抱える。


 (監視カメラと盗聴器の電源は切った筈よ)

 

 あの会話が樹神家に聞かれてしまっていたのなら。

千歳家をも巻き込む大問題にとなる。

 だからこそこっそりと、監視カメラや盗聴器は、

ブレーカーを落として切り落とした。



 美岬は

表向き穏やかな表情を浮かべながら、リビングルームに招いた。


 真之介の実母だ。

嫁いびりなんて無縁な関係で、付かず離れずの距離感を保ち、

ただ一つ違う所は、美岬は本心を必死に隠し

“樹神家の当主の支える妻”としての威厳とフリをする事を努めている。




(………妻や母親の務めは、しているつもりよ)







 窓から惜しみ無く注がれた陽の光り。

その向こう側には植物庭園に劣らない花壇と、整えられた木々や草木。






 義母はソファーに座り、紅茶を(たしな)む。

その庭園を眺めながら紅茶の香りに微笑みを浮かべる貴婦人は

まるで絵に書いた様な人物だった。




 樹神弥生(こだまやよい)____美岬の義母である。


 おとしやかな出で立ちが

名家の妻という品格と上品な淑女であり貴婦人という、

雰囲気と威厳を纏った出で立ちをしていた。




「七美は?」

「………今は幼稚園にいます」

「そうだったわね」




 上品な声音。

たまに訪れる姑を上手く相対しながら、

姑嫁関係は上手に言っているつもりだ。


 紅茶を置いて、弥生は不意に言葉を口にした。




「ねえ、七美も、もう4歳でしょう。

そろそろ2人目を次を考えてもいいのではないかしら?」

「………………………」






 美岬の中でガシャン、と何処か硝子が割れる音がした。

義母はおとしやかな人だけれども樹神家の保身を第一に考える蓮だ。


 一人娘でも子育てが手一杯の美岬にとって、

子供二人の育てられる余裕も、自信も器量もない。


 第一、今、美岬は樹神の子女を育てている。

否、立派に育てられるだろうだろうか、と不安と隣合わせにいるのに。

 ただ義母が言うのは“樹神家の後継ぎ”という事だ。

子女である七美がお嫁に行ってしまえば、樹神家を護る者は居なくなってしまう事だろうか。

 





 疎外感と孤独感に苛まれる。

千歳家の娘という信念と覚悟を持った上で嫁いだと思っていた。

 けれども結局は何の覚悟もなく嫁ぎ、名家に嫁いだと一人で自惚れていた。


 一人になっては

昔の自由だった頃のな記憶に思い焦がれている。




 樹神家の冷気に触れる度に、妻は他人なのだと痛感した。

この家で千歳家の血を引く人間は、自分自身だけ。






 美岬の飽き性な性格は相変わらずで、

真之助との夫婦仲は良好な立場にあるものの

夫妻てはなく、七美を育ている両親、という意識が強い。


 それ以外は全てが冷えきっている、と言った方がいい。




(____昔の癖が仇になるなんて)


 対面する様にソファーに座り

美岬は沈黙の後に、漸く(ようや)く口を開いた。






「____私は、

今は七美の成長を見守り見届けていたいんです。

七美の成長をだけを見ていたい。……真之助さんと。


 今後

七美がやりたい事があるならば、応援し見守り

時として七美が迷う事があるならば、親としてその道標(みちしるべ)示したい。


 勿論、樹神家の子女としての自覚を教えます。


…………そのつもりで、おります」




 弥生は、凛とした美岬の瞳の奥にある熱意と母性愛、

心から我が子を思っているのだと強く思った。


 娘を想う母親に水をさしてしまった様に想う。

逆になんだか下手に口出しをしまった様で、申し訳ない。




「美岬さんは、愛情深いのね。

ごめんなさい。下手に口を挟んでしまったわね。

要らない心配だったわ。

 

 美岬さんが母親なら何も心配要らないわね。

___美岬さんが母親で、七美は幸せ者だわ。


 これからも

真之助、七美を、よろしくお願い致しますね」

「……………はい」




 朗らかに微笑む弥生に、美岬は微笑みを返した。

美岬の娘への思いや母性愛を知って満足したのか

弥生は機嫌良く、家を後にした。




(…………上手くはぐらかせたかしら?)








 兄弟が居て、学ぶ事。

表向き美岬は一人娘となっているが

美岬は異母姉の存在を知って妬み嫉み、羨み


____そして、人の憎しみというのを学んだ。


 美岬自身、和歌の存在を悟ってから

個人的に兄弟がいる事は対してあまり前向きに取られない。



 そう思って不意にもし、和歌と姉妹で居られたのならば、

どんな姉妹関係を築いていただろう。


 (微塵も想像は出来ないけれど………)




 もし和歌が、

千歳家の“長女”として生きていたのなら、

今頃は自分自身は自由に生きていたのだろうか。


 この立場には和歌が立っていて、自身は

自由の身で居られていたらと、とても羨ましく思ってしまう。






 こんな醜い感情を抱く事もなく。






 誰かに甘えたい、温もりに溺れたい。

愛されたい。安心したい。安堵したい。


もし身分を捨てられる事が許されるのなら

すぐにでもという衝動の天秤に心揺らぶられている。


(…………せめてあたしの思いは七美に悟られない様に。

………七美には、あたしの様な醜い感情を抱かせたくないのよ)






 一人になっては頭を冷やした時に




 同時にまだ

あの頃の陶酔した依存症は治っていないのだと気付いた。

あの温もりを求めて、夜の街を彷徨い歩いていた頃。


 今でも不意に戻りたい、という衝動を覚えてしまうのだから。

自由な蝶になりたいと思いにふける日々を送っている。

____現実では叶わない願いだけれども。




 美岬は今も、愛情と温もりを求める。


 それは変わらな



 あの頃は自由でそれなりに幸せだったのかも知れない。










 結婚し母親となり、月日が経つにつれて

いつかは忘れていくもの、と甘い考えでいた。

けれども、それは違う。所詮は自分自身で押し殺しているだけだ。


 美岬は現在(いま)____昔が恋しくて愛しくて堪らない。

全てを捨ててあの頃に戻りたいという衝動に駆られる程に。


 樹神家に嫁いでからしみじみと知ってしまった。

自身は愛情に飢えている小娘なのだと。だからこそ

今も今も何処かで温もりを欲しているではないか。


 この樹神家の孤独感と疎外感を感じる度に強くなっていく。




 本当は、後悔している。

___千歳 美岬として、生を受けてしまった事を。


自分自身は、母親になれない。

それは七美と接する中で今更、気付いた事だ。


______寧ろ、女のままでいたい。

美岬というなんでもない自身を見詰めてくれる人を。


それぞれが、呪縛に囚われていますが

美岬自身の精神的な成長はいつ、訪れるのか。

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