第23話 クラスメイトとランチタイム
「じゃーん! ここでーす!」
中川が両手を広げて示したのは、海沿いのテラス席が並ぶカフェレストランだった。
白い柵の向こうには砂浜と、夏の陽を弾く海。 潮風にヤシの木が揺れ、パラソルの影が石畳に落ちている。
ーーほう。 庶民にしては、悪くない選択だ。
「鵠沼さん、テスト勉強付き合ってくれたでしょ? だから今日は私が奢るね! ここのシーフードパスタ、すっごく美味しいんだよ」
礼とはそういうことか。 拍子抜けするほど、まっとうな理由だった。
ーーだが、それには及ばない。
「……いや。 ここの代は、俺持ちだ」
「え! そんな駄目だよ……」
しかし、中川は引かない。 仕方ないか。
「問題ない。 俺はあの鵠沼だぞ?」
「……?」
「……知らないのか。 あの有名な大きな屋敷の主が俺だ」
「え、ええ!」
中川は驚いた顔をしている。 ふん、気持ちいいものだな。
運ばれてきたパスタに、中川はフォークを構えて目を輝かせた。 エビ、ムール貝、イカ。 トマトソースの赤が皿の白に映えている。
「見て、エビぷりっぷり! 鵠沼さんも食べて!」
「……騒ぐな。 パスタは逃げない」
言いながら、俺はふと視線を上げた。 中川の背後、一つ挟んだ席にさっきの不審者がいた。 ーー望美だ。
彼女は、読書をしていた。 手にした本の表紙には、こう書かれている。
『他人の視線が気にならなくなる本』
なんだ? それはどういう意味が? ーーハッ! そう言えば、望美の様子が気になりすぎて、中川以外の人のことを気にしていなかった!
ーーまさか、望美? このためについて来たのか?
「? 鵠沼さん、どうしたの? 後ろに何かある?」
「……いや。 なんでもない」
俺は目を伏せ、アイスティーのストローに口をつけた。
彼女を意識するな。 意識したら、こちらの負けだ。
「そう? あ、ムール貝も食べてみて! 殻から外すのちょっとコツいるんだけど……」
無邪気に笑う中川の向こうで、こちらをガン見している望美がいる。
一体、なにがしたいんだ望美は?
「灯磨が私を見ている。 私を意識している……もっと、感じて、灯磨。 貴方を一番愛しているのはこの私。 目の前の泥棒猫じゃなくて、この私なのよ……」




