第40話 クラスメイトに宿題を届けよう
放課後。 俺は付箋の住所を頼りに、住宅街を歩いた。
ーーふむ。 思ったよりも、家が屋敷と近かったな。
表札を確認する。 『中川』。 ごく普通の、二階建ての一軒家だ。
インターホンを押す、が返事はない。
ーー風邪で寝込んでいるなら出られないか。 宿題はポストにでも入れよう。
と、考えていたら、がちゃりと玄関の扉が開いた。
「ふぁ〜い……恵ちゃんですよ〜」
「……」
欠伸と返事が合体した音を発しながら、現れたのはーー中川恵だった。
三つ編みはそのままだが、寝癖で毛先があちこち跳ねている。 目は半分も開いていない。 そして服装は、グレーの短パンに、だぼだぼの白Tシャツ。
胸元には、寝そべるパンダの絵と、でかでかとしたプリント文字。
『明日から頑張るぞい ……たぶんね』
「……ふむ、手間が省けたな」
「ふぁ? ちょっと、にいちゃん誰? ゴホゴホ」
中川は片手で玄関の枠に掴まり、もう片方の手で口元を押さえて、二度目の欠伸をした。 完全に寝ぼけている。 俺を視認できていない。
ーー大丈夫なのか、中川? 不用心にも程があるぞ? 下心がある奴なら、今頃は大変なことになっているに違いない。
「……中川。 鵠沼だ。 これは宿題だ」
「とうま? とうま〜 ゴホゴホ」
「おい。 客人に咳をかける無礼者がどこにいるんだ!」
「ゴホゴホゴホ……えへへとうまだ!」
中川の咳が、俺の顔に付着する。 お陰で顔がビチョ濡れだ。 しかも厄介なことに、注意したにも関わらず、中川は寧ろ近づいて来た。
「ゴホゴホ。 ねぇ、とうま! 襲って!」
「ハア? ……駄目に決まっているだろ?」
「じゃ、抱いて!」
「……」
「あれ? ゴホ、おかしいな? とうまが三人いるよ?」
ーー駄目だ。 コイツは重症だ。
「仕方ないな〜 じゃあ頭、ナデナデで手を打とう!」
「ハイハイ。 じゃあな。 ゆっくり休めよ?」
「ええ? もう帰るの? ゴホゴホ まだまだ本番はこれからですよ〜」
中川は、最後まで名残り惜しそうに俺を見て咳をかけてきた。 本当に勘弁してくれ!




