れっつすとーきんぐ!
放課後。
夕焼けが校舎を赤く染める中俺は昇降口の柱に隠れるように立っていた。
タイムリミットは70日、1人にかけられる時間は1週間。今日を除けばあと6日しかない。
卜返と距離を縮める方法なんて分からない。
分からないなら、とりあえず動くしかなかった。
しばらくすると卜返が昇降口から出てきた。
短いスカートから伸びる健康的な脚。制服の上からでも分かるくらいスタイルが良くて、歩くだけで周囲の視線を攫っていく。
卜返はイヤホンを耳につけたまま歩き始める。
俺は少し距離を空けて、その後ろをついていった。
これを誰かに見られたら、俺の高校生活は明日から違うジャンルになるだろう。
でも今さら引き返せない。
住宅街、夕方の静かな道。
犬の散歩をしている人と何度かすれ違う。
その時、卜返が急に立ち止まった。
「……あのさ」
振り返り目が合った。瞬間、背筋が冷えた。
めちゃくちゃ睨まれてる。
「いつまでついてくんの」
「……」
「何か用でもあんの?」
低い声。
本気で機嫌が悪い。
「いや、その」
「なに?」
圧が強い。
昼休みの時よりずっと冷たい。
「……帰る方向同じかなって」
「今まで登下校でアンタ見たことないけど」
「……」
「つけてきたってこと?」
「……はい」
「キモ」
即答だった、胸に刺さる。
でも反論できない。
「ていうかさ」
卜返はイヤホンを外しながら言った。
「昼も言ったけどアンタ距離感おかしいよ」
「……そうか?」
「そうだよ」
ため息混じりに言う。
「普通、話したこともない女子にこんなグイグイ来ないでしょ」
「でも話さないと始まらないし」
「限度があるでしょ」
その言葉には、はっきり拒絶が混じっていた。
卜返は俺を警戒している。
当たり前だ。
昨日までほぼ他人だった男が、いきなり告白して、放課後までついてきてるんだから。
客観的に見たら恐怖だ。
「……悪い」
「ほんとだよ」
俺から視線を外し、心底呆れたように言う。
「はあ……アンタもそういう目的?」
「そういう?」
「ヤること」
心臓が止まりそうになる。
「いや」
「別に否定しなくていいって。慣れてるから」
その言い方が妙に引っかかった。
諦めてるみたいな声だった。
「……違う」
「はいはい」
「違うって」
少し語気が強くなる。
卜返はうんざりした顔でこちらを見る。
「なにが違うの」
「俺はちゃんと……」
言いかけて止まる。
ちゃんと、なんだ。
好き?
いや、違う。
俺は灯子を助けるために卜返に近づいてる。
「……はあ」
言葉が出ない俺を見て、卜返は冷めた目をした。
「ほら、結局答えられないんじゃん」
「……」
「アタシさ、そういうのほんと無理なんだよね」
スマホをポケットにしまう。
「アンタみたいな最低なやつ」
ズキッと胸が痛んだ。
その通りだった。
俺は最低だ。
卜返に邪な気持ちで近づいていることは変わりないんだから。
なのに、それでも。
俺は拳をぎゅっと握る。
「……でも俺、卜返さんと仲良くなりたい」
「だからなんで?」
「……好きだから」
嘘をつく。
「……好き、ね」
卜返はイラついたように髪をかき上げた。
そして。
はっきり言った。
「普通に怖い」
卜返はそのまま踵を返す。
「次やったらマジで先生に言うから」
それだけ言って歩いていく。
夕焼けの中、金髪だけがやけに目立って見えた。
俺はしばらく、その背中を見送ることしかできなかった。




