第4話 ピンク髪の料理人
「旦那様……旦那様?」
「あ……は!」
昔の思い出に耽っていた俺は、その声で我に返った。
望美が心配そうな目で、俺を見ている。
「今日のお食事が、お口に合いませんでしたか?」
「……」
俺は皿に、視線を落とす。 ステーキはまだ半分以上残っていた。 別に、不味いわけではない。 ただ考え事をしていただけだ。
ーーだが、その問いに反応したのは、俺ではなかった。
「……なに? ちょっと待って」
厨房の方から、ずかずかと足音が近づいてくる。 ピンク色の髪を頭巾でまとめ、ラフなキャミソールの上にエプロンを巻いた女が、腰に手を当てて仁王立ちした。
七瀬莉央ーーこの屋敷の料理を作ることを条件に住み込んでいる女子大生だ。
「灯磨くん? あーしが作ったご飯が、不味いっていうの?」
「……そうなんですか? 旦那様?」
俺は、首を横に振る。
「……ふ〜ん。 なんだ、驚かせないでよ」
莉央はそれだけ言うと、ニッコリ、ウインクをして厨房へ引き返していった。 どこがとは言わないが、歩くたびに揺れている。
ーーまったく、この屋敷の女たちは心臓に悪い。
「……旦那様? 彼女の胸元ばかり見て、はしたないですよ?」
「……」
望美が、再び呼ぶ。 彼女の声に嫉妬が混ぜっている気がするのは、俺の妄想だろう。
「……ただ、考え事をしていただけだ」
俺がそう言うと、望美は深々と頭を下げた。
◇◇◇
灯磨が執務室に入った後、莉央が私に話しかけてきた。
表情は、どこか楽しそうだ。 ーー調子に乗っているわね?
「ねえねえ、灯磨くんとどんな感じ?」
「ふふ。 とっても、いい感じだわ」
「さっきも、望美のことジッとみてたかんね!」
莉央はそういうと、胸元で腕を組んだ。
薄着のキャミソールからはみ出した二つの塊が、私に主張してくる。
ーーなにかしら? イライラするわね。
「……ところで莉央? さっきのウインクはなんのつもり? 私の灯磨に色目を使っている訳?」
「へ?」
私がそう言うと、莉央はオドオドし始めた。
「別に使ってないって! こんなの挨拶じゃん! ホラ!」
「本当かしら? 侮れないわね……」
灯磨は私だけの『モノ』なんだから、余計な害虫は排除しないとね?
ーーそれにしても、なにをボーっとしてたのかしら?
「まあ、あの苦虫を噛んだ表情は傑作だったからいいや」
「望美。 あ〜しそういう悪趣味、やめた方がいいと思うんだよね?」
「……あら? どうしてかしら?」
「勘って奴? 絶対に後悔するって! のぞみっち!」




