第13話 使用人をわからせる主
俺はいつもの通り学校へ向かう。 昨日はほとんど眠れなかった。
ーーだが、構わない。 気持ちは晴れやかだ。 頭はボーっとするがな。
そう。 俺は鵠沼家当主になる男だ。 この程度の睡眠不足など、苦のうちにも入らないのだ。
教室の中ではクラスメイトのくだらない会話。 笑い声が聞こえる。 窓際で誰かが欠伸をしている。 いつも通りの、平和な朝の風景だ。
気に入らない。 なぜなのかって? だって、そうだろ!
昨日、こいつらは口を揃えて望美の噂をしていた。 望美が、大木勝也とラブラブなどと言う妄言を、平然と口にしていたのだ。
なのに今朝はどうだ。 どいつもこいつも、何事もなかったかのような顔をしている。
ーーまるで、そのことに触れるのはマズイみたいな雰囲気だ。
胸の奥に、モヤモヤが沈殿していく。
そのまま時がすぎ、放課後。 俺は屋敷に戻る。
ーーおかしいな? 頭がボーっとするぞ? 意識がぼんやりしてきたか。
しかし、俺は当主。 こんなことは、休む言い訳にはならない。
家で溜まった公務を片付けていると、窓の向こうには望美の姿があった。
窓を覗いてみれば、望美が作業をしている。 その表情はにやけていた。
その服装は、パーカーにダメージジーンズだった。
俺の前では絶対にしない服装と笑顔の彼女。
昨日の深夜の望美とは大違いだ。 あんなに、俺に当主としての自覚を説いて来たくせに、そう言うお前はどうなんだ?
ーーお前は、俺の所有物なんだぞ? 立場を理解しているのか?
ああ、モヤモヤする。 俺がこんなに望美について考えているのに、アイツはのんびりしている。 その差が気に入らなかった。
ーーそ、そうだ。 ここで、わからせよう。 望美、お前と俺の立場をな?
俺は立ち上がり歩き出す。 向かう先は望美の部屋。
ーーコンコン。 ドアをノックする。
「どうぞ」
望美が、横柄な態度で入室を許可した。 大方、怜子か千早だと思ったのだろう。 ともかく、許可が降りたので中に入るとしよう。
「怜子かしら? コーヒーはそこに置いてね」
「望美、話がある……」
「……! 灯磨! 凄い顔ね? 大丈夫?」
俺が声をかけると、望美が慌てて席を立つ。
なんだ、その雰囲気は? まるで、お楽しみ中に邪魔をされたーーみたいな空気を出しているな?
ーー気に入らない。 お前は俺の『所有物』のはずなんだ。
「望美……」
「旦那様……キャ」
席を立った望美に俺は近づく、望美は逃げる。 俺は詰める。 それを繰り返していると、ついに望美は壁に行き当たってしまった。
俺は、そんな望美を壁に押し込んで片手を壁についた。 逃げ場を塞ぐように。 望美の小さな肩が、びくりと跳ねる。
望美は俺を見上げていた。 茶色の瞳が、戸惑いに揺れている。 彼女の頬が、じわりと熱を持っていくのが分かった。 というか真っ赤だ。 トマトだな。
「……どうして?」
掠れた声。 俺は何も答えられなかった。 何が言いたいのか、自分でも分からない。 あれ? 俺はなにをしているんだ?
なんで、俺は望美の部屋の中に? お、俺は望美になにをやって?
ーーそのまま、俺の意識は遠くなっていた。




