第21話 クラスメイトとおでかけ?
土曜日の駅前は、夏のセールの幟で賑わっていた。
俺は約束の五分前に到着した。 鵠沼の人間が、庶民との約束程度で遅れるわけにはいかないからだ。
「鵠沼さーん! こっちです!」
人混みの向こうで、中川が大きく手を振っていた。 しまった、待たせたか。
しかもよく見ると、目元に隈ができているな。 大方夜通し、テスト勉強をしていたのだろう。 疲労が溜まっているだろうに。
淡い水色のワンピースに、小さな鞄。 髪はいつもの三つ編み。 首元には銀色のネックレスが光っている。
ーーコイツの服はこれしかないのか?
「よく来てくれたね! 嬉しいよ!」
「当然だ。 ……待たせたか?」
「ううん。五分前に来たところだよ!」
ーーそうか。 あるかどうかわからないが、次は十五分前から待っていよう。
駆け寄ってきた中川は、顔をほころばせて笑った。 眩しい笑顔だ。 礼をしたいだけの人間が、ここまで嬉しそうにするものだろうか?
ーーなるほど、テスト明けでハイになっているんだな。
早めの休息が必要だろう。 手早く済ませるべきだな。
「……約束だからな。 それで、礼とやらは何だ。 早々に終わらせて帰ろう」
「もう、せっかちだなあ。 ちゃんと考えてきたから、落ち着いて」
彼女の発言に周囲が、妙にざわついている気がした。
すれ違う通行人が、ちらちらとこちらを振り返る。 ひそひそと囁き交わす声が聞こえる。
おそらく、俺を侮蔑する一般通行人どもだろう。
『お前程度の分際で女とデートするな』
『女にデート先を考えさせるなんて何様?』
とでも言いたいのか? ふん、好きに騒ぐがいい。 俺はこの程度で揺らがない。
「ん? なんか後ろ、騒がしいね?」
「そんなの俺に関係が……」
ーーそこには、異様な人物がいた。
黒いロングスカートのメイド服。 その上から、極彩色の花のレイ。 腰にはピンクの花柄の浮き輪をはめ、頭には帽子、目にはサングラス、口にはマスク。 片手に黄色いフリル付きの日傘を差し、もう片手でピンクのスーツケースを引いている。
周囲のざわめきの発生源は、明らかにそれだった。
「……」
俺は無言でそれを凝視した。 あのメイド服のフリルの意匠には、見覚えがある。 俺は静かに目を逸らした。
「……行くぞ」
俺は思考を打ち切り、歩き出した。 深く考えたら負けな気がした。
背後で、ガラガラとスーツケースの車輪の音が、一定の距離を保ってついてくる。
◇
「……あの女、私だけの灯磨と、一緒にデートですって! 私だって、そんなことをしたことないのにぃ!」




