男嫌いの黒ギャル
◯1日目(木曜日)
キーンコーンカーンコーン
4時間目の終業ベルが鳴り響き、生徒たちは席を立ってそれぞれ仲の良いグループで集まり始めている。
しかし俺は机に突っ伏しながらスマホを見つめていた。
俺は昨日艶事主命に10人と浮気するという試練を課された。
しかも1人にかけられる時間はたったの1週間。思わずため息が出る。
家に帰るとスマホに知らない番号から着信があった。
『はっあーい♡おまえの大好きなアタクシ様だわよん♡近くに共鳴体いたわ♡同じクラスみたいだしウォーミングアップに丁度いいわね♡』
付き合う子は俺が適当に選んだ子ではなく、共鳴体という存在で毎回艶事主命が情報をくれるらしい。
そこで1人目のターゲットとして写真が一緒に送られて来たのだが、そこに写っていた女子を見て俺は軽く絶望していた。
くるくるした金髪の髪に健康的に焼けた小麦色の肌、まつげは長く唇はピンク色。
学校はメイク禁止なので薄めのメイクだが、かなりの美少女。
卜返愛……うちのクラスの黒ギャルだ。
クラスの中心的な陽キャグループの一人であり、教室の隅で寝たふりして過ごしてるような俺とはほど遠い存在。
そして何より目を引くのがその豊満な胸、高校生とは思えないその2つの巨峰は推定Hカップ。
その露出多めな服装も相まって男子がちらちら視線を送る理由が嫌でも分かる。
……思ったよりも人選に問題がある。
どこがウォーミングアップなのだろうか。どう考えても俺が1週間で付き合えるような相手ではない。
それに彼女の周りにはいつも同じグループのヤンキーやギャルがいて休み時間に話しかけようとしても無理だ。
現に昼休みのいまも陽キャグループでおしゃべりして……あれ?
よく見るとグループの中には彼女の姿が見当たらなかった。
トイレにでも行ったのだろうか。
いや、思い返してみればここ最近昼休みに教室で彼女をあまり見かけていない気がした。
教室を出て外を確認すると、ちょうど弁当をもってどこかへ行く卜返の姿が見えた。
俺は見失わない、それでいて見つからないような絶妙な距離を保ちながら尾行した。
ストーカーではない、たぶん。
しばらく歩くと彼女は人気のない空き教室に入っていった。
ドアからそっと教室の中を覗くと彼女は一人で弁当を食べていた。
褐色の肌に、昼の光がやけに映えていた。派手な金髪も、誰もいない教室だと少しだけ寂しそうに見える。
なぜグループの友達と食べないのだろうか、いつも教室で仲よさそうに騒いでいる印象だったのだが。
……思うところはあるがこれはチャンスだ。
グループのヤンキーもギャルもいない今なら話しかけられる。
やるしかない、やるしかないんだ。
俺は自分に活を入れるように頬をパンと叩く。
まずは普通に会話だ、会話。
よし。
俺は力を込めてドアを開けた。
卜返は一瞬びくっとしたあと、すぐに怪訝そうな顔でこちらを見た。
「……誰?」
距離、遠いな。
でもここで引いたら終わりだ。
「俺は同じクラスの浮田翔気。ちょっといいかな?」
「いや、よくないけど」
即答だった。
だが、帰らない、帰らないぞ。
「なんでここで一人で食べてるの?」
「は?別によくない?」
「いや、なんか意外だなって」
怪訝そうな顔は変わらない。
俺は一歩前へ足を踏み出す。
「俺も……一緒に食べてもいいかな?」
そう言うと、卜返は少しだけ眉をひそめた。
「……あんたさ、距離感おかしくない?」
「そうか?」
「そうだよ。普通もっと遠慮するでしょ」
「でも遠慮したら話せないし」
「……は?」
一瞬、卜返が言葉に詰まった。
その隙を逃さず、俺は続ける。
「俺、卜返さんのことちょっと気になってるんだよね」
「はあ!?」
弁当の箸が止まった。
「……なにそれ、意味わかんないんだけど。食べたいなら1人で食べれば?アタシは別のとこで食べるから」
そう言い卜返は弁当を片付け席を立ち、教室から去ろうとする。
まずい、このままだと何もできないまま昼休みが終わってしまう。
艶事主命の言葉を思い出す「灯子の寿命は残り70日」。
1日、1秒だって無駄にはできないのに……
冷や汗が背中を伝う。
「ま、待って!」
気づくと呼び止めていた。
ドアに手をかけていた卜返が振り向く。
「まだなんかあんの?」
どうする、どうする。呼び止めてしまったものの何も引き留める話題なんてないぞ。
「あ、あの……」
俺は頭を下げる。
「好きです、付き合ってください!」
卜返は俺をジッと見て、ため息を吐く。
そして冷たい声で言い放った。
「急になに?アタシたちほとんど話したことないよね」
弁当を片付け、教室を去る。
「アンタもどうせ噂聞いてきたクチでしょ?ほんと無理だからそういうの」
ドアをバンっと閉められた。
誰もいなくなった教室では無音が圧をもち、閉まったドアの音だけが、やけに大きく残った。
……終わった。
◯
卜返は廊下を歩きながらため息を吐いた。
「またか」
今月に入って告白されたのは既に2人目だった。
最近なぜか変な噂がたっていてヤリモクの男がよく接触してくるようになっていたのだ。
まったくうんざりする。
男というものはみんな同じ目をしている、アタシのことを見てるフリして……本心は違うのだ。
中学生の頃の記憶が蘇る。
「……チッ」
嫌なことを思い出してしまった。
どうせ今回も同じだろう。
そう確信している。だが、同時に違和感もあった。
今回は、なんか……ずいぶん何も取り繕わない告白をするヤツが来たな。
「……何考えてんだか」
少し浮かんだ違和感を頭を振って消した。




