第16話 休日にクラスメイトと勉強会?
その夜、私は自分の部屋で頭を抱えていた。
「どうしよう、これって実質デートだよね? ……いや、鵠沼さんは、きっとそんなつもりで誘ってないかな」
ーーこれは、一方的な片想い。 そうだってわかっているけど、私の気持ちはクローゼットから引っ張り出した服のように乱れていた。
花柄のワンピース、白い襟のついた紺のブラウス、レースの黒。 どれがいいだろう?
ボトムスは? 当然、スカートだよね?
「うーん……決まらないよ」
両手にハンガーを一着ずつ持ち上げ、姿見の前で交互に当ててみる。
ーーちなみに今の私の格好はデニムパンツにTシャツだ。
このTシャツの文字には「明日から頑張るぞい」と書いてある。
真ん中には、寝転がる髭もじゃの男の人が寝そべりながら、手をあげている。
ーー個人的にはお気に入りなんだけど、この格好でお外に出る勇気はない。
淡い花柄を体に重ねれば、地味すぎる気がする。 黒の襟付きを合わせれば、今度は気合いを入れすぎているようで落ち着かない。
「どっちがいいんだろ……」
鏡の中の自分は、頬を赤らめ、眉を下げて、すっかり困り果てた顔をしている。
放課後、勉強を教わったときの鵠沼さんの横顔が、ふと脳裏をよぎる。 あの偉そうな、でも格好いい声。
ーーあの様子が学校の鵠沼灯磨ファンには刺さっているのだ。
かくいう私も、それを思い出すたびに、心臓がへんなふうに跳ねてしまう。
「……鵠沼さん。 とうま……好き」
ーーハア。 好き過ぎる。 私は小さく、彼の名前を読んだ。
服の山に埋もれて、私は一人、小さくため息をついた。
◇◇◇
休日の市立図書館は、平日の学校とは違った静けさで満ちていた。
たまには、一般庶民に紛れるのもいいかもなーー
俺と中川は、奥まった閲覧席で向かい合っていた。
「今日は……わざわざ、ありがとう。 休みの日なのに」
「別に……」
中川がペンを握り、頬に手を当てながら言った。
今日の彼女は、いつもの制服ではない。 淡い水色のワンピースを着て、髪はきちんと二本の三つ編みに結われている。 心なしか、教室で見るときよりも、表情が柔らかい気がした。
「構わない。 家にいても、することは同じだ」
俺は素っ気なく答えた。 当然、公務は既に片付けている。
ーー学業と公務の連立。 それができなければ、鵠沼家の跡取りなど務まらない。
ノートの余白に、俺はグラフを描いていく。 中川は身を乗り出し、真剣な目でそれを追っている。 理解が追いつくと、彼女の頬がほんのり赤らみ、口元が小さくほどける。
教える側として、悪くない手応えだ。 少なくとも、こいつは怠けてはいない。
ーーふと、視線が逸れた。
書架の陰。 背の高い本棚の角から、誰かがこちらを覗いている気がする。
ーーたぶん望美だろう。 なぜ、メイド服姿なんだ? 余計目立つだろうに。
なぜ、彼女がここにいるのか。 俺はその理由がわかっている。
望美はきっと、俺が鵠沼の当主としての指導力を見極めているんだろう。
「鵠沼さん? どうかした?」
中川が首を傾げ、俺の視線の先を追おうとする。 俺はノートへ目を戻した。
「……いや。 続けるぞ」
ーー見ていろ、望美。 俺のカリスマ性を!
「……灯磨。 なんで、なんでなの? 今すぐに、その女から離れなさい……」




