参観日の家族参加型授業で嫁たちが無双する(その7)
大変お待たせしてしまいました。
切れ目の良いところまで4話連続更新いたします。
時は少し遡る。
○レイジ視点
嫁たちが俺のために奔走している間に、何とかこの子を寝させられないか考える。
とりあえず『体操のお兄さん作戦』は失敗のようだから、女の子が興味を持ちそうなことを考えないといけないな。
お絵描きをするか?いや、俺の描く絵で泣かれたら困る。
そんな酷い絵を描くつもりは無いが、もし泣かれたらこちらの精神的ダメージが大きいからな。
他に女の子が好きそうなことは……いや、この子を女の子と考えるからだめなんだ。
ひとりの女性として扱わないと!
女性の好きそうな物は……よし、これだ!
俺は鉛筆を手に取るとそれを指先で割り開いて芯を取り出す。
「え?!」
それを見ていた女の子の目がまん丸になった。
よしよし、注目されているうちに仕上げるぞ。
俺はありったけの鉛筆から芯を取り出して集め、細かく折って手のひらの上に集め、全力で握りつぶす!
ぬうううううんっ!っと話したらだめなので心の中で叫ぶ俺。
そして手応えを感じた俺は、そっと手を開く。
「ああっ!」
女の子の目が大きく見開かれた!
そう、俺の掌には輝くダイヤモンドが……
……出来ていなくて、黒い塊が出来ていただけだった。
「流石にダイヤモンドはにはならなかったか」
「え?お兄さん、ダイヤモンドを作る気だったの?そんなのありえないわ!」
お兄さん?
まあおじさんと言われるよりはマシだけど。
それに興奮したのか俺の会話は9回目にはカウントされなかったみたいだ。
「鉛筆の芯に圧力をかけてもダイヤモンドにはならないのよ。すごく高い温度にしないとダメなの」
「そうなのか?君は物知りなんだね」
「それほどでも……あれ?話しかけられたのってこれで何回目だった?」
指を折りながら小首を傾げる女の子がとても可愛らしくて勝負の最中でありながら和んでしまう俺。
と、その時。
俺の頭の中に警報音が鳴ると同時に化け物と戦っている明日香先輩とアヤメさんの姿が浮かぶ。
これは『通い妻のお守り』が嫁たちの危機を知らせてくれているのだ。
以前は声しか聞こえなかったが、映像まで見えるようになったんだな。
もちろん二人がどこに居るかも手に取るようにわかる。
「あっちか!」
「君ぃ、どこに行くんでぇす?失格になりたいのですかぁ?」
「時間制限はあったが部屋から出ては行けないというルールも無かっただろ?」
「うっ?!」
俺はAクラスの担任を押しのけて廊下を走り、物陰でお守りの力を使い二人の元に瞬間移動する。
「ここは職員の部屋か」
日本の職員室とは違い、教師が1人か2人で一室持っているんだよな。
二人の気配を床下から感じる。
このお守りは自動的に二人の近くに転送してくれるけど真上に出ることもあるのか。
まあ地面の中よりはいいか。
と、部屋から誰かが出てきた。
「あっ?!例の日本人だ!」
「どうしてここにお前が?!」
「しまった!見られたぞ!」
Aクラスの副担任は会場に居たのに何故ここに居る?しかも3人だと?!
「まさか四つ子とは…」
「四つ子ではない!クローンだ!」
「あっ馬鹿!言ってどうする!」
「あっ」
慌てて口を塞いでいるがもう遅い。
「俺の嫁達がピンチなのは貴様らのせいかっっ!!」
「「「ひいいいいいいっ!!」」」
俺が全力で睨みつけたら3人とも失禁して泡を吹いて気絶してしまい、地下に行く通路の開け方を聞きそびれたが問題ない。
嫁たちの位置は分かっているからな。
この真下だ!
俺はまずは軽く床を殴りつける!
ドゴオオオオッ!
床に小さいクレーターが出来、壁にまでヒビが入る。
ゴゴンッ!!!
ゴゴンッ!!!
ゴゴンッ!!!
あえて手加減して床を殴ることで地下に居る嫁たちが崩れる天井の真下から退避できる時間を稼ぐ。
そして殴る度に床はへこみヒビが広がっていき…
「はあああっ!」
ドゴゴゴゴゴゴンッ!!!!
俺は気合いともに床をぶち抜き、できた穴から飛び降りる。
「待たせた。アヤメさん、明日香先輩」
「「レイジくん(どの)!」
どうやら大丈夫そうだな。
あと、小さい女の子を連れているが、そのせいで本気で戦えなかったのか。
「勝負の最中なのにごめんなさい!」
「二人の安全にはかえられないよ。それに⋯俺はまだ勝負をすててはいない」
そう言うと俺はキッと化け物を睨みつける。
「俺の嫁達を脅した罪は重いぞ!化け物!」
目の前に居るのは体長10メートルはある大きな化け物。
ヤマタノオロチの頭が牙の揃った顎だけになったような感じだ。尻尾は無いけどな。
「そこで転がっている副担任達はそれを『セヴィス』と呼んでいたでござる」
気絶している副担任のクローンたちがアヤメさんと明日香先輩の後ろに並べられており、子守りをしていた女の子と瓜二つの少女がその傍らで震えている。
「この子もクローンなのか」
「多分そう。それにあのセヴィスって奴は水槽の中に居た他の生物を食べてどんどん大きくなっている」
「わかった」
俺はセヴィスの真正面に立ち、全力で殺気をぶつけてみる。
「ゴゲーア!」
しかし全く平気な様子で食べながらこちらへ向かってくる。
「恐怖心は無く、話し合う余地も無いか」
獣のように俺の殺気を浴びて大人しくしてくれるようなら無用な殺生をしなくて済むのだが、やるしかないか。
「ゴギュア!」
「スギュア!」
「コブー!」
「エブー!」
統一感のない奇っ怪な声をあげる4本の触手が俺目掛けて左右正面真上から一気に襲いかかってくるが、そのスピードはあまりにも遅い(マリア姉さん比)。
「同時攻撃するならもっと素早くするんだな!」
俺は触手を2本掴むと、残り2本の触手の口の中にぐいと押し込んでやる。
「パギュ?!」
「スギュ?!」
「しっかり噛めよ!」
俺はアッパーと膝蹴りで無理やり口を閉じさせると、自分の触手を噛み切ってしまい紫色の体液が迸る。
「おっと」
その体液は毒や酸の可能性もあるのでとりあえず躱しておく。
案の定床に飛び散った体液が床を溶かして煙を上げた。やはりな。
「パギュモキュモキュ」
「スギュモグモグ」
こいつ、噛み潰した自分の触手を喰っただと?!
そして触手が枝分かれしてその数は元に戻ってしまう。
「明日香先輩、とりあえずその子を逃がしてきてくれ」
俺は女の子を抱いた明日香先輩を天井の穴目掛けて放り投げる。
「レイジくん、すぐに応援を連れてくるからな!」
そう言って明日香先輩は姿を消したが、相手が一体なら俺とアヤメさんだけでも十分に戦える。
「アヤメさん、離れた所から牽制してくれ!」
「任せてほしいでござる」
アヤメさんがセヴィスの射程外から手裏剣を投げて牽制している間に俺は懐に潜り込んで硬そうな鱗に覆われた胴体に拳を叩き込む!
「ウゲッ?ゲゲボッ!」
ちっ、酸を吐いてきたか!
俺は素早くかわしつつ拳を繰り出す。
「はあっ!」
ボゴアッ!ブチッ!
触手の一本を殴ってちぎり飛ばすと、別の触手がちぎれた触手を食べて分裂し、また元の数に戻ってしまう。
「これではキリがないでござるぞ!」
「ちぎった触手を焼いたりしないといけないのか?…いや、ここにはもっといいものがあるじゃないか」
俺は近くにある車ほどの大きな機械を持ち上げる。
「くらえ!」
「ウゴ?」
「ギャウ?」
「ギギッ?!」
「ゲゲッ!」
機械に押しつぶされて4本の触手が一気に潰れる。
「おお!機械で触手を潰せばもう食べることはできないでござるな!」
よし、残る触手も全部潰してやるぞ!
俺は別の機械を持ち上げるとセヴィスの触手をどんどん潰していく。
「ちっ、何てデタラメなやつだ」
俺が降りてきた穴から覗いていた副担任が手に持っていたスイッチを押したのが見える。
途端にセヴィスの足元に光の輪が浮かび上がる。
それはまるで魔法陣のようだ。
「レイジ殿、あとは胴体だけでござるな!」
「そうなんだが、あれはなんだ?」
すると触手を全て潰され二メートルほどの胴体だけになったセヴィスが光り始める。
「嫌な予感がする。パワーアップとか変身とかする前に倒すぞ!」
「分かったでござる!」
俺は手頃な大きさの機械を思いっきり投げつけ、アヤメさんはありったけの手裏剣を投げつける。
「やったでござるか?!」
「それは言ったらダメなやつだぞ!」
案の定、投げた機械と手裏剣は突き刺さらずに力無く床に落ち、セヴィスの光る胴体が割れるように開いて何かが出てこようとしているのが見える。
「こうなったら直接ぶん殴るまでだ!」
俺は真正面に飛び込み、そいつが出てくるタイミングで拳を叩きつけ……なん、だと?
俺は寸前で拳を止める。
セヴィスの胴体からのそりと出てきたのは、黒い二対の翼を持つ般若のごとき形相をした女悪魔だった。
お読み頂きありがとうございました!




