第48話 ラブコメの定番イベント発生?
ショーの後、俺は一人で待合室のベンチで待たされていた。
ーーちなみに、松田と福田の薄情コンビは「「私たち先に行くね〜」」と俺に荷物だけを押し付けてどこかへ消えた。
十五分ほど経った頃、通路の向こうから二人組が歩いてきた。
「あ、鵠沼さん! お待たせしました!」
「……」
中川と、その隣に望美がいた。
上は、白いTシャツ。 胸元には、リボンを付けた青いアヒルのようなキャラクターが両手を広げ、こう書かれていた。
『かわいくて ごめんね』
「……」
「どうです? 私のお気に入りなんです! かわいいでしょ?」
「……ああ」
ーー赤面している、望美がな。
その答えに、望美が真顔で俺を睨んできた。 周りに誰もいなかったら、今の心境を聞きたいぐらいだ。
「小川さん、似合ってますよ! 可愛いです!」
「……ありがとう、中川さん。 その優しさが今、一番痛いわ」
「え?」
「なんでもないの」
中川は本気で褒めている。 だからこそ効く。 彼女のお気に入りだから、隠すこともできずに手元はまごまごしている。
昼はアクアリウムカフェに入った。 窓の向こうをサメが横切る、妙に落ち着かない店である。
中川がブルーのソーダとパスタを、望美がオムライスとクリームソーダを頼んでいた。
ーー俺は離れた席に座って、珈琲だけを頼んだ。
中川は、同伴を希望していたが、俺が拒否した。
「小川さん、これ食べます? 半分こしませんか?」
「いいの? じゃあ、こっちも半分あげる」
「わぁ! ありがとうございます!」
ーー仲が良さそうだな。 少なくとも、中川は本当に望美と仲良くなっている。
しかし、望美はどうかな? まあ。 女同士の人間関係など俺にわかる才はないが、望美のことだけはわかる。
それから、俺たちは館内を巡った。 大水槽の前で、中川は目を輝かせていた。
「うわぁ……小川さん、見てください、亀!あっ、サメ! エイもいます!」
「はいはい、落ち着いて。 中川さん、腕、引っ張らないで〜」
「あ、ごめんなさい! つい……」
二人はなぜか腕を組んだまま、水槽に沿って歩いていく。 青い光に照らされた二人の後ろ姿を、俺は少し離れて眺めていた。
ーー問題が起きたのは、この後だった。
「あれ? 小川さんじゃない?」
「うわ、ホントだ! 偶然〜」
「望美、こんにちは!」
通路の向こうから、五、六人の集団が近づいてきた。 望美のクラスメイトたちだった。 大木勝也もいる。
「え、何そのTシャツ? ウケる!」
「え、どこのTシャツなんそれ!」
「イルカショーで濡れたって聞いたよ〜 福田たちが言ってた!」
「うっそ、写真ないの写真! 見たかったな!」
ーーあの薄情コンビ、情報の拡散までしているのか。
望美は瞬く間に囲まれた。 笑いを浮かべながら、質問攻めに応じている。
あいつは、学校では人気者なのだ。 教室では明るく人当たりのいい『小川望美』として立っている。 その事実を、久しぶりに思い出した。
「あ、あの……その……」
「……」
俺は、中川を見た。 彼女はその輪に弾かれて、一人で佇んでいた。 その表情は、俺が昔抱えていた気持ちと同じモノだ。 除け者扱いーー
俺はその様子を見かねて、中川の手を引いた。
「行くぞ……」
「……鵠沼さん?」
中川が、こちらを見上げていた。
「え? でも、小川さんが」
「あの様子だと、無理だ。 諦めよう……」
「そうなんですか……せっかく、一緒に遊びに来たのに……」
中川が、望美のせいで落ち込んでいる。 所有物の失態は俺の失態だ。 中川を直ちに元気にする必要がある。
通路を歩き出す。 背後で、望美の笑い声が遠ざかっていく。
ーー人垣の隙間から。 一瞬、望美と目が合った気がした。
その目が、何かを言いかけるように動いた。
だが俺は、気づかないふりをして、角を曲がった。
◇◇◇
「望美! これからカラオケ行こうよ!」
「さすが大木! いきましょう、小川さん」
「行こ行こ!」
クラスメイトたちが話しかけてくる。 だけど心なしか様子がぎこちないわね。
ーーそれにしても、白昼堂々としかも目の前で中川さんに寝取られたわ。 これがラブコメのお約束って奴なのかしら?
待っててね、灯磨! すぐに、その泥棒猫から取り返すからーー
「望美? 聞いてる?」
「えっと。 ごめん、聞いてなかった……」
「一緒に遊びに行こうぜ! 望美……」
大木が私の手を強引に掴んでそう言った。 私はーー




