第82話 修羅場のパーティー会場
静まり返り、まるで時が止まったようだった。 三百人の招待客。 全員が、こちらを見ている。 誰も、動かない。
グラスを持つ手も、皿に伸ばした手も、そのまま固まっている。
ーー俺の思考は、完全に停止していた。 脳が処理を拒否している。 今、何が起きたんだ?
「灯磨。 また、お前か」
「ち、父上……」
背後から、声がした。
振り返ると、養父が立っていた。 その隣に、花山院清嗣氏。
俺は、望美を守るように前へ出た。 いや、それしか出来なかった。
「花山院様。 この度は、とんでもないご無礼を……」
「なぜ、ケーキを投げた?」
「それは……」
ーーそんなの、俺の方が知りたいわ! 俺は、深く頭を下げながらそう思った。
「灯磨君。 顔を上げなさい」
花山院氏の声は、意外なほど穏やかだった。 顔を上げた。 花山院氏の顔は、鬼の様だった。
「ひぃ……」
「……久しぶりに見ましたよ、こんな馬鹿者を……」
ーーヤバいよ、逃げたい。 ガチギレじゃん。
「あの子はね、灯磨君。 我が家の誇りなんですよ」
「……」
花山院氏は、俺を冷徹な表情で見る。 鳥肌が立ってきたーー
「誰も、あの子に本気で怒らない。 花山院の娘に、面と向かってものを言う人間はいなかった。 ……なぜだろうね?」
「ひっ……」
カチカチ音が鳴る。 鳥肌が立って、冷や汗が流れる。 やばい!
「……答えは、簡単です。 全部排除して来たからですよ。 そんな馬鹿をね?」
「……っ」
俺は、菜奈を見た。 彼女の表情はケーキに隠れて見えない。
今度は望美を見た。 唖然とした表情で俺を見ていた。 え? なんだその反応は! お前が犯したんだろうが!
ーーすべて、終わった。 そう思った時。 養父が、口を開いた。
「花山院氏。 当家の非は当家の非だ、責任は私にある……」
「ほう? ……では、どの様に責任を取るのでしょうか?」
「今から、儂の首を差し出す……」
「ほう?」
ーーすると、養父は壇場に上がり、こう言った。
「……私、鵠沼玄一郎は、責任を取り。 今日限りで、表舞台から姿を消します……」
俺は、その声をまるで他人事のように聞いていたーー




