第32話 クラスメイトをご招待
数日後、望美は追試を受けていた。 その結果は合格だった。
これは、中川が毎日放課後に勉強を教えていたお陰だろう。
そう思った俺は、翌日の昼休み。 廊下の掲示板の前で、中川を呼び止めた。
「中川。 礼がしたい。 次の週末、うちに来ないか」
「礼? ですか。 なんのでしょうか?」
ーーふむ。 当然の反応だな。
「なに、俺がお前を客として、歓迎したいだけだ」
「え! 鵠沼さんのお家に、ですか?」
「ああ。 迷惑か……」
「行きます! 行きたいです!」
即答だった。 三つ編みが跳ねるほどの食いつきである。
「あの、鵠沼さんのお家って、メイドさんとか、いたりします?」
ーーいる。 今まさにお前のクラスに通っているが。
「……まあ、いなくはない」
「ほ、本物のメイドさん! わぁ…… 私、一度見てみたかったんです!」
中川の目が、星を散らしたように輝いた。 両手を胸の前で握りしめ、感涙せんばかりである。
と、そのとき。 中川の背後、廊下の向こうに。 望美が立っていた。 右手には藁人形を握りしめていた。
ーーあれは、昨日の藁人形! こちらへ歩いてくる。 目が据わっている。 こめかみに青筋。
およそ主従契約に含まれない感情が溢れ出していた。
俺がそんなに憎いのか? 望美! なぜだーー
「? 鵠沼さん、どうかしました?」
中川が俺の視線を追って、後ろを振り向く。
ーー中川が後ろを向いた瞬間。
「こんにちは、中川さん〜」
望美は藁人形を背中に隠し、背筋を伸ばし、にこりと微笑んだ。
「あ、小川さん! ちょうど今、お話ししてたんです! 週末、鵠沼さんのお家に行こうって!」
「そうなんだ〜」
「小川さんも一緒ですよね?」
「……ちょっと、用事があるから〜 また今度ね〜」
背中の右手がぎちぎちと藁を握り潰している音が、ここまで聞こえてきそうだ。
「残念ですね。 ……じゃあ私、当日はお菓子を焼いていきますね! メイドさんにも食べてもらえたら嬉しいなぁ!」
「ああ。 アイツらも喜ぶだろう」
ーー俺がそう答えると、中川は嬉しそうに駆けて行った。
俺も、用事が済んだので足早に去って行った。
「……まったく、嬉しくないっての」
後ろで、望美の声が聞こえた気がした。




