第31話 担当者からの連絡
夜。 書斎で公務の書類を捌いていると、電話が鳴った。
一瞬、花山院菜奈かと思い顔を顰めたが、どうやら違うようだ。
「……はい」
「中川明子ですが 鵠沼さん、お話大丈夫かしら……」
相手は、望美が小説を投稿している出版社の担当だった。 電話越しでも分かる、疲労の滲んだ声。
「望美さんが今日締め切りの原稿を送ってくれないのよ」
「俺は望美のマネージャーじゃない! 切るぞ」
「ちょっと待って!」
俺は通話を切ろうとしたがーー
「昨日電話かけたら『幸せで無理〜』の一点張り。 今日の二十三時が最終ラインなの。 落ちたら来月号に穴が空くのよ。 ウチのエースなんだから困るわ!」
「……知るか。 切るぞ」
再び、通話を切りかけて、ふと受話器の向こうから声が聞こえた。
『お母さん、洗濯物こっち畳んでおくねー』
『ありがとう、恵。 お母さんもうちょっと仕事の電話だから、ごめんね』
ーーん?
今の声。 どこかで聞いたことがあるような。
「……失礼。 今の声は中川恵か?」
「え? そうよ、娘よ。 私が残業続きだと、家のことを全部やってくれるの。 自慢の子でね。 確か、あなたと同じ高校のはずだけど?」
中川。 同じ高校。 母親の晩御飯を作る、家庭的な娘か。 まさかな。 中川なんて、ありふれた苗字だ。
「……仕方ない。 今回だけだ。 恵に感謝するんだな」
「え? ありがとうございます! よろしくお願いします!」
俺は書類を置き、望美の部屋へ向かった。 扉の前に立つと、中から呻き声が聞こえる。
ノックした。 返事の代わりに、ガタッと何かが倒れる音がした。
「望美。 開けるぞ」
「だ、だめ! 今は駄目です! そう。 呪いじゃなかった……供養をしている最中なの!」
「何を言っているんだ! 入るぞ!」
俺は扉を開けた。 すると、望美は白装束姿だった。
ーーなんだこれ? 何かの儀式か?
藁人形に釘なんて用意して、なにをするつもりだ?
「担当から電話が来た。 二十三時が最終ラインだそうだ」
「……明子さんから? なんで?」
「今日、締め切りだそうだ……」
「あっ」
ーーあっ、じゃない!
「……ゴホン。 ありがとうございます、ウッカリ送信忘れてました!」
「もうできているのか? だったら早く送信してやれ。 待っているんだから」
「かしこまりました! では!」
ーーそう言うと望美は俺を追い出したのだった。
その後、すぐに中川明子から感謝の連絡が届いた。
「ありがとう! お詫び、何がいいかな? なんでもするよ?」
ーーおい。 なんでもするとか言うな!




