閑話 穀物売りの日常
閑話含めて三連続更新します!
私は王都で妻の風と一緒に穀物の商いをしている徹だ。
安くたくさんの米や麦を仕入れてこれたのは良かったが、欲張って買いすぎたのか王都に入ってすぐに台車の車輪が壊れてしまった。
王都まで台車を引かせていた牛引きと護衛たちにはもう賃金を払って別れて私の力だけで台車を引いてきたのだが、この大量の穀物をどうやって持って帰ったらいいか途方に暮れるしかなかった。
どんなに手一杯に抱えても5往復はしないといけないだろう。
その間に誰かに盗まれるに違いない。
いくら治安のよい王都でも物を置いて離れるのは盗んでくれと言ってるのと同しだからな。
そんな時、変わった雰囲気の男たちに会った。
男1人に女の子4人という組み合わせだけでも変わっているのに、妙に身なりが小綺麗だ。
それに見たことのない靴を履いている。
その男は私に強兵筒の工房を教えてほしいと言ってきたため、たまたま工房が私の店の近くだから穀物を運ぶことを条件に教えてやることにした。
そして私とその男が荷物を運んでいる間は女の子たちに残りの荷物を見張っていてもらうつもりだった。
しかしその男はなんと壊れた台車ごと穀物の袋の山を軽々と持ち上げたのだ。
何と言う剛力。
私は思わず兵士になったほうがいいと勧めてしまったが、後になってうちで働いてもらえばよかったと後悔した。
そして男はその工房で働くことになり、女の子たちはうちの手伝いをしてくれることになった。
どこで学んだのか彼女たちはみな頭が良く、難しい計算を道具も使わずあっという間に済ませてしまう。
穀物の量に値段を掛け合わせた難しい計算すら一番小さな子でもやれてしまう。
安い穀物をたくさんの人が買いに来てくれて大忙しだったが、彼女たちのおかげで滞りなく販売をすることができた。
しかし、こうやって羽振りが良くなると馬鹿な奴が寄ってくるものだ。
「ようよう、景気良さそうじゃねえか。お金をたくさん持ってるといつ盗まれるかわからないだろ?俺たちが預かってやるよ」
「へへっ、ここに変な奴が来ないか見張ってやるからよ!」
「とりあえず6両でいいぜ」
「ひとりあたりだから4人で30両だな」
見るからに体格が良く、人相と頭はすごく悪いゴロツキどもが4人もやってきた。
「商売の邪魔なのでどいてもらえますか?」
私はこういう手合いは慣れているからいつものようにそっけなくあしらった。
「何だと?てめえ、口答えするか?!」
ブンッ、ドカッ!
それには返事をせず、私は腰から下げた棍棒を地面に打ち付ける。
「「「「ひっ」」」」
「商売の邪魔なんだが?」
4人は一斉に逃げて行った。
ふん、他愛のない。
これでも5人力くらいの腕力はあるんだ。
あんな奴らに負けるものか。
なんて思っていたら今回は勝手が違った。
なんと奴らが仲間を連れてきやがった。
王都で10人ものゴロツキが暴れたらさすがに衛士たちが黙っていないと思うが、いかんせん王都は広い。
助けを求めている間に店が壊されるかもしれない。
だがそういう時は裏口から妻が出て行って衛士を呼んできてくれる。
だから俺は時間を稼げばいい。
そのはずだった。
「あなたっ!」
「風?!」
まさか裏口にも仲間が居るとは思っていなかった。
風は捕まり、小刀のようなものを突き付けられて店の前まで連れて来られる。
「さあ、お金を預からせてもらおうか?」
「6両ずつ10人だから40両だ」
「馬鹿野郎100両だろ」
なんでこんな馬鹿どもにお金を払わなければならないのか?
しかし風の無事には替えられない。
私が棍棒を落とすと、店の中から例の女の子たちが出て来た。
「なんだこのガキたちは?」
「ひょー、結構可愛いじゃねーか!」
「よし、こいつらももらっていこうぜ!こいつの嫁と一緒にな!」
何だと?!
風を連れて行くなど、絶対に許せん!
し、しかし奴らは刃物まで持ち出している…。
「すまない、君たちまで巻き込んでしまった」
「いえ、巻き込まれにきたんですよ」
そう言って前に進み出たのは快活そうな印象のアスカという少女。
「刃物相手の実戦、今度こそ前のような失敗はしません!」
そして滑るようにゴロツキの1人の横に歩いていくと、
くるん、どかっ!
彼女の肩が触れただけにしか見えないのにゴロツキが一回転して地面に頭を打ち付けた!
「な?貴様、よくもやったなあ!」
同時に二人が両側から小刀を振りかざして向かっていくが、
ひゅんひゅん、ドガッ!
「「ぺがっ?!」」
なんと二人が左右逆方向に縦回転し、その額同士をぶつけ合って悶絶してしまった。
「くそっ!おい、おまえらかかれ!」
『くそっ!こうなったら人質は放り出してお前もかかれ!』
「え?わ、わかったぜアニキ」
首をかしげながら妻から手を離して彼女に向っていく男。
「おい、ビン!なにしてやがる!なんで人質から手を離すんだっ!」
「だってさっきアニキがそうしろって言ったじゃないっすか!」
「あの声は俺じゃねえ!わかるだろ!」
「じゃあ誰なんですか!」
それを見てクスクスと笑うハツネという幼い少女。
まさか彼女が何かしたのか?
「風殿は返してもらったでござる」
「おお!」
そして妻をアヤメという女の子が助けてくれていた。
しかしなんという素早さだ?
いつの間に私の横まで妻を連れて来たのだ?
「じゃああとは悪者退治ね」
ルリという女の子は何かよくわからない道具をゴロツキどもに向けている。
パンッパンッ!
パンッパンッ!
「うげっ!」
「目がっ!」
ゴロツキたちの足元に白い小石のようなものが散らばる。
あの道具は狙ったところに小石を飛ばすことができるのか?
「ゲーセンで鍛えた腕はエアガンでも通用するみたいね」
とか言いつつ男たちの眼を狙ってエアガンとか言う物で攻撃を続ける。
彼女がゲーセンというところで鍛えたと言うのなら、私だって若い頃に親戚のおじさんに棒術を教わったのだ!
「たああああっ!」
私が棍棒を振りかざして突っ込むと、相手も3人こちらに向かってきた。
しかし3人くらい、妻を人質に取られて怒り心頭の私の敵ではない!
ボガッ!バキッ!ドコッ!
「あなた!うしろっ!」
振り向くといつの間にか背後に回っていたリーダー格の男が俺の頭に拳を振り下ろしてきたところだった。
『アニキ!危ない!うしろっす!』
「なにっ?!」
振り下ろした手を止めて振り向いて身構える男。
「お、俺は何も言ってないっすよ?!ぴげっ?!」
「何だと?ほごわっ?!」
隙の出来たゴロツキたちを私と彼女たちが仕留めていく。
「まさか刃物を持った10人相手に無傷とは…ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、風さんが無事で良かったですね」
「騒ぎを聞きつけて衛士が来たようでござるな」
「面倒だから私たちは店の中に居ますね。あとはお願いします」
「ああ、任せておけ」
ここに来たばかりの彼女たちの活躍を教えてしまうと面倒なことになるのは間違いない。
ならばここは不本意だが私一人の手柄と言うことにさせてもらおう。
衛士から10人ものゴロツキを捕らえてくれた礼だと言われて朝締めたばかりのニワトリを2羽ももらった。
これはみんなに振る舞わないとな。
「じゃあ焼きますね」
「えっ?丸焼きですか?」
「ええ、ニワトリなんてめったに料理しないから焼くか蒸すくらいしかできないのよ」
「風さん、私たちに任せてもらえます?」
そう言って彼女たちは料理を始めてくれたのだが…しばらくするとすごくいい匂いが漂ってきた。
「できました!から揚げです!」
「手羽先と手羽元は煮物にしました!」
「骨とか余った部分で汁物を作りました!」
ぱくり
「あつっ!だがうまいっ!何だこれは?!サクサクしていて中はすごい肉汁だ!」
「あなた、こっちの煮物はすごく肉が柔らかいの!」
「この汁もなんてうまさだ!」
じゅるり
「ん?」
店の外を見ると、私たちの方を見てよだれをたらしている人たちがたくさんこちらの様子を窺っていた。
「徹さん、なんだかいい匂いがするんで見に来たんだが…なんだねそれは?」
「これはカラアゲというものらしいぞ」
「ちょっと食べさせてはもらえんかな?」
「あいにく量が少ないので、何かお肉を持ってきてくれれば作ってもらうが」
「それなら肉屋に行ってくる!」
「わしのも頼むぞ!」
「お金ならあとで払うからな!」
それからたくさんの肉が届いたのだけど、魚や豚まであった。
それを彼女たちは全てカラアゲや煮物や汁物に変えていった。
「うまっ!なんだこれ?!」
「すごい、肉汁が、よだれが、じゅるる」
「なんとも味のある汁だ…」
いつもうちの店で買い物をしてくれている人たちに喜んでもらえてありがたい限りだ。
「ねえ、これって私でも作れるかしら?」
「風さんなら大丈夫です。それに調味料とか油はこの王都内のものを使ってますから」
昨日仕事が終わってからお駄賃を持って出かけていたと思ったら、そんなものを買ってきていたのか。
「ねえ、あなた。ここでこの料理も売ってみない?」
「え?」
「すごくいい匂いがするから、きっとお客さんがいっぱい来ると思うのよ!」
「そうか!」
なるほど、この匂いは確かに人を引き付ける。
穀物の仕入れが悪い時でもこの料理で稼げるならもっと生活が楽になるに違いない!
「みなさん、手伝ってもらえるますか?」
「私たちはそのうち帰りますが、それまでにお店の準備とかは手伝いますね」
そういえば彼女たちは10日しないうちに帰ると言っていたな。
「それでもいい!ぜひ風に料理を教えてやってくれ!」
こうして私の店は穀物商から料理屋もやる穀物商に、そしてその料理屋が繁盛しすぎて料理屋だけでやっていくようになるのだった。
ちなみに名物は店の小麦を粉にしたものから練って作った麺を入れた汁物だ。
私はこれを妻の名前から『風麺』と名付けていたが娘の拉が生まれるとその名前を取って『拉麺』と名付け直したところ、それは瞬く間に国中に広まっていったのだった。
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