Episode:76・(Waka. mother Side)
【警告】
前編に過激な流血、刃物、描写あり。
苦手な方はブラウザバックを推奨致します。
此処からは自己責任での閲覧をお願い申し上げます。
【手術中】という
鮮やかな赤ランプを、呆然と見詰めている。
(____廉の苦しめたのは、誰なのか)
彼女は、そう考えていた。
______数時間。
自身の部屋で、語学を学んでいた和歌の元に
廉からメッセージがきた。
今度、引っ越し作業を担当する家族が外国の方で
正しい語学を教えて欲しいとの事であった。
本当は先日の約束だったけれども、舞子が現れた事でおざなりになってしまったもの。
成績優秀者だった廉は、そつなくこなすのではないか
と思ったたが、ご無礼があっては示しが付かないから、
と年を押しされ、
日本語の例文が廉が送り、
その国のスペルや言葉を和歌が送るという、やり取りを繰り返し
そう暫く、メッセージアプリで会話を交わしていた。
しかし、和歌には複雑が交錯している思いだった。
あれから
廉とは会っていないだが、従兄は大丈夫だろうか。
実母が突然にして現れ再会し、実母の黒い陰謀を知り彼はまた苦悩する筈だ。
____何と言っても彼の人生の軸を破壊したのは、彼の実母なのだから。
廉が贖罪と自責の念に駈られて、自分自身を傷付けている事、
これは従妹である和歌しか知らない。
杏子に告げてしまえば、ただ事では済まされないからだ。
廉は前に言っていた。
自分自身を傷付けないと、正気が保てないのだと。
その人物の意図にはその人物にしか解らない思いがある。
それを、他人が勝手に土足で踏み込む事は、正義ぶっているだけではないか。
現に
廉は自分自身を傷付けている事で、心の安定を保っている。
心の傷痕を負う和歌にも、納得出来る節があった。
9年間、自分自身を保てず呆然としていた頃、
自身は脱け殻の様だった絶えぬ苦しみ、自害してしまえば終わる事か、と
苦悩する日々の中で考えていた。
実際に刃を自身に向けた事もある。
けれど和歌の場合は、もしも自害が失敗に終わり、
目覚めた瞬間に、苦悩の蔦に思い出す事が怖かったのだ。
結局は優柔不断に終わったけれども、
メッセージの交換は、一定的に来ていたが
ある時を境に誤字脱字が窺える様になってしまった。
文面に対して人一倍、几帳面な廉には有り得ない事、と和歌は思い疑ったのだ。
そして、軈て、メッセージは途絶えた。
電話も数回、かけてみても応答はない。
どんどん悪い予感は膨らんでいく。
(…………まさか、)
和歌の中で胸騒ぎが渦を巻く。
胸騒ぎの鼓動はどんどん早くなり、悪い予感がして成らなくなった。
和歌は夜逃げ同然に飛び足す様に家を出ると、従兄の住むアパートに向かった。
____そこからの記憶は、朧気だ。
血の海と化していた。
赤黒い血が、血溜まりとなり、その白肌にも赤黒い血が付着していた。
目の前の情景は割りと冷静沈着に、
西洋映画のスローモーションの様にゆっくりと流れていく。
彼が物理的に自分自身を傷付け続けてしまったのだ。
薄々、理解し始めた脳内に和歌は身体が動かない。
床に項垂れる様に倒れている従兄を見付けると、
茫然自失としながら近付いて、
項垂れる様に座ると廉に静かにゆっくりと手を伸ばす。
継ぎ接ぎだらけの服は血に染まっている。
長い睫毛は伏せられたままだが、
何処か心理的に苦悩している様な表情を浮かべている様にも見えた。
一般的に全血液量に対して、
1/2以上失血すると生命が危ういと聞いた事がある。
冷静沈着に和歌は部屋の血の海に目を当てた後に、
脈が触れてみたが、殆ど感じる事が出来なかった。
和歌の中で動悸の胸騒ぎという、サイレンが鳴る。
(……………廉が、危ない)
杏子は舞子を引き連れて、
駅を降りると直ぐ様にタクシーに雪崩れ込んだ。
素早く運転手に大学病院まで、なるべく早くという杏子に、
訳も解らず、
舞子はキョロキョロと挙動不審に目を游がせている。
杏子は窓際に持たれかかり、瞳を閉じる、
廉は追い詰められていた。天涯孤独の同然の身となり
幼い頃から大人の顔色や言葉を伺っては、罪の意識を感じては、心を痛めてきたに違いない。
和歌の誘拐事件や療養も重なり、仕事の都合で住居を転々とする日々。
廉に対して目をかけて遣れなかった事に悔やんでも悔やみ切れない。
実母には裏切られ、
父親には忘れられ、孤独に苛まれて生きてきた筈だ。
彼としては、極限までに達してしまった結果だろう。
(…………伯母として、未成年後見人として失格だ)
無意識に目頭が熱くなる。
受付で川嶋廉の身内、と告げると、
看護師は心当たりがあったのか、緊迫した表情で
此方です、と冷静ながら素早く杏子と舞子を手招きする様に案内した。
手術中の前では、
華奢な彼女が、呆然と佇んでいた。
「和歌」
「…………お母さん」
和歌は生気を失った様な眼差しで、此方へ向いた。
しかし和歌は、母親の後を付いてくる舞子に腹を据えた何かが沸々と湧き上がる。
(___どうして貴女が此処に居るの?)
杏子は和歌の肩に置き、軈やがて背中を優しく撫でていたが
和歌は焦点が合わず俯いているばかり。
「大丈夫よ……」
「大丈夫なんて、誰が言えるの!!」
母娘に、今まで黙っていた舞子罵詈雑言の如く叫んだ。
和歌は自然と目線を上げて、杏子が舞子に
視線を向けた途端に、頬に強烈な熱さと痛みが走る。
「な…………」
「貴女が廉を引き取ったんでしょ?
なのに、なんでこんな事になっているのよ!?
廉を引き取ったのは単なる世間体の為の偽善だったの?」
「………違うわ」
「じゃあ、こんな事にはなっていない筈よ!!」
熱の込もった声音。
その刹那、舞子の意図は何か、和歌は悟ってしまった。
この狂気に狂った瞳は我が子を心配する眼差しではない。
自己の欲望に溺れた人間の双眸。
その形相は、あの財閥の若妻と一緒だと思った。
(この人にとって、廉は………)
我が子を道具としか思っていないのなら
その道具の痛みも葛藤も知らない。知るつもりもない。
道具の心なんてどうだっていい。
(…………冷酷非道ね)
その刹那、杏子の携帯端末に、着信が鳴る。
会社からだった。
内心では邪魔しないで欲しい、今、身内が大変な時に、と
思いながら受け取ると
急用で会社に出向かなくては成らない、という事だった。
杏子は後ろめたい眼差しで、携帯端末を持った手を落とす。
その会話の口振りから会社関係の話だと察した和歌は
「…………行って」
「………行かない」
「大丈夫。全ては私が起こした事よ。その責任は取るから」
信用して、と和歌の瞳が訴えていた。
母は仕事では重役のポジションにいる。会社が回らないのは
目に見えている。
「…………」
後ろ髪を引かれる思いだった。
忍び無さそうに杏子は、席を外す。
その杏子の後ろ姿を見て舞子は鼻でせせら笑う。
(…………これで、廉は私が取り戻せる)
「…………無責任な人ね」
「それは、此方の台詞です」
その落ち着いた声音が、火に油を注いだ。
舞子は和歌に視線を向けると、
和歌は何処かで軽蔑した様な眼差しを宿したまま、無表情だ。
しかし舞子は勝ち誇った微笑を和歌に向けた。
「廉は、どうなっているの?」
「………それは、その目で見てください。“それが答え“です」
「______え…………?」
物語の構成上とはいえ
残酷的な描写が多々あり申し訳御座いません。
重ねてのお詫びとなり御無礼を承知の上で御座いますが、
ご気分を不快にされた読者様、
謹んでお詫びを申し上げます。




