嫉妬
◯5日目(月曜日)
昼休み。
俺はいつものように弁当を持って席を立った。
向かう先は決まっている。
愛がいるあの空き教室。
昨日の映画のことを思い出して、少しだけ足取りが軽くなる。
……いや、別に浮かれてるわけじゃない。
ただ……うん、別に浮かれてない。
そう自分に言い聞かせながら廊下を歩いていると
「あ、浮田くん」
後ろから声をかけられ振り返る。そこにはプリントを持った女子がいた。
……確か、名前は猫又だったか?最近転校してきて、可愛いと男子たちの間で話題だったギャルだ。
彼女は隣のクラスで俺と面識はないはずだが。
「これ、先生から浮田くんにって、プリント」
「ああ、ありがとう」
受け取ろうとすると
「ねえ、浮田くんってさ」
「ん?」
「彼女とかいるの?」
唐突な質問だった。
「いや、いないけど」
「ほんと?なんか優しそうだし、モテそうなのに」
モテそうと言われ、思わず顔がニヤけてしまう。
「そんなことないって」
「えー、ほんと?ふふ、じゃあさ……」
猫又はずん、と近づいてきて俺の手を握った。
小さくて柔らかい手だった。
その行動に思わずドキッとしてしまい目を背けてしまった。
廊下の奥。
見覚えのある金髪が、一瞬だけこちらを見た。
……愛。
目が合った、気がした。
だが次の瞬間には、すぐに視線を逸らして空き教室の中に入っていく。
「……あ」
「浮田くん?」
猫又は突然固まった俺を見て不思議そうな顔をする。
「ごめん猫又さん、ちょっと用事思い出した」
「え、あ、うん……」
半ば強引に会話を切って、俺はその場を離れた。
少し急いで、空き教室のドアを開ける。
中には、いつものように愛がいた。
だが
「……遅い」
第一声がそれだった。
「いや、ちょっと呼び止められて」
「ふーん」
興味なさげに弁当をつつく。
とりあえず隣の席に座り、いつものように談笑する。
「昨日映画よかったね」
「そう」
「ポップコーン結局食べ切れなかったね、もっと小さいのにすればよかった」
「へぇ」
「そういえば帰りの駅にプリクラあったよね、愛ちゃんも女子だしやっぱ好きだったりする?」
「ゆうて」
休み時間に喋ろうと考えていた話題がことごとく潰されていく。
……なんか、機嫌悪くないか?いやまあ愛は機嫌が良いときの方が少ないが。
だが今日は明らかに口数が少ない、まるで初めて会ったときのようだ。
「どうしたの?」
「別に」
「いや絶対なんかあるじゃん」
「ないって言ってる」
語気が少し強い。
完全にあるやつだ。
だが理由がわからない。
「……なんか怒ってる?」
「怒ってない」
「じゃあなんでそんな感じなの」
「アンタに関係なくない?」
「いやまあ……そうだけど」
会話が噛み合わない、昨日までと明らかに違う空気。
なんだこれ、何かやらかしたか俺?
しばらく無言のまま時間が流れる。
耐えきれず、もしかしてと思い俺は口を開いた。
「さっき見てた……よね」
「は?」
「廊下で話してたの」
一瞬、愛の手が止まった。
だがすぐに
「見てないけど」
とそっぽを向く。
「いや見てたじゃん」
「見てないって」
「じゃあなんで……」
「別にアンタが誰と話してようがアタシには関係ないじゃん」
ぴしゃりと言い切られた。
それ以上言葉が出ない。
関係ない……確かにその通りだ。
でも、なんだろう、この引っかかる感じ。
結局その後もまともに会話できず、愛はさっさと教室を出ていった。
残された空き教室。
「……なんだったんだ」
頭をかく。意味がわからない。
◯
その日の夜。
スマホを見ると、愛とのトーク画面が目に入る。
昨日まで普通に続いていたやり取り。
今日は何もない。
少し迷ってから、メッセージを打つ。
『今日どうしたの?』
既読がつく、でも返事は来ない。
数分後
『別に』
それだけだった、明らかにそっけない。
さらに数分が経ち、勇気を出してもう一度送る。
『怒ってる?』
既読。
……既読のまま、返ってこない。
◯
愛はベッドに寝転びながらスマホを見つめていた。
「……はあ」
ため息を吐く。
スマホには翔気とのトーク画面があった。
打っては消して、を繰り返す。
『別に怒ってないし』
消す。
『あの女子誰?』
消す。
『どうでもいいんだけど』
消す。
「……うざ」
小さく呟いて、スマホを枕に投げた。でも、数秒後にはまた手に取る。
通知は来ていない。
……当たり前だ。
「……なに意地になってんの」
胸の奥が、少しだけざわつく。
イライラする、意味わかんない、別に好きでもなんでもないのに。
なのに……
なんで、あんなの見てムカつくんだよ。




