第92話 物語のお約束展開です!
私は、灯磨の部屋まで来ました。 正直言うと、辛いです。 お約束展開が本当にくるなんて、思って無かったからーー
でも涙は、途中で拭きました! だって、私はメイドですから。 お客様が来たら、ご主人様に取り次ぐのがお仕事です。
書斎の扉を、ノックしました。
「入れ」
「失礼します」
鵠沼さんは、いつも通り書類に向かっていました。 その横顔を見て、また胸が痛くなっちゃう。
ーーだめだめ。 今は、お仕事しなくちゃ!
「あの……花山院菜奈という方が、いらっしゃいました」
「……なんだと?」
灯磨が、顔を上げました。 ーー動揺しているのかな?
「……俺は連絡をもらってないが?」
「借りたと言う、服を持って来ました!」
「……服?」
灯磨は、そこで動きを止めました。 顎に手を当てて、じっと宙を見つめています。 眉間に皺が寄って。 目が細くなって。 なんだか、すごく真剣な顔です。
ーー好き。 やっぱり、諦められないよ。
私は、静かに待ちました。 ーーカッ。 灯磨が、目を見開きました!
そして、椅子から立ち上がって、庭園に向かって指を突きつけました。
「わかったぞ! アイツのことは、スルッとマルッとお見通しだ!」
ーーわあ。 灯磨の名探偵スチルだ! かっこいいなぁ〜
私は、思わず両手を握りしめていました。
「鵠沼さん、かっこいいです!」
「……」
灯磨が、固まりました。 それから、ゆっくりと腕を下ろして。
「……ゴホン」
咳払いをしました。 ーーどうしたんでしょう? 風邪を引いたのかな?
「……花山院菜奈のところに、案内を頼む」
「はい、わかりました!」
応接室の扉を開けると、花山院さんの艶めかしい声でこう言いました。
「灯磨くん❤️ こんにちは〜」
「花山院」
「菜奈、って呼んでよ〜 私と、灯磨くんの中じゃない〜」
「……」
灯磨は、椅子に座ります。 そして、腕を組んで言いました。
「この前話しただろう。 俺はお前との婚約話を、正式に破棄したと」
「そんなこともあったわね」
ーー破棄? 断ったってことですか? 私は、思わず二人を交互に見ました。
花山院さんは、カップを置いて、頬杖をつきました。
「なら、なぜ来た」
「服を返しに」
「別に直接来る必要はないだろう! 輸送しろ!」
「やだ! ついでに、灯磨くんの顔が見たかったから……」
花山院さんはそう言うと、胸元をはだけさせ始めました! 破廉恥です!
灯磨は、深々と溜息をつきました。 ここは、私がなんとかしないと。
「あ、あの! よくないと思います!」
私は、思わず口を挟んでいました。
「……あら? まだいたの? 新人メイドさん?」
「え、えっと、その」
「……今の状況を、見ればわかるでしょ? 邪魔なのよ、貴方……」
「……」
花山院さんが、目をギラギラさせて私を睨んできます。 ーーでも、私も負けていられません!
「……よくないです! 密室で二人っきりなんて!」
「貴方には関係ないでしょ?」
「あります!」
私は、花山院さんにグイッと近づきます。 顔が、熱くなってきたよ!
花山院さんと私は間近で睨み合いました。 ーーその時。
「ふふ。 ……なるほどね。 貴方も灯磨くんが好きなんでしょう!」
ーー花山院さんは、私にだけ聞こえる声で、そう言いました。




