第45話 どちらも不正解クイズ
翌日。 望美の熱は、嘘のように下がっていた。 三十八度七分から一夜で平熱。
そして今、俺は教室の自分の席から、廊下越しに隣のクラスを、静かに観察していた。
「うんっ、もう最高! 今日めっちゃいい気分!」
窓越しにも聞こえる声量で、望美が両拳を握りしめていた。 頬は上気し、目を閉じて、全身からオーラを放っている。
「え、本当に? 風邪、治ったばかりだよね?」
「あはは、望美、テンションおかしいって!」
「だって! だってね! ……ふふ、ふふふ、内緒!」
「「何それ!!」」
ーーなんだ、あれは。 俺は頬杖をつき、思考を巡らせた。
俺はあいつに側にいてもらうと宣言した。
望美は俺の腕の中で憎しみの言葉を呟きながら気絶した。
ーーそれが、なぜ、あの上機嫌に繋がる?
いや、待て。 落ち着いて考えろ、鵠沼灯磨。
俺は脳をフル回転させた。 仮説を立て考えよう。
仮説一。 熱が下がって嬉しい。 ーーあり得る。 だが「もう最高」「めっちゃ楽しい」は過剰だ。
仮説二。 昨日の記憶がない。 気絶したのだから、告白ごと忘れている。 ーーあり得る。 むしろ濃厚だ。 あの醜態を忘れているなら、俺としても正直、助かる面はある。
仮説三。 ーー俺や屋敷から離れられて嬉しい。
うん。 深く考えるまでもない、仮説三だな。 間違いない。
昼休み。 俺が観察を続けていると、望美が席を立ち、まっすぐ中川の元へ歩いていった。
「ね、中川さん! 今度の日曜日さ、みんなで遊びに行かない?」
「えっ……わ、私で、いいの……?」
「中川さんのお陰で追試合格したから〜」
中川が、目を丸くして自分を指差している。
「もちろんだよー! 楽しみ!」
松田が中川の肩越しに親指を立てた。
「いいねー! どこ行く?」
福田がすでに乗り気で身を乗り出す。 黒板の隅には、いつの間にか誰かの落書きで色々な候補が書かれていた。
「小川さん……! う、嬉しいです! ……でも、教えたのは私だけじゃないですよ? そうだ! 鵠沼さんも、一緒に誘いましょう!」
俺の方へ四人の視線が向いた。 中川のこちらを伺う表情。
松田と福田がニヤニヤしながら俺をみる。
そして、親の仇というような視線がひとつーー望美だ。
「鵠沼さん、鵠沼さーん」
目の前で、ひらひらと手が振られていた。 いつの間にか、中川がこちらの教室に来ていた。
「ふふ、聞いてください! 私、日曜日に小川さんたちと遊びに行くことになりました!」
「……ああ。 見えていた。 よかったな」
「はい! あの、それでですね……」
中川は、もじもじと三つ編みの先をいじりながら、上目遣いに言った。
「鵠沼さんも、来ませんか?」
「……」
ーー分からん! なにが正解だ?
「お! 荷物持ちゲット!」
「いっぱい買い物できるね!」
松田と福田は、ニヤニヤと俺を使う計画を立ててやがる。
望美は、こちらをずっと阿修羅の形相で睨んでくるーー
「で、どうします! 一緒に行きましょ!」
「……行く」
「やった!」
ーーこれで、正解のはずだよな?




