第89話 新人メイドは物語の中
「私は用事があるから、貴方は好きにして! ……でも、灯磨の近くは駄目よ」
「はい、わかりました!」
望美さんがどこかに行ったので、私は玄関ホールの床を磨いていた。
だって、やっぱり掃除がメイドの基本行為だから。 広いなぁ。 鏡じゃないのに自分の顔が映るんだよ!
そうしていると、玄関のドアが開いた。 二人の女性が仲良く帰って来た。
一人は、七瀬莉央さん。 もう一人は、土間真里さんだ。
「めぐっちじゃん。 元気?」
「はい、莉央さん! お久しぶりです!」
「恵ちゃんやないかい!」
「はい。 お久しぶりですマリモさん」
二人とも、笑顔で私に挨拶してくれた。
「ねぇねぇ、めぐっち! あ〜し、玄関先の警備員のオッサンから聞いたんだけど……ナポリタンを全員に振る舞ったって本当?」
「はい!」
「なんでやねん!」
「そうですよね。 望美さんも驚いてました。 なんじゃこりゃって……」
私がそう答えると、二人とも大爆笑してた。 ーーどうしたんだろう?
「メイドモードの望美はんにそんなツッコミさせるなんて、ウチにはできんわ」
「本当よね〜 マリモちゃんは、完全に騙されてたかんね!」
「えっと……」
ーーなんだろう? 騙されたって?
「あの……」
「お二人とも、おかえりなさい……」
「あ、望美さん」
私が続きを聞こうとした時、望美さんが現れた。
「ブブ。 あ〜し限界……」
「……二人とも、余計なことは、言ってないでしょうね?」
「べ、別に、言ってへんで〜」
「……それならいいんですが」
「じゃあ、ウチらはこの辺で……恵ちゃん、後でな!」
「はい、よろしくお願いします!」
マリモさんはそう言って、蹲っている莉央さんと一緒に中に入って行ったーー
望美さんは私にずいっと、近づいてこう言った。
「……なぜ? 玄関の掃除をしているの? 好きにしてって言ったのに」
「えっと、メイドと言えば掃除だからです! 好きです掃除!」
「本当かしら? ……本当は別の目的があるんじゃない? 例えば……」
ーー望美さんの顔が近い。 表情は隠れているけど、怪しまれてる?
「……この屋敷や鵠沼灯磨を自分のモノにしたいとか?」
「わかっちゃいます? いいですよね、その展開! 私、憧れなんです!」
「……ええ、わかりますとも。 ようやく、尻尾を掴んだわ……」
ーー望美さんにわかってくれてよかった!
私は、望美さんの前に手を差し出す。 望美さんはポカンとしていた。
「望美さん! 同じライバルとして頑張りましょう!」
「……ライバル?」
「はい! 私と考えていることが一緒ですよね?」
「はっ。 なるほど。 そう言うことか……」
望美さんがわかってくれたのか、握手を返してくれた。
ーーよし! これから頑張るぞい! 目指せ、灯磨のお嫁さん。




