閑話 始皇帝の遺骸と少女入り兵馬俑
三連休なので連続更新します!
始皇帝については史実と創作を織り交ぜています。
時はレイジが100人の嫁をもらえると知った頃まで遡る。
ここは中国。
歴史の長い中国にはまだまだ未発掘の遺跡がたくさんあり、考古学者たちが新しい発見をするべくしのぎを削っていた。
そしてこの山奥の洞窟にも考古学者である大学教授とその助手が新たな遺跡の情報を聞きつけてやってきていた。
「割と新しい豪族の墓と思ったのだが…」
「教授、これはやはり…」
「ああ、間違いない。ここが本当の始皇帝の墓だ」
教授は助手と共に感動に打ち震えていた。
今までは、無数の兵馬俑が納められ、後宮の女性や縁者を後追いとして殉死させた遺骨が埋められ、さらには古代中国では不老不死の象徴としていた水銀で満たされた陵墓こそが始皇帝のものだと思われていた。
肝心な始皇帝の遺骸や遺骨が見つからなかったのは盗掘に遭った際に身にまとった宝飾品などと共に持ち去られてしまったせいだと思われていたが…。
「まさかこんな山奥の入り組んだ洞窟をそのまま墓にしていたとは」
この墓を発見したのはこの辺りに住む木こりだった。
大雨で洞窟に逃げ込んだところ崩落が発生し、洞窟内に隠されていた扉が露出したのだ。
それを聞きつけた教授と助手の二人は新発見に違いないと誰にも知らせず真っ先に飛んできたというわけだ。
そして二人の目の前には真四角に斬られた大きな石の上に横たわった遺骸があった。
その服装、副葬品に記された文字からして、間違いなく彼は始皇帝に違いないと教授は推測する。
「木こりの話ではこの洞窟も数十年前の大地震で入り口が崩れて見つかったものらしい。つまりこの墓は意図的に隠されていたのだ」
「しかし皇帝の墓は権威の象徴でもあります。それがなぜこのように隠すようなことをしたのでしょうか?」
「始皇帝を恐れていたからだ」
「恐れていたって誰がですか?」
「それは始皇帝の子であり、兄である扶蘇を追い落として跡を継いだ胡亥とそれを盛り立てていた趙高や李斯たちだろう」
「死んでしまっては怖くもなんともないのでは?」
「いや、不老不死をひたすら追求していた始皇帝は死んでもいつ蘇ってくるかわからなかった。そう思わせるほどの絶大なカリスマを持ち合わせていた」
「それで本来の陵墓には埋葬せず、ここに埋めてしまったと?」
「そうだ」
「しかしこのとおり、ただの『ミイラ』になってしまっていますけどね」
「うむ。2000年以上たって顔の表情がわかるほどとは、どのような保存方法を使ったのだろうか?」
「教授、それはちょっとおかしいですよ」
「何がだ?」
「始皇帝が蘇らないようにここに封じたのなら、復活しやすいような処置なんてしないはずでは?」
「確かにその通りだな。しかしどう見ても遺体を放置しただけとは思えない肉の残り具合だ」
「洞窟内が寒いからでは?」
「かといって10度以下ではないだろう?どうやって保存されていたかも気になるところだな。よし、さっそく持ち帰って詳しく調べるか」
「はい!」
『それはならぬ』
「ん?何か言ったか?」
「いえ、教授が何かおっしゃられたのでは?」
『言ったのは朕だ』
そう言うと、いきなり始皇帝の遺骸が立ち上がった。
「「ひいいいいっ?!」」
抱き合って悲鳴を上げる二人。
『ふふふ。またしても馬鹿者どもが餌に引っ掛かってやってきたか』
「餌だと?」
『貴様らが出会った木こりは朕の僕。ここへ貴様らのような馬鹿者を連れて来るためのな』
「まさか、ここが新たに見つかった遺跡と言うのは嘘だと言うのか?!」
『そうだ。さあ、朕の復活のための贄となるがよい!』
そう言うと始皇帝は腕を伸ばし、教授と助手の首根っこを掴んだ。
ぶちぶちっ!ばきぼきっ!
肉がちぎれ骨が砕ける音がして二つの肉塊が地面に転がる。
『あぎゃあああああああっ?!朕の手がああああっ?!』
千切られ地面に落ちたのは二人の首ではなく、始皇帝の両手だった。
そしてそれを成し遂げたのは頼りなさそうに見えた助手。
『き、きさまただの人間ではないなっ?!』
「ふっ」
助手はにやりと笑う。
「ある時は助手、またある時は生存請負人、またある時は要人のSP、またある時は謎の武闘家。そしてその実態はっ!」
バッと助手は上着を脱ぎ捨てる。
「世界一の美女智子ちゃんの旦那、綿山徹人だっ!」
ビシッと決めポーズをとる徹人。
ちなみに上着を脱ぎ捨てたところで特別な衣装になったわけでもない。
単に雰囲気を出したかったからだ。
『は?』
「何だ?もしや疑ってるのか?これを見ろ!俺の嫁さん最高だろ!世界一だろっ?!」
そう言うとスマホの待ち受けを見せる徹人。
『朕の姉のほうがずっと美しいぞ!』
「何だとおおおおっ?!」
ぼがっ!
顔面にパンチを喰らって吹き飛ぶ始皇帝。
『よくも朕の高貴なる顔をっ!それにしてもこの強さは考古学者の助手などではなく手練れの…そうか貴様ら!騙されたフリをしていたのかっ!』
「こうも立て続けに考古学者たちが行方不明になったらさすがに気づくだろ?」
この国の考古学者たちは功を焦るあまり行き先も告げずに新しい遺跡に行ってしまうことが多いため被害が広がっていたのだが…。
「まさかキョンシーもどきの始皇帝の仕業だったとはな」
『朕を幽霊如きと同一視して愚弄するかっ!ええい!出でよ!忠実なる僕たちよっ!』
するとあちこちから兵馬俑が集まってきて整列する。
「すげえ。動くのかこれ」
『さあ、死ぬがよい!』
身長180センチを超える兵馬俑だちが武器を手にして襲い掛かってくる。
ヒュン
しかし部屋の中に一条の光が走ったかと思うと、兵馬俑たちがバタバタと崩れ落ちてしまう。
『何だと?!』
「これは僕というより、貴様が霊糸で操っているのだろう?俺がそれを断ち切っただけだ」
『ぬうう!そうだ!摘…いや、斎姫よ!そいつを倒せ!』
始皇帝は部屋の隅に置かれた背の低い兵馬俑に命令を下す。
するとその兵馬俑も動き始める。
「ん?霊糸が見えないだと?」
『そいつは朕が操っているわけではないぞ!何しろ中身があるのだからなっ!』
「何だと?!」
兵馬俑の中身などないはず。
しかしこの中には『人』が入れられていた。
『う…あう…皇帝陛下ぁ…』
兵馬俑から10歳ほどに見える少女の霊のようなものが顔を出す。
おそらくこの中に入れて殺された少女なのだろう。
「しかも女の子を入れただとっ?!」
徹人の顔が怒りの形相となる。
「貴様は許さん!」
『はっはっはっは。腕をちぎったぐらいでいい気になるな!見よ!』
足元に落ちていた始皇帝の両手が宙を舞い、元通りにくっつく。
「朕を例え細切れにしようとも死にはせぬ!朕は真に不死身なのだからなっ!』
「そうかい」
ズズズズズズズ
ゴゴゴゴゴゴゴ
徹人は始皇帝の遺骸が安置されていた数トンもある巨石を持ち上げた。
『は?』
ミイラの始皇帝の眼が点になったように見えた。
ぷちっ
そして始皇帝はあっさりと圧殺された。
「これで生きていたとしても何もできないだろ?」
「徹人君は相変わらず無茶苦茶しますねえ」
おとり役を買って出た教授がため息をつく。
『ああ…陛下…』
そして兵馬俑の少女はまだ動いていた。
『おねがい…わたしを…こわして…しにた…い…』
そしてまったく動かなくなった。
「成仏させるってのは俺の特技じゃないんだが…」
「普通に壊したらいいのではないか?」
「それではこの子が救われるかどうかわからないからな。仕方ない、叡恵に頼むか」
ぴろん
その時、スマホのRINEの着信音が鳴った。
「マリアからか…何だと?!」
「どうしたんだ徹人?娘さんからか?」
「ほう…俺の息子が、嫁を100人もらうことになったらしい」
「何だって?!この世にはそういう人間が居るとは聞いていたが…徹人の息子がそうだったのか!」
「1人目の嫁は神様で2人目はエルフ…そうかそれなら…」
徹人は娘のマリアに素早く返信する。
『…発掘した少女をそちらに送るから、その子も嫁さんにしてくれるか?』
「霊を見た限り可愛い女の子だし、神様とかが付いているならあっちで何とかしてくれるだろ」
「しかし中身の入った兵馬俑なんて希少なもの、外国に持ち出せないぞ」
「じゃあ俺への依頼料はこれにしてもらうよ」
「私もそれを研究したかったが、仕方ないな。その中身は無かったことにしておくよ」
「すまんな教授」
そして少女の入った兵馬俑はレイジの元へと送られたのだった。
『よくも朕を…こ…このままでは…すまさん…ぞ…』
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