第88話 トラブル回避で印象アップです! ーー中川恵視点
お屋敷でのお仕事、初日です。 さあ、頑張るぞい!
「まずは、基本から教えます」
望美さんが、サングラス越しにそう言った。
ーーあ、ややこしいですよね?
えっと、クラスメイトの小川望美さんじゃなくて、こちらのお屋敷の望美さんの方です。 同じ名前で、同じ漢字。 世の中って不思議ですね!
「はい! よろしくお願いします!」
「返事だけは、いいですね? ……その元気は今だけですよ?」
「あ、ありがとうございます?」
なんだろう、違和感を覚えます。 とっても、拗ねてる様な気がします。
「では、まずは場所案内します。 荷物を持って、ついて来てください」
「はい、わかりました!」
私は家から持って来たバッグを持って、望美さんの後ろを歩いた。
案内されたのは、物置部屋だった。 寝る場所もないけど?
「ここが、貴方の寝室です……」
「あの……どこで寝ればいいでしょうか?」
私がそう答えると、望美さんは、ダンボールをひと箱持って来た。
「……はい、どうぞ」
「これは?」
「貴方にピッタリの寝床です。 お似合いですよ?」
「……えっと」
そのダンボールには、マジックペンで『メグちゃん』と書いてあった。
ーーこんな狭いダンボールじゃ、眠れないよ?
「無理ですよ、私は猫じゃないですし……狭すぎます!」
「はあ。 まったく、甘えですか? ……仕方ないですね」
甘えって言うか、そのーー
そう言うと、望美さんはその箱を潰して、台の上に置いた。
「寝床、一丁上がり〜」
「へ?」
ーーこれが寝床、ですか? 私は、めまいがした。
やっぱり、この屋敷にはイジメが横行しているんだ。 土間さんーー
私は、勇気を振り絞って、望美さんに問いかけます。
「あ、あの、望美さん」
「はい」
「ここで寝ろと?」
「ええ」
「……酷い、扱いです」
ーーまるで、小説の中に出てくる哀れなヒロインみたいだよ。
「……望美さん」
「なんでしょう?」
「私、頑張ります、ここで寝ます! おやすみなさい」
「む、むむ。 はぁ……冗談よ」
ーー結局。 この前宿泊した場所と、同じ場所に案内されました! 正直、安心したのは内緒ですね。
「恵さんには、朝ご飯と昼ご飯を担当してもらいます」
「はい!」
ーープレッシャーを感じるよ! ドキドキしちゃう。
「ここが冷蔵庫。 ここが調味料その他冷蔵庫……」
へえ! 分けてあるんですね! さすが、です!
「それから、貴方の餌ね」
「はい! 餌?」
そこには、またマジックペンで『メグちゃんの餌』と書かれていた。
中身は、キャットフードだった。
「この屋敷、猫いるんですか?」
「ええ、名前を……恵って言うのよ?」
「……恵? 私と同じ名前なんですか」
「貴方のことよ、この泥棒猫!」
「え?」
ーー私のこと? まさか、またツッコミ待ちなのかな?
望美さんが、こちらを見ている。 表情は、マスクとサングラスで見えないけど。
「……えっと。 わざわざ、このためにキャットフードを買ったんですか?」
「そうですが。 なにか問題でも?」
「あんまり、そう言うの良くないと思います! もったいないです!」
「へぇ? 私に意見を言うのね? ……どうなっても、知りませんよ?」
ーーどうしよう、怒らせちゃった。 でも、事実だからね。
望美さんは、そう言うと。 私にご飯を作るようにとだけ言って、キャットフードと一緒に去って行った。
お昼ごはんは、ナポリタンにした。 灯磨も美味しそうに食べてくれた。
そして、私の食べる番なんだけどーー 望美さんしかいない。
「あの。 望美さんだけですか?」
「ええ。 みんな、所用で昼間はいません。 ……だから、貴方を呼んだのです」
「そうなんですね……どうしよう」
「……なんです? 私と一緒は嫌だと? 今更、キャンセルはできませんからね?」
「いいえ。 その。 張り切って、作りすぎちゃって……」
首を傾げる望美さんを、私は厨房へ案内する。
「な、なんじゃこりゃ!」
「すみません、張り切っちゃいました!」
「張り切り過ぎでしょ!」
ーー目の前には大量のナポリタンがあった
「よりにもよって、麺って……どうするのよ」
「どうしましょう……」
「食い切れず処分なんて、怜子にバレたら半日間、正座反省会よ?」
「え! 私、正座できません……」
二人して固まってしまいました。 大ピンチです!
すると、望美さんはため息をついてこう言いました。
「……仕方ないわね。 恵、警備員さんたちに持って行くわよ!」
「は、はい!」
私たちは、屋敷の詰所へナポリタンを持参した。
ーーお陰で、屋敷の警備員さんたちに、私の顔を覚えていただきました。
偶然だったけど。 素晴らしい、嫁入り完了です!
「ふ、侮れないわね。 中川恵。 さすが泥棒猫……」




