第29話 放課後の犬の躾?
図書室は、放課後特有の静けさに包まれていた。
その机に、中川はすでに問題集の山を築いていた。 チャート式、基礎問題精講、やさしい数学Ⅱ・B。
ーーふん。 なかなか手際がいいじゃないか? さすがは中川だな。
「小川さん。 私だけじゃ心配だから、鵠沼さんにも来てもらいました!」
「……」
「……」
中川が嬉しそうに俺を紹介する。 望美は隣で、数学の教科書を抱えて縮こまっていた。
「………」
俺は望美の向かいに腰を下ろす。 望美は俺と目を合わせない。 頬杖をついて、そっぽを向いている。
ーーコイツ。 意地でも学校で関わらないつもりだな。 お前の耳が赤いのは、赤点のせいか、俺にそれを見られたせいか?
「あ、そうだ! お二人ともまともに会話してないですよね? 紹介しますね! こちら、小川さん。 学校の人気者だからご存知ですよね? それで……」
中川が今度は望美を見て話を続ける。
「それでこちらが鵠沼さん! 学年一位の、すっごく頭のいい人です! 私、勉強を教えてもらったんです!」
「……」
望美は引き攣った表情をしている。
ーーどうした? さすがに無視はできないぞ?
「……初めまして、小川望美です……」
「ほう?」
ーー初めましてとな? 滑稽だな、望美!
「鵠沼さん? どうしたんですか?」
「……いや、初めてではないのだが?」
「え?」
中川が首を傾げる。 俺と望美を交互に見た。
「グルル……」
望美が、教科書の陰からこちらを睨む。 なにやら呻き声が聞こえるが?
ーー犬の真似か? 面白いぞ、望美!
「……そうか。 悲しいことに、彼女は俺を覚えていないらしい……」
「ガウゥ!」
ーー毎日、家で顔を合わせているのになぁ?
「……そうなんですか? 小川さん?」
「グルル……はい」
望美の声が完全に裏返っていた。
気まずい雰囲気になったのか、中川は気を取り直して、声をかけた。
「……えっと。 三人で頑張りましょう! まずは小川さん、この問題からです!」
場を仕切り直そうと、中川がノートを開き、シャーペンでさらさらと式を書き始める。
その光景を眺めながら、俺は思った。
ーーこう言うのも悪くないと。




