第3話 昔の思い出
この屋敷に養子で来た頃の俺は、有頂天だった。
俺は生まれながらの孤児だった。 そんなある日、今の養父の家に養子に入ったんだ。 我ながら、幸運だった。 しかし、当時の俺は履き違えた。
ただの養子であるにも関わらず、威張り散らし、他人を下に見てばかりだった。
ーーお陰で友達なんていない。 それどころか、影で笑われる日々。
まあ、俺としてはこんな有象無象の妬みなど、気にしないがな。
だが、そんな俺に話しかけてくる奴ーーいや、馬鹿がいた。
「ねえ?」
「……なんだ?」
そいつはニヤニヤとした表情で、俺に話しかけてくるのだ。
「ねぇねぇ、きみ、とうまくんっていうんでしょ!」
教室の椅子でふんぞり返っていた俺に、そいつはニヤニヤしながら話しかけてきた。
「……だったら何だ」
「へへへ」
当時の俺は、五歳児のくせに妙に大人びた口を利いた。
鵠沼の人間として恥じぬ振る舞いを、と養父に言われていたからだ。 周りの子供が泥団子を握って笑い合っているのが、俺には心底くだらなく見えていた。
「とうまくんて、いっつもひとりだから! いっしょに遊んであげようとおもって!」
「断る。 俺は貴様らと違って、遊んでいる暇などない!」
今思えば、五歳児が何を言っているのかという話だが、当時の俺は大真面目だった。
普通の子供なら、ここで「なにそれ、へんなの」と離れていく。 実際、そうやって俺の周りからは誰もいなくなった。 だから、こいつもそうなると思っていた。
ところが、望美はーー
「ふーん。 じゃあ、ひまになったらいってね!」
ニヤニヤしたまま、そう言って、俺の隣にぺたんと座り込んだのだ。
「……おい。 断ると言っただろう」
「うん、きいた。 だから、ひまになるまでここでまってるの」
意味がわからなかった。 こいつは俺の言葉を聞いていたはずなのに、まるで応えていない。 むしろ、断られたことすら楽しんでいるような、そんな顔をしていた。
あの、ニヤニヤ笑う馬鹿がーー今、俺の前で能面を被っている望美の、幼い頃の姿だった。
「とうまくんてさ、面白いよね? 無理して、耐えている面、笑えるわ!」
「……おい? 今なって言ったこの野郎!」
「ちょっと! ほっぺ、ひっぱらないでよ! 伸びるでしょ!」
「伸ばしてやっているんだ!」
「なんでよ! ……せんせい、とうまくんがいじめてきます〜」
「なに! 大人の権力を使うなど、反則だぞ!」
「あっかんべ!」




