浮田家
失敗した失敗した失敗した……!
俺は帰り道、冷静になった頭で今日のことを思い出し頭を抱えていた。
出会って30秒で告白からの放課後ストーキング……
どうかしてんじゃないのか浮田翔気……!
1週間で付き合わなきゃいけないというプレッシャーからか功を焦り意味分かんない行動をとってしまった……!
コミュ障……というか距離感バグも甚だしい。今日1日で黒歴史が何個も増えてしまった。
悶絶しながら脳内反省会を繰り広げていること10分、気づくと家についていた。
「ただいま」
落胆する気持ちを抱えながら我が家の玄関を開けた。
瞬間、ふわっと美味しそうなハンバーグの匂いが鼻をつついた。
……珍しい、母がいるのか。
荷物はそのままリビングに向かう。
「んおー、おっかえりー。飯できてるからさっさと食えー」
そこには母がソファに寝転がりながらテレビを見ていた。足を机に乗せて、片手にはリモコン。
態度だけ見ると完全にダメ人間だが、実は元暴走族だ。
だから一度キレると手がつけられない。
昔、俺が赤点とったテストを隠してたのがバレた時なんて、壁に穴が開いた。
「はーい」
リビングのテーブルに腰掛け、夕食に手をつける。
今日1日の疲れが癒やされるようだった。
「……うまい」
「お、かわいいこと言うじゃねぇか、このこのー」
母はニカっと笑みをたたえ、俺の頭をぐりぐりとしてくる。
……結構痛い。
この人は昔から手加減というものを知らないのだ。
「なあ翔気、最近高校どうよ?」
「普通」
「友達できたか?」
「変わんないよ、2人のまま」
「あー、灯子ちゃんと友一くんだったか?」
「そう」
「じゃあ好きな子は?」
「ぶッ!」
思わず味噌汁を吹き出しそうになった。
「お、いるのか!?分かりやすいなあ翔気よお」
「い、いきなり何だよ!べ、別に好きな子なんて……」
俺は慌てて否定するが、母はにまにまと詰め寄る。
まずい、この状態の母は面倒臭い。
「高校に入って女っ気なんてなかったお前がついに……!誰誰?同じクラスかー?」
「はあ?クソ兄貴好きな子いんの?」
後ろから突然棘のある声が突き刺さる。
振り向くとそこには妹である翔華がいた。
「お、翔華ー!おまえも一緒に当てようぜ、お兄ちゃんの好きな子!」
「いいし、別に興味もないし」
そして翔華はスマホをいじりながら2階の自分の部屋に行った。
俺の妹はフィクションで見るような、ツンデレだが実はお兄ちゃんっ子のブラコン……などではない。
ツン100%のお兄ちゃん大嫌いっ子だ。
昔はてくてくと俺の背中をついてくる可愛い妹だったのに……
「あー、行っちまったー、お母さんかなしい……反抗期つらいぃ」
「俺の方が悲しいよ」
母は翔華に冷たくあしらわれ、とぼとぼと冷蔵庫からビールを持ってきてちびちび飲み始めた。
「なあ、翔気」
「……なに?」
「お母さんはな、嬉しいぞ……翔気が坂本ちゃんのこと吹っ切れて新しい恋ができるんだなって思うと」
「だから別に……」
「でもな」
その瞬間、母の目が変わった。
「お父さんみたいにはなるなよ」
呟くようにそう言った。
……お父さん
その言葉を聞くのは何年ぶりだろうか。
翔子が生まれてすぐに、他の女と不倫して出ていった最低な男。
ほとんど顔も覚えていないし、声だって忘れた。
でも、あの男のせいで母は大変な苦労をしたのは覚えている。
突然夫がいなくなり、家事も育児も仕事も全部1人でやることになった母は朝から晩まで仕事詰めで、一度過労でぶっ倒れて救急車で運ばれてしまったこともある。
今は俺と翔華が手分けして家事を手伝っているのである程度ゆとりは出てきたが、それでも母は今も睡眠時間を削って働いている。
だから俺は今まで父のことを軽蔑していた、恨んでもいた。
だけど、今俺がやろうとしていることは……
「翔気?」
母が不思議そうな顔でこちらを見る。
俺は慌てて笑った。
「うん、ならないよ」
「そうか……そうだよな。悪ぃ、変なこと言っちまって……酔ってんな」
安心したような母の笑顔を見て、ズキンと心が痛んだ。




