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新装版 傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
【__小鳥の束の間の平穏__忍び寄る闇__】
78/133

Episode77・(Waka.Ren mother Side)

【警告】

刃物、自傷描写が御座います。

苦手な方はブラウザバックを推奨致します。


此処からは、

自己責任での、閲覧をお願い致します。






 まるで舞子は借りてきた猫状態だった。


それでも息子にすがり付きながらを一途に心配する母親の後ろ姿を、

20年前に放火殺人を犯した女だと誰が思うだろうか。




 「失血が酷くかなり危篤状態です。それに加えて過労も」


 医師は渋い面持ちを浮かべながら、従兄の置かれている現状を語った。

和歌は自責の念に駆られる。何故、もう少しでも早く向かっていなかったのかと。


 (____私はいつも、誰を苦しめたがる)


 眠り続ける青年の腕には、それぞれ輸血と輸液に繋がれている。

そのベッドには現実の苦悩や苦痛から解放された様な和らいだ

面持ちの青年が眠っている。






 息子を思い遣る素振りを見せながら

不意に舞子は、鎖骨辺りに見えた白い傷痕の存在感に気付いた。


 息子の色白の肌に縦横無尽に鎖骨や肩元には

痛々しい程、縦横無尽に白い線が迸っている。

見るからに切り傷の傷痕、と伺えるものが其処には存在していた。


 疑念と共に、舞子は睨む。


(____大切に育てられたんじゃないの?)




 伯母である杏子に引き取られて、育った筈だ。

けれども、裏では慈悲に満ちた女性を演じながら

杏子はやはり実娘と甥を別け隔て育てていたのかも知れない。




スライド式のドアが開き、室内に和歌が現れた。


物憂げさと神妙な面持ちを浮かべる姪に、

舞子が抱いた感情は、憎悪と劣情。




 廉が居なければ、

川嶋家からの離縁と勘当を破棄して貰えない。

その為には何としても廉には生きて貰わねばいけないのだ。






「ねえ、廉は……大切に育てられたんじゃないの?」


「……………はい」

「なら何故、こんなに傷痕があるの?」


 その刹那、和歌の背筋が寒くなり、凍る。

瞬間的に悟りを開いた。廉の自傷癖の傷痕を舞子は見てしまったのだと。


「誰にもバレないと思って、実は隠れて虐待していたんじゃないの!?」



 病室に響く怒号。

お嬢様育ちの特有の感情の起伏の激しさと発作的な思い込み。

そんな感情的な舞子の姿を前に、和歌は 頭の片隅にあった“誰か”を思い出した気がした。

 






 ぎろり、と睨む舞子に、和歌は微動打しない。

まるで蛇に睨まれた蛙状態なのだが、和歌は凛然とした雰囲気と面持ちを崩さない。


 舞子は焦燥感を抱く中でも

次第に良い理由付けではないか、と思い始める。

実家からの離縁と勘当を破棄して貰うには、廉という切り札が必要だ。


(伯母に引き取られたものの、虐待されていた、という

事を吹き込めば両親だって同情してくれる筈よ)




 こういう風に責めているのは、

息子の身を案じているのではなく、切り札が無くなってしまうからだ。

舞子自身、この現実を視るまでは自身には帰る居場所があると思い込んでいた。

優しい夫と息子も赦してくれる___そんな甘い考えをしていた中で起きていたのは崩壊した世界。

こうなれば実家に縋り付いて帰るしかない。


そんな焦燥感を苛立ちに変えている舞子の姿。




「___貴方は、我が身は振り返らない、という事ですね」


「…………は? 何を言ってるの?」




 そう呟く和歌は、何処か悲しげな表情を浮かべる。

あの純粋無垢な優しい微笑みを見ていた和歌にとって、

目の前の般若寺の鬼の如くに豹変した人格には、

心が冷め呆れる反面、何処かで複雑化に歪んでいく。




(___この人は、

自分自身さえ良くて、自分自身だけが可愛いのだ)




 彼女は、悪魔に取り憑かれた。

最初こそ抱いていた複雑味を帯びた感情は消えて、割り切る。


___もうあの頃の川嶋舞子は消えたに等しい。






 傷痕は、時が経つにつれて白く浮かび上がる。

不意に和歌の脳裏に、あの日の光景が流れ込む。





 希死念慮にも似た感情に囚われ、心が恐怖心という絶望に染められていた頃。

 消えたいと思った。


 茫然自失としている和歌の華奢な手首を、誰かが掴んだ。

不意にその生気の失せた瞳で顔を上げると、

廉が据わった瞳で此方を見詰めていた。




 療養生活を送っていた時、精神が疲弊した和歌は

無意識にナイフを手にしていた。




 この思考から離れたい。

どうせ自分自身は誰かの重荷にしかなれない。

そう思いながらナイフを自身の腕に当てようとした時。



「やめな」


「…………………」




 お願いだ、邪魔しないでくれ、と懇願する様な感情を向け

和歌が腕を振り解こうとしてもまるで頑丈な腕輪に

捕まった様に手はぴくり、とも動かない。




「傷を刻んでしまったら、もう後戻りは出来ない。

そしてその傷を見る度に絶望して、傷を思い出す」

「………………」




 闇夜に光る従兄の顔色は、

微笑している様に見えて、何処かで怖かったのを覚えている。

そして何よりその言葉には言葉に出来ない圧力と説得力があり

和歌は無意識にナイフを落としていた。










 心の辛さを身体に吐露した場合

何時か、その傷を見る度に絶望しては、その記憶を呼び覚ます。

廉の身体中にある白い傷痕は底無しの絶望と、贖罪を思い出すモノ達だ。






舞子に睨まれ、針の(むしろ)状態の中、

和歌は(ようや)く口を開いた。




「先程、言いましたよね。

『その目で見てください。“それが答え“』です、と」


「_______何を訳の分からない事を」


「……廉は、ずっと罪の意識に苛まれていました。

貴女の存在や、叔父様の事を背負いながら、


 遺族の方々にも謝罪する事を許されず。

抱えている苦しみも多数ある事でしょう。けれど

一番は貴女の犯した罪、遺族への贖罪から廉は自傷行為に走る様になりました。


廉はいつも言っていたんです。

『僕も何処かで苦しめばいいんだ』と。


___その言葉の証拠が、貴女が見た答えです」




 冷静沈着に、淡々としてした口調で告げる。




 舞子は口許を覆って絶句した。

自分自身がいない間にまさか、息子がそんな事を。


 この傷痕は杏子のせいでも、和歌のせいでもない。


 廉自身が自分自身を傷付けてきた。




 颯真は精神を崩壊し、廉は自分自身をずっと傷付けてきた。

それは舞子が犯したもう一つの罪では無かろうか。

舞子が全てを壊した。何もかも全て。



 今まで全く分からなかった。

傷痕が見えなければ、普通の青年なのだから。


 見るに耐えない程の、縦横無尽の傷痕は、自責と贖罪の証拠。

贖罪を抱えながら、自分自身を傷付ける事で、

なんとか息をしてきた息子の生き様を、母親は理解出来ないだろう。






 しかし舞子は、自分自身の罪は絶対に認めない。



(廉の自傷を逆手に取って、事実は塗りつぶしてしまおう)




でないと息が出来ない。自分自身も、廉も。


この世には事実を捻じ曲げて葬らねばならない事もある。

孫が自傷行為に走っていた、となれば川嶋家の世間体、イメージは悪くなる。


 この事実を葬って伯母に虐げられていた事にすればいい。

そうすれば、自分自身は救われる。偽りだとしても、罪の濡れ着は姪に被せればいいのだ。




「なんて事をしてくれたの……よそ様の息子に!!」




 舞子は、突然怒りをむき出しにした。

和歌の頬を張り手で叩き、衝撃のあまり和歌はドアを背に崩れ落ちる。




「見張ってよ!! 廉を大切に育ててきたって

大口叩いて豪語するくらいなら、見張りなさいよ!!

人様の息子を傷物にして、どう責任を取るつもり!?

 

____こんな姿、見たくなかったわ!!」












 和歌は項垂れた。

何も言えない。従兄の心のケアを優先事項出来なかった事を。

 自分自身が誘拐事件に巻き込まれ療養に時を費やしていたせいもある。




(廉にとっては皆、加害者よ………)




 傷心の少年に目をかけれなかった。


 それは、それぞれの罪だ。






「_____八つ当たりするな」






 殺伐とした雰囲気と空間の中で、凜然とした声音が響いた。


 舞子は無意識の内に声の方へ視線を向ける。

其処には身を起こし、軽蔑する様に舞子を睨んでいる廉の姿があった。









物語の構成上の言葉使いとはいえ、

ご不快に感じられた方々、

この場をお借りしてお詫びさせて頂きます。

大変申し訳御座いませんでした。

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