当主にかます新人メイド
「では、旦那様にご挨拶に行きますよ」
「よっしゃ! 今度こそ、一発かましたるで〜」
「かます? ……それは、どの様な意味でしょうか?」
「……えっとな、力を見せつけるって意味やで!」
「なるほど。 勉強になります」
ウチは千早ちゃんの後ろについて歩き出した。
小っさい背中やで。 そのくせ歩き方は堂々としてて、廊下の真ん中を進んでいきはる。
ーーところで、旦那様ゆうてたな?
「あの、千早ちゃん?」
「なんですか、マリモちゃん?」
「さっきから気になってたんやけど。 千早ちゃん、望美はんのこと、奥様って呼んでへんかった?」
「はい。 それが何か?」
千早ちゃんがうちを見上げてくる。
「望美はんてメイド長やろ?」
「はい。 奥様は、メイド長です」
「え? なんやそれ?」
千早ちゃんは当たり前にそう言うと、再び前へ歩き出しおった。
ーー今から会う、当主様ってどんな人なんや?
ウチがイメージしてんのは、壮年のオジサマやで。
それでな、スーツがピシッとしててな! 鋭い眼光でウチの格好とか見てくるんや! あれ?
不意にハッとなって、ウチは自分の格好を見下ろしたわ。
Tシャツ。 ジーンズ。 エプロン。 まりもの鉢巻。 『新人メイドマリモちゃんやで!』のタスキ。
「あれ? ウチこの格好で、当主様に会うんかいな!」
「はい。 なにか問題でも?」
「そんなん! アリ中の大アリや!」
「アリ中の大アリ……」
「問題あるちゅう意味や! 今すぐに戻るで!」
「なるほど。 わかりました」
ウチは千早ちゃんを説得して、引き換えそうとした時、前のドアが開いて、中から若い男が出て来よった。
「……お前たちは、なにを騒いでいるんだ?」
ソイツは、まだウチより若い男やった。 呆れた目でウチのことを覗いとった。
くだらないことするな、ちゅう目や。 ーー舐めとんな、ウチより若いガキが。
ウチイラッときたわ。 ソイツに向かって、睨み返して言ってやるんや!
「ウチは、今から出戻るさかいに、声かけんなや! クソガキ!」
「ヒ。 ……え? お、おう……」
「オウ。 わかればいいんや、わかれば! 舐めんなや!」
ウチの発言に萎縮しおったで、これは勝ち確や!
「旦那様。 今、マリモちゃんがアリ中の大アリなので、失礼いたします……」
「ち、千早。 その……アリ中の大アリとは?」
「問題があるという意味です旦那様……」
「そや! 千早ちゃん。 さっそく使えて偉い……うん? 旦那様?」
「……ひっ、そんな侮辱した目で俺を見るなぁ!」
ウチが慌てて振り向くと、彼はビクッとして慌てて部屋の中に入って行きおったわ。 ーーアチャ。 盛大にやらかしたわ。
◇
「旦那様。 新しく入りました者を、お連れいたしました」
千早ちゃんが、深々と頭を下げた。
ウチも慌てて下げた。 下げながら、心臓がばくばく言うてた。
「ほ、本日からお世話になります。 土間真里と申します。 その、掃除係として……」
「……」
返事がない。 顔を上げられへん。 沈黙が、めちゃくちゃ長かった。
「(……はあ。大丈夫だ。 ……問題ないはずなんだ。)……鵠沼灯磨だ」
「は、はい」
「……それから、さっきもことは、忘れてくれ……」
「へっへい」
そう言いながら、えらいコッチ睨んでくるやん。
夏やのに、ピッシリスーツ姿やし目がギラギラしてはるし。
これが名家の当主か。 いろんな意味でびっくりやで!




