第5話 喪服の使用人
次の日の朝。 今日は学校は休みだ。
俺が広間に下りていくと、すでに望美が待っていた。
「おはようございます、旦那様……」
メイド服の望美が、深々と頭を下げる。 朝から平常運転だ。
おそらくだが、望美は今日。 この挨拶のためだけに、わざわざメイド服に袖を通しているのだろう。
この後、部屋に戻ってさっきまで着ていた、ラフな服装に着替えるはずだ。
なぜ、そんなことを知っているかって? 彼女の部屋は俺の窓から丸見えなのだ。
ーーおい! 俺を変態扱いするな! 窓辺のデスクしか見えないから。
ちょっと、窓から見える望美の様子を覗いていただけだ。
主人たる者、自らの『所有物』の管理は大切だからな?
だが、これはバレない。 しかも、距離がだいぶ離れているからな! 万が一にでもバレることはない。
ーー万が一にもバレたら、俺は愛想をつかされるだろう。
『……ご主人様、失望しました……最悪ですね』
望美が俺を拒絶するイメージが、俺の頭を支配する。
「……旦那様?」
「……っ」
望美の声で正気に戻った俺は、チラリと望美を見た後、食卓に座る。
望美の隣で、黒いドレスにヴェールを纏った女が、静かに会釈した。
「おはようございます、ご主人様。 今朝はよく冷えますね」
黒崎怜子。 喪服のような装いを崩さないこの女が屋敷に住むようになった経緯を、俺はあまり知らない。 ただ、所作の一つ一つが古風で、声は落ち着いている。
その怜子のスカートの陰から、小さな顔がこちらを覗いていた。
「おはようございます。 旦那様」
黒崎千早。 怜子の娘で、母と揃いの黒い服を着た幼い少女だ。 母にそっくりの黒髪に、まだあどけなさの残る顔だ。
「ふふ。 挨拶できて偉いですよ、千早」
「はい、お母様」
「ああ、おはよう」
俺が短く返すと、千早はヴェール越しに、じっとこちらを見上げてきた。
「灯磨くん! あーしの美味しい朝食ができたよ!」
厨房の方から、莉央が俺の朝食を、鼻歌を歌いながら持ってきた。
望美が歩み寄り、音もなく俺の前に湯気の立つカップを置く。 俺は、望美と彼女のメイド服を見る。
その横顔は、やはり能面だ。 ーーそして黒だ。
「……」
「……?」
望美からは、何も読み取れない。 だが俺の妄想のせいで、心臓がドキドキした。




