第59話 鵠沼家の主との出会い
ウチの名前は土間真里。 土間って書いて「どま」や。
キャンパスのみんなには、マリモちゃんって呼ばれてる。 理由は言わんでもわかるやろ。 この頭や。
春の入学前に腰まであった髪をバッサリいって、そのままの勢いで丸めたった。
そしたら、もう伸ばす気ぃなくなってもうた。
友達には「思い切りすぎ」って言われたけど、ウチは気に入ってる。 シャンプー三秒で終わるんやで。 最高やん。
で、そのキャンパスに通いたい一心で始めた一人暮らしやったんやけど。
ーー借りてた部屋の契約が、夏休み前までやってん。
そんな時に手を差し伸べてくれたのが、七瀬莉央先輩や。
「住み込みのバイト、ひとつ空いてるけど」
「ホンマでっか、七瀬先輩!」
「ホンマ。 それに面白いよ、あそこ……」
「……?」
七瀬先輩は大学に通いながら、その屋敷にコックとして住み込みで働いてるらしいねん。
「掃除係、募集してるから。 三食付き、個室、給料も出る」
「先輩。 詐欺ちゃいますの、それ?」
「……私も、当時同じことを思った」
「……ホンマでっか?」
そんなわけで。 ウチは今、めちゃくちゃデカい門の前に立っている。
ーー鵠沼家。
このあたりじゃ名家なんやて、と先輩は言うてた。
名家。ええ響きやけど、うちの想像する名家は、せいぜい「庭が広い一軒家」くらいのもんやった。
目の前にあるんは、門や。 鉄でぐるぐるの模様が編んであって、てっぺんに王冠と獅子の紋章がある門て。
そして門の内側には、警備員さんが立ってはる。 二人。 いや三人もおる。
ウチのスーツケースを引く手が止まってもうたわ。
「あ、あの、すいません!」
「……」
警備員さんに声をかける。 声が裏返ったわ。
「失礼ですが、ここが鵠沼さんのお宅で間違いないんかなぁ?」
「はい、そうですが…」
ーーマジやった。 やばい、ガチなヤツやん。
「本日からお世話になります、土間真里と申します!」
「……」
「あ、あの。 七瀬莉央さんの紹介をいただきまして……」
警備員さんは、ちょっと考えるように黙って、それから言うた。
「……確認させていただきます」
玄関ホールに通されて、ウチは声を失った。
あれや。 これはドラマの世界や!
「土間真里様でお間違えないでしょうか?」
「はっ、はい!」
声がした。 振り向いたら、女の人が立っていた。
黒いワンピースに、白いエプロン。髪をきっちりまとめて、背筋がピンって伸びてはる。 メイドさんや。
「本日よりお世話になります、土間真里と申します! よろしくお願いします!」
「……メイド長の小川望美と申します」
ーーそれが、この屋敷の主との出会いやったわ。




