第24話 デートプラン
中川の礼が終わった後、すぐに解散して、俺は屋敷に戻った。
彼女は最後まで、早期解散に全く納得のいかない様子だったが関係ない。
彼女の礼は受け取った。 それで十分だ。 テスト明けの彼女は、早めに休息した方がいいだろう。
玄関の扉を開けると、望美が俺を出迎えた。
「おかえりなさいませ、灯磨様。 ……本日は、どちらへお出かけでしたか?」
「ただの外食だ……」
「……そうですか」
ーー望美はなんでもないフリをしている。
完璧な角度のお辞儀。 皺ひとつないメイド服。 澄ました表情。 どこからどう見ても、屋敷で職務をこなしていた使用人の姿だ。
だが、無理がある。 明らかに血色が悪いぞ? 顔が真っ青じゃないか。
それにいつもの望美なら、この時間は執筆中のはずだ。 休日の彼女がわざわざ玄関で俺の帰りを待つことなどない。 玄関の隅にはピンクのスーツケースが不自然に置かれている。 片付ける時間すらなかったらしい。
「……望美」
「はい、なんでしょう」
「明日、デートするぞ」
「……承知しました」
望美が顔を上げた。 澄ました仮面のままだ。
「私が行き先を決めても?」
「……ああ」
「承知しました……」
尾行などしなくても済むように、正面から誘ってやる。 それだけのことだ。
さて、明日の準備でもするかな?
◇◇◇ 望美視点
深夜、自室。 私は机の上に、市内全域の地図を広げていた。 付箋。 資料。 ノートパソコン。 壁には計画表と、候補地の写真を赤い糸で結んだ相関図。 マグカップのコーヒーは、もう三杯目だ。
ーー明日、灯磨様とデートという名の外交。
あの言葉を反芻するたび、頬が緩みそうになる。 液が溢れそうだ。
ーーいけない。 浮かれている場合ではない。 私は鵠沼家のメイドとして、完璧な外交プランを設定する必要があるのだ。
そう、これは外交。 断じて、デートではない。
残念だったわね、灯磨。 貴方の思っているようなロマンチックな事態にはならないの。 だから、ガッカリした表情を私に晒してね?
「……まず、集合時間ね」
ペンを走らせる。 朝は早すぎず、遅すぎず。 灯磨の起床時間と朝食のリズムを考慮すると、十時が最適。 移動経路は三パターン用意。 晴天用、曇天用、そして万が一の雨天用。
「昼食は……ここ。 個室があって、灯磨様のお好みの味付けで、かつ私が下見済みの店」
付箋を地図に貼る。 黄色は食事、ピンクは休憩地点、緑は「灯磨様が興味を示しそうな場所」。 地図はすでに、信号機のような賑やかさになっていた。
明日の外交。 絶対に失敗する訳にはいかないわね。
変装も要らない。 ずっと、灯磨の側にいられる。
ーーだって灯磨の方から、誘ってくれたのだから。
頬杖をついて、地図を眺める。 付箋だらけのノートは、我ながら少し、いや、かなり重い。 でも、いいのだ。 完璧な一日にすると決めた。
「ふふ……灯磨が驚く顔が楽しみね?」
明日着ていく服装は、もちろんメイド服だ。 灯磨はきっと、私との淡いデートを期待しているはずだわ。
ーーでも、それは叶わない。 私は、完璧な立ち振る舞いで灯磨との外交をするのよ。




