第69話 レイヤー 黒崎怜子
「わかりました。 お母様に見せます」
千早ちゃんは、そう言うて絵日記を抱えた。
「マリモちゃんもついて来てください」
そう言って、千早ちゃんはテクテクと歩き出した。
怜子はんの部屋の扉の前に立った瞬間、ウチは、なんとなく背筋を伸ばした。
普段着が喪服の人や。 部屋の中も、たぶん暗いんやろな。
ウチは、勝手にそんな想像をしてた。
千早ちゃんが、ノックもせずに扉を開けた。
「悪党ね! 星に変わって、お仕置きよ⭐️」
怜子はんが、鏡に向かって、ポーズを取ってた。
部屋いっぱいに、服がかかってた。 ハンガーが何十本もあって、フリルとリボンとレースが、天井から下がっとる。 ピンク。 黒。 白。 水色。 全部かわいいなぁ〜
鏡台に、香水の瓶が並んでる。 テーブルに、リボンのかかった箱。 壁際に、大きな鏡。
その、鏡の前に。 怜子はんが、立ってはった。
黒とピンクのフリフリのドレス。 コルセットみたいに紐が編んである。 スカートがふわっと広がって、星の模様が散らしてある。
肩が出てる。 手袋が長い。 ニーソックスや。
頭に、とんがり帽子。 ピンクのリボンとベールがついてる。
手に、星のついたステッキ。 魔法少女やな!
完璧な魔法少女が、そこに立ってはった。
「え? コスプレでっか?」
「……! ……マリモさん!」
沈黙が流れた。 ウチは動けんかった。
怜子はんも動かんかった。 鏡越しに、目が合うた。
「あの、怜子はん」
「はい……」
「その、お召し物は」
「……これは、夏フェスの……衣装です」
ーー夏フェス? コミケに参加するんかいな!
「お母様、似合ってます」
千早ちゃんが、真顔で言うた。
「……ありがとう。 でもね、今度からはノックしようね?」
「はい」
怜子はんが、ステッキを胸に抱えて、そっと頭を下げた。
「お母様、絵日記を見てほしいです」
「……絵日記? どうしたのですか?」
「はい。 マリモちゃんが、アカンと言いました」
「アカン? ……はて、なんでしょう?」
千早ちゃんが、絵日記をずいっと差し出した。
怜子はんは、とんがり帽子のまま、それを受け取った。
ページをめくる。 この絵面、なんやろな。
魔法少女が、絵日記を読んでるわ。
怜子はんは、最初は優しい表情で読んでたんやけど、次第に人相が悪なってた。
「……よくは書けています……文字は、丁寧です……」
「よかったです」
怜子はんは、ページをめくる手を止めた。
「……ところで、千早。 これは誰に教わりましたか?」
「はい。 奥様と莉央お姉さんが教えてくれました」
「へえ……」
怜子はんの目がギラリと光ったわ。 ーーこれ、アカン奴や。
「……私、大事な用事がありますので、失礼いたします……」
ーーそう言って怜子はんは、部屋を出てかはった。
その格好のままで、ええんやろうか?




