第47話 水族館で早速ハプニング
行き先は水族館だった。 ふむ。 まあ、いい選択だな。
入り口に到着すると、福田と松田が早速焦り出した。
「イルカショー、次の回が十一時だって!」
「やばいじゃん! 早く行こ!」
「あ、まってください!」
「ふふふ……」
そんな風に、望美と中川を急かした。
ーーまったく。 何をそんなに急ぐ必要があるんだ? 俺は四人分の荷物を抱えて後を追う。
スタジアムは、すり鉢状の観客席に囲まれていた。 女子四人は最前列を確保し、意気揚々と腰を下ろす。
「……おい。 最前列は濡れるぞ」
俺が忠告すると、松田と福田はこう言った。
「だって前でみたいじゃん!」
「あ、鵠沼は後ろね!」
「緊張します!」
「くくく……」
福田と松田は聞く耳を持たない。 中川も「わぁ、初めてです!」とはしゃいでいる。
そして望美はというと、余裕の笑みで我が関せずだった。
ーー濡れる訳がないとか思ってそうだなぁ? 愚かだぞ?
開演。 軽快な音楽と共に、イルカが挨拶をした。
「うわぁ、すごーい!」
「大きい!」
「かわいいですね!」
巨大なイルカが宙を舞い、盛大な飛沫を撒き散らしていた。
そして終盤になると、司会のアナウンスが響いた。
『さあ、ここでお客様参加コーナー! イルカと一緒にイリュージョンに挑戦していただける方、最前列の皆さん、いかがですか〜?』
「はいはーい!」
「行く行くー!」
「行きます!」
福田と松田と中川が、猛然と手を挙げた。 スタッフに指名され、意気揚々と立ち上がる。
一方望美はさっきから、姿勢を崩さずに余裕の表情のままだ。
「望美も行こよ!」
「私はパス……だって濡れるし」
「まあ、そうだよね!」
「そうそう。 わざわざ濡れる場所には行かないよ〜」
ーーほう? まるで、そこに居たら濡れないみたいな言い方だなぁ? 今のうちに逃げた方がいいんじゃないか?
ーー結果望美だけが、最前列に取り残された。 近くにいる他の客はカッパなどを装備しているが、望美は当然そのままだった。
三人はステージ脇の階段を駆け上がり、スタッフから輪っかやらフープやらを受け取っている。 イルカがそれを潜る趣向らしい。 福田がフープを掲げ、松田がガッツポーズを決め、中川が「が、がんばります!」と張り切っている。
望美が、手を振って三人を応援している。 調子に乗って、前に乗り出している。
『それでは皆さん、盛大なイリュージョンをご覧ください! ーーおっと、そこの最前列のお客様、大丈夫ですか?』
「へ? ……なんのことですか〜」
『その……制服が濡れてしまいますよ?』
「大丈夫でしょ〜 平気です〜」
『そうですか……』
スタッフの、優しい忠告にも、無頓着とは。 無知とは恐ろしいなぁ?
イルカが助走をつける。 水面を切り裂き、三人の掲げるフープを次々と潜り抜け
ーー最後に、大きく身を翻して、着水した。 ざぱぁん、と。 水柱が、望美を飲み込んだ。
水が引いた後には、ずぶ濡れの制服姿の少女が一人、ぽつんと座っていた。 髪から、リボンからスカートまで、全身びしょ濡れだ。
「……なるほどね。 これがイルカショーなのね……」
一方。 ステージ脇では、三人が特に濡れもせず万歳をしていた。
「やったー! 成功成功!」
「イルカ賢い!」
「鵠沼さん! どうでしたか?」
「ああ、最高だったぞ!」
俺は、笑みを堪えるのに大変だった。 今日は青だな。
「……ッう」
ーーなにが青かって? さあ、なんだろうなぁ? 望美よ?




