第15話 望美からの試練?
教室の空気が、目に見えて重くなっている。
ところどころで漏れるため息。 クラスの誰もが追い詰められた顔をしていた。 それもそうだろう。 テスト期間に入ったからな。
ーーしかし、俺にとっては、なんてこともない話だ。
鵠沼家の跡取りたる者、この程度の学業の問題などに遅れは取らないからだ。
「うわー、もう無理。古典とか誰が使うのよ」
「環奈、それ毎回言ってるよね? ……私もギブ」
「二人とも〜 大丈夫?」
福田環奈と松田葵の声が、教室の隅で響いた。 二人とも机に突っ伏し、望美がその背中をぱしぱしと叩いている。
ーーふん、哀れなことだ。 その点、望美は余裕そうだな。
俺は頬杖をついて、冷めた目で彼女らを眺めていた。
馬鹿馬鹿しい。 俺は窓の外へ視線を逃がした。
「く、鵠沼さん」
「……」
「……鵠沼さん」
ーーその時だった。
控えめな声に振り返ると、中川がそこに立っていた。
両手を前にして祈るような表情で、視線をわずかに泳がせている。
「あの……勉強、教えてもらえないかなって。 鵠沼さん、頭いいでしょう?」
そう言って、彼女は俺を上目遣いに見た。
「いいだろう……」
「ありがとう! じゃあ放課後、図書室で勉強教えて!」
「わかった……」
そう言って、笑顔で中川は去って行った。
「……」
気のせいだろうか? 望美がこちらを睨んでいたような気がしたが、まさか嫉妬しているのか? いや、俺の妄想だろうか?
放課後の図書室は、しんと静まり返っていた。
俺と中川は向かい合って座り、参考書を広げていた。
机の端には彼女が抱えてきた問題集が、几帳面に積み上げられている。
「えっと……ここの、二次関数の頂点の出し方なんだけど」
中川がシャープペンを握り、ノートを覗き込む。 三つ編みが二本、肩の前に垂れていた。
俺はペンを取り、彼女のノートの余白に式を書き下していく。
「……」
「あ……そっか。なるほど」
中川の表情が、ぱっと明るくなった。 理解した瞬間の、あの素直な顔。 教える側として、悪い気はしない。
「鵠沼さん、教えるの上手だね! 学校の先生より分かりやすいかも」
「……当然だ」
そう答えながら、俺は不意に殺気を感じた。
図書室の入口。 半分ほど開いた扉の陰から、こちらを覗いている気がする?
望美が扉の取っ手に手をかけたまま、こちらをじっと見ていた。 眉根を寄せ、唇を引き結んだ、何か言いたげな顔。
だが目が合うと、はっと身を引き、影に隠れてしまう。 なぜ、あいつがここにいる。
考えろ、鵠沼灯磨! お前の知恵をフル活動するんだ!
ハッ! ーーそうか、わかったぞ! 望美は俺を試しているんだな!
この俺が鵠沼の跡取りとして、指導力があるのか見極めるつもりだな!
ーーだったら、この試練負ける訳にはいかない!
「鵠沼さん? どうかした?」
中川が首を傾げる。 俺は視線を手元に戻した。
「……いや。 続けるぞ。 ……そうだ。 今度の休日どこかで勉強しよう……」
「え! き、休日? ……服装考えないと」
見てろ、望美! お前からの試練! 絶対に合格して見せるーー
「……灯磨はなにを考えているのよ。 放課後に二人でこんな所にいるなんて」




