第52話 人気者のクラスメイトの訪問 ーー中川視点
私は家でのんびりしながら、昨日のことを思い出していた。
昨日は、楽しかったなぁ。 イルカショーも最高だった。
特に最高だったのは、鵠沼さんーー灯磨と一緒に二人だけで水族館を周れたことだ。
ーーねぇ? あれってデートだよね? やった!
灯磨のあの言葉を何度も思い出している。 思い出すたびに、顔が熱くなるので、困るなぁ。 本当に好きすぎるよぉ。
そんなことを考えながら、私はだらだらしていた。 だって今日は休日だし。 洗濯も掃除も、朝のうちに全部終わらせたし。
お母さんは慌てて、出版社に行ってしまったし。 今日も一人きりだ。
だぼだぼのTシャツに、部屋着のズボン。 胸元にはサングラスをかけた柴犬がプリントされていて、『自宅警備員ですが何か?』と書いてある。 とってもかわいいお気に入りだ。
ーーピンポーン。 インターホンが鳴った。
「はーい」
のそのそと玄関へ向かい、扉を開ける。 するとそこにはーー
「あら、不用心ね? 私が不審者だったら、どうするつもりなのかしら? ……ちゃんと、インターホンから応答しないと駄目よ? 最初からやり直しだわ」
小川さんだった。 黒い、ドレス姿の。 まるで、豪邸の奥様みたいーー
「…………え」
「聞こえなかったのかしら?」
「……は、はい……」
声が出なかった。
編み上げのコルセット。 黒いレースの重なった裾。 肩には透けるようなショールを羽織っていた。 え、なんで?
ポカンとしながらも、言われた通りに家に入って、インターホンに向かう私。
ーーピーポーン。 まるで、催促するように再びなりました。
「はい。 中川ですが……」
「こんにちは〜 中川さん〜 昨日のお洋服、返しに来たの〜」
「あ、ありがとうございます……」
また玄関に出ると、ニコニコした表情の望美さんがいた。
ーーまるで、さっきの出来事がなかったみたいだった。
私は、紙袋を受け取る。 ちゃんと畳まれて、いい匂いがした。
「……あの、小川さん」
「なぁに?」
「その、お洋服は……」
「ああ、これ?」
小川さんは、ふふ、と笑った。 勝ち誇ったような、なんだかとても機嫌のいい笑い方だった。
「これ? そう、これはある人からのプレゼントよ!」
「プレゼントですか! すごく、綺麗です!」
「ふふ。 ありがとう〜」
小川さんは、それはもう嬉しそうに笑った。 それから、私にこう言った。
「昨日は、その……ごめんなさい」
「え?」
「私、イルカショーって初めてだったから、あんなことになるなって思わなかったの……」
小川さんが、遠い目をした。 ちょっとだけ、キョロキョロしている。
「そうですよね! 私も初めて行った時、そうだったんです!」
「貴方が着替えを持ってきてくれなかったら、私は昨日ずっとびしょ濡れのままだった……ありがとう、中川さん」
その言葉に、私は一瞬、息が止まった。 私にできることを、ちゃんと見ていてくれた人がここにもいたんだ。
「……こちらこそ、ありがとうございます」
「……え。 あ、その……うん? どうしたの〜」
「えっと……お友達に、なってくれて」
「と、友達? 私と貴方が?」
小川さんが、ぱちぱちと瞬きをした。 それから、少しだけ困ったように笑って、私の頭にぽんと手を置いた。
「だったら……お家の中に入ってもよろしいかしら?」
「え? ……ど、どうぞ!」
「では、お言葉に甘えて……」
黒いドレスの裾を翻して、小川さんは中に入って行った。




