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浮気物語~俺と10人の彼女たち~  作者: さんぶうい
卜返愛はギャルである
9/11

意味不明

◯6日目(火曜日)


 教室に入った瞬間、少しだけ違和感を覚えた。


 ざわざわしている。


 でもそれはいつもの騒がしさとは違う、どこか含みのある空気だった。


「ねぇ、聞いた?」


「マジで?」


 ひそひそとした声があちこちから聞こえる。


 なんだ……?


 自分には関係ないと思いながら席に向かう。


 その途中で、視線が一箇所に集まっていることに気づいた。


 ……愛。


 いつも通りの席に座っているが、周りの空気が妙だ。


 誰も直接話しかけない、でもちらちら見ている。


 距離を取っている。


 そんな感じだ。


 愛のグループの生徒たちも愛抜きで窓側の場所に集まって談笑している。


「……?」


 理由を探しても、胸のざわつきだけが先に立った。


 とりあえず昼休みに聞けばいいか。


 そう思っていた。


 だが、その昼休み。


 俺が席を立とうとした瞬間だった。


「おい、浮田」


 低い声。


 振り向くと、そこには金髪の男子生徒が立っていた。


 愛と同じグループのヤンキー、確か名前は田辺だったか。


「ちょっとツラ貸せや」


「……なんだ?」


「いいから来いって」


 拒否できる空気じゃない。仕方なく、俺はついていった。


 連れてこられたのは校舎裏。人の気配はない。


「で、何の用だよ」


「お前さ」


 田辺は壁に寄りかかりながら言う。


「愛と仲いいらしいな」


「……別に普通だろ」


「普通ねぇ」


 ニヤリと笑う。


「昨日も2人で話してたし、放課後も見たってやついるぜ」


 ……見られてたのか。


「なんか問題でもあるのか」


「いや別に、たださ」


 田辺は一歩近づいてきた。


「余計なことすんなって話」


「……余計なこと?」


「愛はああいうキャラだろ?ちょっと構うと勘違いするやつ出てくんだよ」


「……」


「だから線引けって言ってんの、わかる?」


 言葉自体は軽いが、逃がさない圧がある。


「別に俺は……」


「あとさ」


 言いかけた言葉を遮るように続ける。


「お前、猫又とも仲良さげに話してたよな」


「……それがどうした」


「いや、別に?ならいいんじゃねぇの」


 肩をすくめる。


「どうせ遊びなんだろ?」


「違う」


 思わず否定していた。


 田辺は一瞬だけ目を細めて


「へぇ」


 それだけ言った。


 そのままくるりと背を向ける。


「ま、どうでもいいんだけどさ」


 振り返らずに言う。


「愛は俺のもんだから、これ以上手ぇ出すなよ」


 それだけ言って去っていった。


 ……なんなんだよ。


 苛立ちと違和感が混ざる。


 でも、それ以上に引っかかる言葉があった。


 勘違い、遊び、それに……俺のもんって。


 ごちゃごちゃとした感情が頭の中を駆け巡っていた。



 昼休み。


 いつもの空き教室へ向かう。


 ドアを開けると、愛はいた。


 でも。


「……」


 無言だった、目も合わせない。


 弁当を食べる手も、どこか雑だ。


「愛ちゃん」


「……なに」


 投げやりな返事だった。


「なんかあったの?」


「別に」


 昨日と同じ答え。


「いや絶対あるでしょ。朝から変だし、周りのやつらも……」


「アンタには関係ないでしょ」


 強く言い切られる。


「それよりさ」


 愛がこちらを見る、その目が少しだけ冷たい。


「……猫又さん」


「え?」


「昨日、楽しそうだったじゃん、仲良さそうに話してたよね」


 ……やっぱり見てたじゃねぇか。


「いや、あれは向こうから話しかけられて」


「ふーん」


「プリント渡されただけだよ」


「手、繋いでたけど」


 その一言だけ少し棘があった。

 

「ろくに女子と喋ったことないとか言ってたけど、結構慣れてんだね」


 不信感。

 彼女の目が、昨日より少しだけ虚ろだ。

 俺を見るというより、俺の後ろにある何かを疑っているみたいだった。


「いや、それは」


 猫又に話しかけられてまったく嬉しくなかったと言えば嘘になる。

 俺だって男だ。しかも俺は高校に入って女子とほとんど話したことがない陰キャ。

 だから少しだけ舞い上がってしまった。


 彼女はぶっきらぼうに言う。


「……アタシのこと、好きなんじゃなかったの?」


 俺はそれにすぐに答えることができなかった。


 愛はとても魅力的な子だ。たぶん、こんな試練なんかなくて、普通に接していたら簡単に恋に落ちてしまっていただろう。


 でも、俺は彼女のことを考えるとき、いつも頭の片隅で灯子の笑顔が浮かぶ。

 ……浮かんでしまう。


 自分の中途半端さに嫌気が刺す。


 愛は自分の不安を吐露するように


「……アンタもさ、結局アタシのことそういう目で見てたわけ?」


「違う」


「じゃあなんで最初から付き合ってなんて言えたの?」


 言い返せなかった。

 本当の理由なんて、言えるわけがない。


 灯子を救うため、神に言われたから。


 そんな理由で近づいたなんて、言えるわけがなかった。


「……何か言ってよ」


 その一言が、妙に重かった。


 愛は昼休みが終わる前に弁当を片付け、出ていった。


 残された俺は、ただ床を見つめていた。



 放課後。


 教室に残っていると、女子たちの会話が耳に入る。


「ねえ、卜返さ」


「うん」


「あの話、マジなん?」


「え、ほんとだったらやばくない?」


 ……なんの話だ?


「てかあのグループ、最近空気ヤバくない?」


「わかる。ちょっと距離置いたほうがよくない?」


 教室の笑い声が、薄い膜を一枚かぶったみたいに聞こえた。

 何かが、愛の方へ傾いている。



 愛は1人、帰り道を歩いていた。


 すると後ろから声がかかる。


「愛」


 振り向くと、田辺がいた。


「……なに」


「いや別に、元気ねぇなと思って」


「関係ないでしょ」


「冷たいなぁ」


 笑いながら近づいてくる。


「最近さ、変な噂立ってるの知ってる?」


「……なに?」


「お前、男と裏で遊んでるって」


「……」


「しかも何人も」


 愛の表情が固まる。


「まあ俺は信じてないけど?」


 ニヤニヤしながら言う。


「でも周りはどうかなあ」


「……最低」


「なにが?」


「アンタでしょ、これ」


「証拠あんの?」


 ……言葉に詰まる。


「ま、どうでもいいけどさ」


 田辺は肩をすくめる。


「困ったらいつでも俺に言えよ?」


 そのまま去っていく。


 一人取り残され、制服の裾をぎゅっと握った。


 結局、高校でもこうなってしまうのか……


 自分の格好を見つめる。


「……最悪」


 小さく呟く。


 でも頭に浮かんでいたのは……翔気の顔だった。


「……なんで」


 こんな時に、なんでアイツなんだよ。

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