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浮気物語~俺と10人の彼女たち~  作者: さんぶうい
卜返愛はギャルである
5/11

きっかけ

◯2日目(金曜日)


 休み時間


 卜返の席を見るがいない、トイレだろうか?


 話しかけようとしてもいないのでは無理だ……まあいても無理なんだろうが。


「……はあ」


 ため息が出る。


「どしたの翔気」


 ポンポンと肩を叩かれる、振り向くと美少女がいた。


「友一か」


 早乙女友一……入学当初に仲良くなれた俺の唯一の男友達だ。


 そう、男だ。一瞬美少女と勘違いしてしまったが彼は正真正銘男である。


 目鼻立ちやら背格好やら声やら仕草やらが妙に女っぽくて、初めて会った時はしばらく女子だと思っていた。


「元気ないね、なんかあった?」


「俺はいつもこんなもんだろ」


「……まあ、そうだけど」


 少し心配そうにこちらの顔を覗き込む。


 くりっとした目に端正な鼻、小柄な体躯にぷっくりした唇。うん、どこからどう見ても男ではないな。

 まあ男じゃなかったら友達になんてなれていないのだが。


「……なあ友一、嫌われてる女子と仲良くなるにはどうしたらいいと思う?」


「どしたのいきなり」


「あー、んー、まあ実は新しい友達が欲しくてな」


 卜返と付き合いたいという話は無闇に人に広げない方がいいと思い、濁す。


「と、友達?」


「ああ、やはり交友関係は広げるべきだと思ってな」


「わ、わかんないよそんなの、ボクだって翔気しか友達いないし……」


 そうだった、こいつも俺と同じボッチだった。


「えー、なんかないのか?」


「そうは言っても……あ!LINEとか?対面じゃないって状況、逆に仲良くなれたりしないかな?」


 友一はピンと指を立てる。


 ……LINEか、この状況からじゃあハードル高いな。

 

 だがしかし付き合うのにLINEも知らないってのはないよな。


 クラスLINEから個人に追加しとくか?


 ……いやダメだそれはキモすぎる。


 うーん、と頭を悩ませていると。


「ねぇ、そんな友達欲しいの?」


「え、ああ、まあ……そろそろ新しい友達欲しいかなって」


「新しい友達……かあ」


 友一が人差し指をつんつんと合わせ、チラチラとこちらを見てくる。とても可愛いらしい。


 だが男だ。


「新しい……さ、友達できても……ボクと遊ばなくなったり……しない?」


 まるで捨てらた子犬のような上目遣いでこちらを見つめてくる。凄く守ってあげたくなる。


 だが男だ。


「大丈夫しないしない、たとえ新しい友達ができたとしても友一とはずっと友達だよ」


 そう言うと友一はぱあっと目を輝かせた。


「よかった!ボク、翔気とはこれからもずっと友達やってもらうつもりなんだからね!」


 にっこりと満面の笑みを讃えたその顔はとても眩しくて、本当に女子のようだった。


 だが男だ。


 ◯


 昼休み


 俺は再び空き教室の前に来ていた。


 昨日はダメだった。明らかに失敗したと思う。


 だがしかし、そう簡単に諦めるわけにはいかない。


 灯子の命が掛かっているんだ。


 俺は意を決してドアを開ける。


「……また来たの?」


 卜返は弁当を食べている最中だった。


 うんざりした様子でこちらを見る。


「昨日はごめん、つけたりして……怖かったよね」


 開口一番謝罪を口にする。


 つけてしまった悪印象はもうどうしようもない、ならばそれを気にしているのは時間の無駄でしかない。

 まずは昨日のことを謝罪し、新たに関係を始めるのがいま俺がすべきことだ。


 見ると卜返は意外だったのか少し目を丸くしていた。


「まあ、確かにキモかったけど……なに?それ言いにきたの?」


「いや……それだけじゃない、ちょっとお話しできたらなって」


 卜返は怪訝そうな顔でこちらを見る。


「昨日フッたよね」


「でも諦められないんだ」


「……はあ」


 大きくため息をつかれた。


「俺も弁当持ってきたんだ、一緒に食べない?」


「無理」


「1回だけでいいから」


「嫌」


「そんな即答しなくても」


「なんでアンタと食べなきゃいけないわけ」


「友達から始めたいっていうか……」


「昨日フッたやつと友達になりたい女子いると思う?」


「……たしかに」


「しかも後つけてきたし」


「うッ」


 正論すぎて何も言えない。


 卜返は呆れたように弁当を食べ続ける。


 会話終了の空気だった。


 だが俺も引き下がれない。


「……でもさ、ここで諦めたら俺ほんとにただのヤバいやつで終わりじゃん」


「それでいいでしょ」


「せめて挽回のチャンスを……」


「ない」


「そこをなんとか」


「なんとかならない」


 ぴしゃりと言い切られる。心が折れそうだ。


「後生だから」


「嫌」


「弁当、卵焼き入ってる」


「だから?」


「……1口あげる」


「ふざけてんの?」


 会話が続かない。


 ていうか全部切られる。


 どうしろっていうんだ。


 すると卜返は箸を置いて、じろりとこちらを見た。


「アンタさ……なんでそこまで来るわけ」


「……好き……だから?」


「意味わかんない」


 卜返は小さくため息を吐く。


 そして数秒黙ったあと


「はあ」


 今度は大きなため息をつき


「……もう面倒くさい、好きにすれば」


 半分投げやりのような感じでそう言われた。


「やった」


 俺は達成感を噛み締めながら、卜返の隣に腰を落とす。


 ここからが勝負所。


 ここで変なことしたらもう終わりだ。恋人なんて贅沢は言わない、まずは友達。そのきっかけを掴みたい。


 俺は真剣な顔で会話を試みる。


「卜返さんってなんでここで1人なの?」


「別に」


「あ、そのタコさんウインナーかわいいね」


「あっそ」


「自分で作ったの?」


「親」


「あ、そうなんだ」


 会話終了。


 気まずい。


 口の中はカラカラに乾いていた。


 俺はぎこちなく水筒に口をつける。


 沈黙。


 卜返は俺など存在しないみたいに弁当を食べ続けていた。


 ……まずい。


 なにか喋らないと。


「きょ、今日は天気いいね」


「曇りじゃん」


「……たしかに」


 うん、今のは俺が悪いな。


 クソ、他に何か……何か話題。


 しかし悲しいかな、俺には女子との会話のレパートリーなぞない。


 というかそもそも、高校じゃ女子と喋った経験自体ほぼない。


 俺は話題を見つけようと必死に頭を動かす。


「あ、あれだね」


「なに」


「その……黄色いカービィの弁当箱、かわいいね」


 卜返の手がぴたりと止まった。


「……見んな」


「あ、ごめん」


「てかカービィじゃないし、ねるねだし」


「ねるね?」


「ねるねるねるねのキャラ」


 あれねるねって言うんだ、初めて知った。

 というかなぜねるねの弁当?


「ねるねるねるね好きなの?」


「別に……週5回くらいで食べてるだけ」


 大好物じゃねぇか。


「高校生でねるねるねるね……」


「なに?悪い?」


 ギロリとこちらを睨まれた。


「い、いや!いいと思うよ!?そういう人もいるだろうしね!全然悪くないよ!?」


 好感度の低下を察知した俺は慌ててフォローに入る。


「……ふん」


 少しだけ会話が続いた。


 だがそこで終わってしまった。


 また沈黙、空気が重い。


 なんで俺こんな面接受けてるみたいになってるんだ。


「……アンタさ、なんでそんな必死なの」


「え」


 卜返は呆れたように頬杖をつく。


「普通ここまで嫌がられたら諦めるでしょ」


「……まあ」


「それでも来るってさ」


 卜返は箸をトンと置きこちらを向く。


「そんなにアタシとヤりたいの?」


 そのくりっとした目でジッと見つめられ、思わず目を背けてしまう。


「そんな、言ってるだろ?卜返さんと付き合いたいんだって……そういうのは考えてない。」


 見ると卜返は意外そうな顔をしていた。


「なに、恥ずかしがってんの」


「高校じゃ、ろくに女子と喋ってないんだよ」


 卜返は俺の言葉にぽかんとした後、ふっと笑った。


「それなのにいきなり告白?なにそれ」


 また少しの沈黙


 その後もちょこちょこ話かけ続けていたが、会話は長くは続かなかった。

 良くて3、4ラリーである。


 昼休みももう終わりかけていた。


 このままではまずい、昨日とまったく変わらない。


 俺が頭を抱えていると


 卜返は弁当を片付け始め、床から立ち上がる。


「帰るの?」


「……」


 俺の質問には答えず、真っ直ぐにこちらに向かってきた。


 ドンと教室に音が響く。


 世界が回った。


 俺は卜返に押し倒されていた。


「……ねぇ、アタシさ、最近たまってんだよね」


「ッ!?」


 急な展開に頭の中が真っ白になる


 卜返は俺に跨るような体勢のまま、ゆっくり顔を近づけてきた。


 その学年、いや学校1の巨峰が少しはだけて、日焼けしていない白肌の部分がチラリと見える。

 

 近い。近すぎる。

 甘い匂いと熱で、まともに呼吸ができない。


「……シよっか」


 制服に手をかけられる。


 艶やかな顔、囁くような声、熱を帯びた吐息。


 纏わりつくような妖しい匂い。


 ダメだと分かっているのに、身体が判断を遅らせる。

 

「……ッ」


 唇が顔に近づいてきたそのとき、灯子の顔が浮かんだ。


 気づくと卜返の肩を引き離していた。


 自制心をフル稼働させる。


「……俺は卜返さんと付き合いたい」


 俺はたぶん顔が赤いと思う。


「でも、そういうのはもっとちゃんとしたい」


 分からない、でもここで受け入れるのは終わりな気がする。


 見ると卜返は驚いたような顔になっていた。


「……ふーん」


 2人とも元の位置に戻って息を整える。


 卜返は弁当を広げ直していた。


「いきなりごめんね」


「……いや」


 気まずい空気が流れる。


 俺は無心で弁当に手をつける。


「アンタさ、なんでアタシのこと好きなの?」


 呟くような質問だった。


「……わかんない」


「は?」


「だから、これから知りたいなって」


 卜返は一瞬呆けた顔になり、その後くすりと笑った。


「なにそれ、普通性格とか見た目って言うんじゃないの?」


「まあ、たしかに」


 そう言いながら、彼女はどこか面白そうにこちらを見ていた。


「アンタ正直すぎ。なに、他の女子にもそんな感じでやってんの?」


「いや、そんなわけ」


「……ふーん」


 なんだ、なぜか距離が少し縮まった……気がする。


 そこで俺はふと友一の言葉を思い出した。


 連絡先……交換


「……卜返さん、LINE……交換しないか?」


「は?」


 突然の申し出に当然怪訝な表情をされる。


 だがここで引くわけにはいかない。


「いや、ちょっとお試し的な?……俺は真剣なんだってわかってもらいたいし……」


 俺は少し顔を赤くしながらも、勇気を振り絞る。


「……」


 無言


 卜返は俺の質問には答えずにスマホを取り出して弄り出した。


 ……クソ、やはりダメか。


 そう思い、少し落胆していると。


「……ん」


 卜返はスマホをこちらに差し出してきた、画面にはLINEのQRコードがあった。


 卜返は頬をぽりぽりと掻く。


「まあ……暇だし」


 予想外すぎて一瞬固まった。


「や、やった!」


「うっさい」


 俺は嬉しさを噛み締めながらそれを読み取る。


「はい、これで友達ね」


「友達か」


「なに、不満?」


 灯子の笑顔を思い出す。


「いや、むしろありがたい……かも」


 卜返はくすっと笑った。


「変なやつ」



 教室に戻る途中、俺は一人でガッツポーズをした。


 告白は失敗した、でも確実に前に進めた。それにLINEも交換できた。


 これならいけるかもしれない。


 昨日はもうどうしようかと思っていたが。10人の彼女、その最初の一歩としては、悪くないスタートだ。

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