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新装版 傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
【__小鳥の束の間の平穏__忍び寄る闇__】
83/133

Episode82・(Misaki Side)

美岬のお話に切り替わります。

(大変長らくお待たせ致しました)



 広い青々した庭には


 公園の敷地内の様な

その場所は有名な庭師によって細部まで手入れが施され

花々が優美にのびのびと咲き誇り心地好く淡い風に揺られている。




 煌々と惜しみ無く注がれた太陽の日差しに初夏の涼しさ。


日曜大工により作られた遊具で、無邪気に少女は遊んでいる。


 それを見詰める女性は、娘を頬笑ましく見詰めながら

心持ち、その瞳に、心では(かげ)りが写る。








(____こんな筈じゃなかった)



 こう思うのは、もう何度目だろうか。

口癖の如く思考に巡らせてしまう様になって、長い月日が経過したと考えては

泣きたくなる衝動に駆られて、留めて、なんとか留めている。


 (あの人の妻である以上、凛としていなければ)


 そう想いながら、心の片隅で、溜め息を着いた。










「_____お母様、どうしたの?」





 舌足らずな愛らしい声音で、母親の許へ

トテトテと、二つ結びの愛らしい少女が此方に向かってくる。

何処か不思議そうに潤んだ瞳で此方を見上げてくるその表情は純粋無垢であどけない。




「なんでもないわ、七美(ななみ)




 髪を耳にかけて

何でもない表情を取り繕い、心の陰りを隠し

美岬は屈かかんで少女の髪を撫でると、柔く微笑んだ。








_____七美。今年で4歳になる一人娘だ。




 大学卒業と共に

千歳家が望む通り、美岬は樹神(こだま)家に嫁いだ。

親同士、家柄同士の陰謀に歯向かうなんて無意味で、

無理だと思い彼女は惰性にも似た感情で、千歳家の条件と相手を飲み込んだ。




 25歳の時に一人娘・七美を授かり、


 今は弁護士となった

樹神真之助を支える妻・樹神七美の母として生きている。

義実家に求められる“樹神家の良妻賢母像”に奔走しながら。

 

 娘は無条件に愛しいけれど、

夫への愛情は、と問われると美岬は何も言えない。





 幼稚園の母親同士が集まるお茶会でも、

周りの母親同士の激しいマウントの取り合いや自慢や愚痴に溢れている。

争いのない穏やかな箱庭で育った美岬には戸惑うばかりだ。

 


 夫である真之助をどう思い、現していいのか分からない。

 

 千歳家で培われた虚像の微笑とお世辞の社交辞令で

夫の事を淡く優しい人物だと告げながらマウントを取りたがるママ友を持ち上げては誉め、

時にそつなく反らし、なんとか切り抜けている。



 美岬に求められているのは

弁護士の妻らしく、大人の身なりと礼節を弁え、

 そして最も重要な_____樹神家の子孫の子育てに専念するのみ。

あの頃様に自分自身の為に惜しみ無く投資し、遊んでいる余裕はない。




(____懐かしいわね)




 もう自身は家庭を持ったのだから、

過去は忘れて、樹神家の妻に納まらないと、と首を横に振る。


 心底、自分自身と娘を愛してくれる夫。


 感謝を抱いても、けれども、

美岬には最初から今まで真之助は愛せないままだった。

愛を注がれても社交辞令の様に繕い、返すだけ。




 政略結婚だから、とではない。

愛のない相手にどう返していいか分からないのだ。

真之介は心優しいけれども何処か鈍感で何処か頼りない。

とっくの果てに温もりも冷め切ってしまった。


 そもそも夫婦という生き物が分からないのだ。

美岬の両親は仮面夫婦で互いを他人行儀を行いながら、

偽りの微笑により夫婦関係を継続している。


 だからこそ、真之介から優しさを向けられても

何処か鈍感で何処かからが愛情で、何処からが()りげ()い優しさなのか

その境界線が分からないのだ。

 


 だから、平日では夜、顔を合わすだけが都合が良いのだろう。

寧ろ休日、真之助、亭主が居る空間に美岬は少し戸惑ってしまう。








 嫁いだ先の偉大な家系は

実家よりも、仕来たりや決まりが厳しい箱庭だった。


 宮殿の様な豪邸で樹神家には本家とは別居。

樹神家では古き良き風習で、妻が穏やかな家庭を創り上げ

夫の帰りを待つもの、とされており樹神家には使用人は居らず、


夫人が、妻として全て一人でこなす。




 箱入り娘の美岬には

樹神家は未知の世界であり、手一杯だった。

お淑やかな夫人の振る舞い、亭主を支え、母親として娘を育てる。




 お金に不自由はなくても、

美岬の心は、不自由で余裕がない。

美岬にとって家庭はつまらなく息苦しい場所だった。




____そして自由もない。


 樹神家の本家からの24時間制の監視。家には

玄関や客室、リビング等、至る所に監視カメラや盗聴器が設置されているのだ。

 プライバシーがないと抗いたくなるが

その理由は『(美岬が)樹神家の妻___

令嬢だった娘が樹神家の妻として相応しい振る舞えが出来ているか』である。


 監視カメラは本家と繋がり、監視役がいるので、

異変に思うと、義両親が訪れる。




 結婚当初はそれらを知り泣きたい思いだったが、

真之助は樹神家の仕来たりが当たり前となっているので違和感等なく

だから夫に泣いて(すが)ったとしても理解なんてされない。


_____次第に諦観を抱き、泣く事すら我慢した。




 美岬は大学生、樹神家に嫁ぐまで自由奔放に育ってきた、

しかし今は家事や育児、ワンオペ方針で全て美岬に委ねられている。




 同時に求められるのは、“樹神家の妻・母親としての器”。

偉大な家系、当主の妻は、良妻賢母でなければならない。

樹神家から与えられるのは、冷たい重荷だけ。




 心は窮屈で自由もなく狭苦しく、満たされていない。

そして心の片隅で不意に、あの頃、奔走していた“温もり”を

求めてしまいそうになる自分自身が何処かにいる。




(…………あの頃は良かった___)




戻りたい____と、思いかけて踏み止まった。








 不意に思うのだ。

本来ならばこの席、責務は、

“あの女”が座り果たすものではないかと。


 それは異母姉に当たる、水瀬和歌の事だ。


 彼女は千歳家の血を引きながら、

何事にも縛られずに自由に生きている事だろう。




 異母姉が、千歳家に認められ迎えられていれば

長女の責務として、和歌がこの立場にいる筈だろう。

次女である自分自身は、縛られず自由に生きれた筈なのだ。


そう思うと、和歌が羨ましく、時に憎たらしく映る。


 

(____和歌は、なにしてるのかしら?)




 日々の慌ただしさに追われながらも、忘れられなかった。


 時折に気になっていたが、

好奇心と共に不意に知りたくなった。

 


こう言ってはおしまいだとおもいながらも、

10年前から美岬の和歌は想う感情に対して成長はしていないのですね。

家庭環境や身分が変わった美岬が、和歌に孕む狂気は……

どうなるのでしょうか。


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