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浮気物語~俺と10人の彼女たち~  作者: さんぶうい
卜返愛はギャルである
6/7

変化

 その日の夜、スマホが震えた。


 画面を見ると、卜返からのLINEだった。


『今日言ってたこと、ほんと?』


 唐突すぎる一文だった。


『なにが?』


『女子にあんな感じで話しかけるの初めてだって言ってたじゃん』


『本当だよ、そもそも高校じゃろくに女子とは話してないんだよ』


 少し間があいて


『へぇー』


 それだけ返ってきた。


 ……なんだこの会話。


『そっちだってああゆうことよくしてるの?』


『ああいうこと?』


『いきなり押し倒したり』


 なにを聞いているんだ俺は。


 少し時間が空いて


『してないから』


 その返信を見た瞬間、胸の奥の力が少し抜けた。自分でも、何に安心したのか分からなかった。


『え、じゃあなんで今日は』


『アンタがそういうのは考えてないとか生意気言ってたから確かめたかっただけ』


『そうなんだ』


『……安心した?』


『うん、すげぇ安心した』


『……あっそ』


 気になっていたことが聞けた。

 でも切るのはもったいない気がして、俺は適当に写真を送る。


『今日の夕飯』


 オム油そばの写真。


 数秒後


『なにその頭悪そうな飯』


『うまいぞ』


『絶対太るよ笑』


 短いやり取りなのに、なんだか妙に楽しい。


 気づけば、普段ならあまりやらないような雑談を続けていた。


◯3日目(土曜日)


 今日は運良く土曜授業があった。


 学生たちはうんざりしているが今の俺にとっては好都合だった。


 昼休みになり、いつもの空き教室のドアを開けると、卜返は机に突っ伏していた。


「……卜返さん?」


 返事がない。


 金髪がさらりと机に広がっていた。


 机の端には空になったねるねるねるねの箱があった。


 学校でも食べてんのかよ。


 近づくと小さく寝息が聞こえた。


 机の上にはねるねるね以外にも開きっぱなしのノートがあった、そこにはなにやら様々な服の絵が描いてある。

 夏物や冬物、俺は服についてはよくわからないがなんとなく目が惹きつけられる。


 思わず見惚れてしまい、数ページ捲って読んでいた。


 そこには本当に何種類もの服のアイデアが書き記されており少しだけ時間を忘れて読み耽ってしまった。

 表紙を見るとvol.9と書いてあった。


 そこでこれ以上無断で見るのは失礼だと気づき、ノートを机に戻した。


「……もしかしてこれ書いて、寝不足でってことか?」


 呟いてから、ふと気づく。教室の窓が少し開いてる。


 今日は風が強い。


 俺は自分のカーディガンを脱いで、そっと卜返の肩にかけた。


 起こさないように、静かに。


 すると


「ん……あれ」


 肩のカーディガンを見る。


 それから、俺を見る。


「ごめん、風強かったからちょっと」


「……」


 卜返は少しだけ黙った。


「……起こせばよくない?」


「いや、気持ちよさそうに寝てたし……起こさない方がいいかなって……結局起きちゃったけど」


「……ふーん」


 そっぽ向く。


 カーディガンは返してこなかった。


 そしていそいそと弁当を広げ始める。


「んで?また来たの?」


 呆れたような声。


「ダメか?」


「……別に」


 「無理」とは言われなかった。たったそれだけで、昨日より教室の空気が軽く感じた。

 

「で、今日はなに」


「相談があって」


「は?」


 卜返は箸を止めてこちらを見る。


「どうすれば卜返さんは俺のこと好きになってくれる?」


「帰れ」


 即答だった。


「真面目に」


「なんで直接アタシに聞くのよ」


「だって分かんないし」


「直球すぎ」


「じゃ、じゃあ良いなって思う男子の特徴とかは?」


「はあ?」


 クソ、必死すぎだろ俺。


 話していて恥ずかしくなる。


 だが卜返は呆れた反応をしながらも、少しだけ考える素振りを見せた。


「……まあ、大事だなって思うのは、清潔感……とか?あと匂いとか」


「匂い?」


「そ、男子って基本くさいじゃん」


「ひどいな」


「事実でしょ。だからさたまにいい匂いする人いると、おってなる」


 なるほど。


「じゃあ香水買えばいいのか」


「極端すぎ、つけすぎもキモいし」


「難しいな……」


 俺が真剣に悩んでいると


「ほんと素直すぎでしょアンタ」


「そうか?」


「普通そこまでやらないから」


 何やら珍獣を見つけたような目で俺を見つめ、くすくすと笑った。


 俺は小恥ずかしくなり、話題を変える。


「そ、そういえばさ卜返さんはオシャレとか好きなの?」


「……まあ、好きだけど……なに?急に」


「いや、ノートに色々服とか描いてあったからそうなのかなって」


「?……ノートって」


 少し怪訝な表情をした後、卜返は机の開きっぱなしのノートを見つけた。すると急に耳を真っ赤にして、バンとノートを勢いよく閉じた。


 どうやら俺の言葉によってノートの存在を思い出したようだ。


「……見たの?」


「え、ああ……ってちょちょちょまってまって!一旦落ち着いて!一旦落ち着いてその手に持っている箸を置いて!」


 突然箸をドスのように握り、殺意を纏ってにじり寄ってきた卜返を諌めること10分。

 なんとか冷静になった卜返に向き直る。


「ハア、ハア……卜返さん、箸はご飯のときに使うんだよ」


「勝手に見たそっちが悪い」


「いやまあそれはごめんだけど」


「……ふん」


 卜返は座りなおして手に持っているほぼ食べ終わっている弁当をコツコツと箸で叩く。

 

 なんとなく無言の時間が流れる。どうしよう、俺はまたやらかしてしまったらしい。

 クソ、さっきまで順調だったはずなのに。


 俺の心のうちでは後悔の波が押し引きあっていた。


 すると卜返がポツリと溢した。


「……笑いなよ」


「え?」


「……知ってるよ、ファッションデザイナーなんて狭い門……アタシみたいなのには無理だって」


 見ると卜返はなんとも言えない自嘲気味な表情をしていた。


「夢、なの?ファッションデザイナー」


「……別に」


 俺はエスパーでもなんでもないけど、なんとなく分かった。

 たぶん友達か親か、周りの人に言われたんだろう「ファッションデザイナーなんて無理だ」って。

 その苦しそうな顔が物語っていた。


 心がキュッと締まる。


「俺……さ、ファッションとかよく分かんないし今まで興味もなかったような人間なんだよね。服なんてただタンスの1番上にあるやつを着てただけ。」


 気づくと自然に口から言葉が出ていた。


「……」


「でも、卜返さんのノートに描いてある服見たとき、すごく……惹きつけられたんだよね。」


「え?」


 卜返は意外そうに目を見開いた。


「フリフリな可愛いやつから、ちょっとセクシーなやつまで色々あって凄くオシャレだった。それに加えて色々書き込んでたでしょ?……それ見て思ったんだよね、夢がある人って素敵だなって」


「アタシ……夢とか言ってない」


「じゃあ夢じゃないの?」


 卜返は俺の言葉に少し押黙る。


「……でもアタシには才能なんて」


「服に全く興味なかった俺がノート見ただけで惹きつけられたんだよ?それって充分才能あるってことにならない?」


 そう言うと卜返は顔を上げ、俺の目を見る。


「……なん」


 キーンコーンカーンコーン


 卜返が何か言いかけたそのとき予鈴が鳴った。


 俺は慌てて弁当を片付ける。


「ご、ごめんね、素人が好き勝手言っちゃって……気にしないで」


「……」


 うちの学校はチャイムがぶっ壊れているので予鈴が鳴ったらだいたい30秒後には授業が始まるのだ。


「急ごう!授業始まっちゃう!」


「……うん」


 いつもサバサバしている卜返が少し上の空の状態で弁当を片付けていたのが少しだけ気になった。


 そうして俺らはものの見事に授業に遅れたのであった。



 その日の放課後。


 俺は近くの店で適当に香水をいくつか買った。


 どれがいいか分からないから、とりあえず良さげなのを全部。


 帰り道、袋を抱えながら歩いていると……


「……なんでいんの」


 後ろから声がした。


 振り向くと、そこには学校帰りの卜返がいた。


「卜返さんこそなんでここに」


「家この辺だし」


 そうなのか……まあ、一応覚えておこう。


「で、それなに」


「香水」


「え、マジで買ったの?」


「ああ」


 袋を見せると、卜返は呆れた顔をした。


「買いすぎでしょ」


「どれがいいかわからなくて」


「バカじゃん」


 そう言いながらも、どこか楽しそうだ。


「ちょっと見せて」


 言うと、勝手に袋に手を突っ込む。


「うわ、めっちゃある」


「だからわからなかったんだって」


「じゃあ嗅がせて」


「今?」


「今」


 有無を言わせない感じで一本手に取る。


「これとかどう?」


 シュッ、と軽く吹きかける。


 ふわっと甘い香りが広がった。


「……近い」


 思わずそう言うと


「は?」


 卜返は顔を上げた。


 距離が、近い。香水を確かめるためか、俺の腕に顔を寄せている。


 数10センチ。いや、それより近いかもしれない。


 恥ずかしさを誤魔化すために口を開く。


「……ど、どうだ?」


「いや、その……いい匂いだと思う」


 さっきまでは強引だったのに、卜返は急にたどたどしくなった。


「ちゅ、抽象的だな」


「……じゃあもうちょい嗅ぐ」


「は?」


 今度は別の香水。


 また距離が近づく、さっきよりも自然に。


 心臓の音がうるさい。


 そうしていくつか香水を試して。


「ちょっと個性的なやつの方がいいかもね」


「そうか」


「アンタ無臭だったし」


「無臭は悪くないだろ」


「印象に残らないからダメ」


 きっぱり言われた。


「じゃあどれがいい?」


「んー……」


 少し考えて、一本を選ぶ。


「これ。独特だけど強すぎないしいいかも」


「了解」


 それを受け取ると、卜返は満足そうに頷いた。


 少し沈黙。


 夕方の風が吹く。


「……ねぇ」


 卜返がぽつりと呟いた。


「アンタさ、他の女子にもこういうことしてんの?」


「こういうこと?」


「香水とか、相談とか」


「この話3回目だぞ、してないって」


「ほんとに?」


「ほんとに」


 少し間があいて


「ふーん」


 なぜか、少しだけ機嫌が良くなったように見えた。


「じゃ、またね」


「ああ」


 手を振って別れる。


 少し歩いてから、俺は気づく。


 なんだこれ。


 昨日より距離、めちゃくちゃ近くないか?


 まだ付き合ってもいないのに。


 でも……


 悪くない。


 むしろ、かなりいい。



 卜返は一人、帰り道を歩きながら無言で考え込む。


「……」


 よく分からない。


 別に普通のやりとりだったはず、香水を嗅ぐのも、会話も。


 でもなんだか少しだけモヤモヤする。


 『服に全く興味なかった俺がノート見ただけで惹きつけられたんだよ?それって充分才能あるってことにならない?』


 昼休みに言われたことを思い出す。


 そんなこと、今まで言われたこと無かった。


 両親に反対され、最近じゃ自分すら諦めかけてしまっていた夢。


 それを……キモいヤリモクの変態のくせに、一丁前に……


「……ほんと、なんなの」

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